見出し画像

四角は豆腐、豆腐は白い


 卒業式の練習中、周りの目をうかがいながら、はりつめた背中をそっと甘やかしてあげた。椅子の背にもたれるとき、必ず背もたれがあるという無意識の確信がある。
 大学受験を周りよりひと足早く終えた私は、恩師のすすめである寺を訪ね、雪山で帰りのバスを待っていた。そこには、千三百年にたった二人だけが成し遂げた修行を成功させたという僧侶がいるらしい。

「まだ進路が決定していない人の前で自車校がどうとか、引っ越しがどうとか言わないでください。先生は無神経だと思います」
と、校内放送で叱られる張りつめた空気の学校。
マニュアル免許を取ることと進学先での物件探ししか目下の目標がない私。
もしかしてマリッジブルーってこんな感じなんだろうか。合格通知をみとめた瞬間に、IDから「じゅけんせい」が消えていく。
私たちは決まっていないことに対しては迷うことを許されている。選ばなければ、分岐した先の責任を負わなくていい。
ただ恩師へのお土産に、御守りを一体授かっただけで、説法もろくに覚えていないし。
もたれる背がない! こんな自分に背中を預けたくない。ということは自信がない、自信がないというのは無責任、無責任な自分が選んだものが素敵かどうか、こちらでは判断しかねます。
さよなら三角またきて四角、四角は豆腐、豆腐は白い、白いは車窓の雪景色。
一般入試を控えているこ、推薦を取り消されたこ、浪人が決まったこ。子、個、孤。への字に弧を描く私の口。先生は無神経だと思いますか。

 加速度的に勢いづく雪のせいか、予定から四十分経っても来ない帰りのバス。
目を開けるのが不安なほどの吹雪、吹く雪、雪というより氷の粒が頬を小刻みに傷つける。裸であずきバーの山に身体を埋めたらこんな感じがするだろな。
時刻表という約束を信頼して待っているけど、待つことは毎秒裏切られることだ。次の瞬間は来るかな、その期待は外れたね、その繰り返し。

 来週の合格発表を待っているこ。暖房のついていない教室で単語帳を開くこ。
もう二年も前、私が待ち合わせの時間に起きてしまったあの日。
待っていたあのこを、BPM60で雪山に沈めていた私。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?