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お茶の話

 コーヒーかお茶かときかれたら、ほぼお茶と答える派だ。緑茶がなければ紅茶でもよく、カフェインは気にならない。食事時や日中の水分補給は白湯が基本だが、朝、目覚めてお湯を沸かし、あえて濃いめに淹れる玄米茶は、私にとって一日の始まりに相応しい至福の一杯になる。

 でも、玄米茶が美味しいと思えるのも、やっぱりこの国の気候や食事によるところが大きいのだと思う。なぜなら、シンガポール在住時に愛飲していたのはジャスミンティーやアイアンブッダ(鉄観音)だったからだ。かの国は多民族国家だが華僑が7割以上を占めるため、多国籍料理といえども中華系のアレンジが多く、ひいてはウーロン系のお茶が合うということだったのだろう。それに、あの赤道直下の気候では緑茶は今一つ締まらなかった。日本でも、暑い夏になると香ばしい麦茶が好まれるのも同じ理由からか。

 そこで今日は、旅先で出会ってずっと記憶に残っているお茶について書こうと思う。

 まずは20年以上も前に訪れたトルコから。冬の寒空の下、温かいものを求めて立ち寄った屋台で、先客のテーブルにあった紅茶の耐熱グラスに目がいった。小さめで細長く、中ほどがくびれた独特のフォルムで、銀の小皿のうえにちょこんとのっている。

 その姿がとにかく気になり、屋台のお兄さんに「あれとおなじものをください」と頼んだら、出てきたのが湯気香しいアップルティーだった。期待どおり、銀の小皿にのせられた可愛いグラスの横には、これまた角砂糖をのせた小さな銀のスプーンが添えられていて、それだけで異国情緒たっぷりで、もう十分にエモかった。

 トルコでは、スタンダードな紅茶もこのグラス(「チャイ(紅茶)グラス」というらしい。)でサーブされるとのことだが、私の場合、たまたま先客のオーダーがアップルティーで、屋台のお兄さんがそれを出してくれて本当に良かったと思う。もともと左党で甘いものに興味がなかったため、自分でチョイスするなら選ぶはずもないアップルティーと出会うことができたからだ。

 今でこそ、様々なフレーバーのカフェドリンクが楽しめるようになったが、20年以上も前の日本では、一般的な喫茶店やレストランのメニューには清涼飲料水を除くとコーヒーか紅茶、あってカフェオレ程度だったと思う。当時、トルコの街角におけるアップルティーの「常連」感は、私には本当に新鮮に映った。

 滞在中、カフェや屋台を見かけるとアップルティーの甘酸っぱさが漂ってきて、かじかんだ指先を温めるのにちょうどよいフォルムのチャイグラスも気に入り、何度もリピートした。ただあの美味しさも、イスタンブールの乾いた埃っぽい空気の中だったからこそ、楽しむことが出来たのだと思う。

 さて、二つ目がモロッコ、数年前のことである。「いつか行ってみたい国」の一つだったが、マラケシュ市内のレストランで出てくる料理の砂糖の甘さばかりが際立っていたのと、どの国のホテルに泊まっても絶対に味に間違いがないはずの朝食ビュッフェの洋食メニューまで何か変なにおいがして、とにかく食事が合わないことにうんざりさせられた。食文化の違いから本場のフレンチが楽しめなかったパリでさえ、ムール貝のワイン蒸しやクロワッサン、ワインなど何かしら味覚に合うものがあったというのに、こんなことは初めてだ。

 でも、そんなモロッコでも、仕事の合間を縫って出かけたフナ広場のカフェでようやく小さな出会いがあった。これでもかとグラスに葉っぱを詰め込んだミントティーである(トップ写真)。こちらもすこぶる甘かったが、このビジュアルとパワフルなミントフレーバー、そしてフナ広場の異国情緒に圧倒され、「お茶」つながりでは、思い出さずにはいられない記憶となって残っている。

 そして。なんとこのミントティーとの出会いから、朝食ビュッフェの具だくさんオムレツの変なにおいの正体がミントであることに気づいたのである。ミントと主張はしないまでも、最後にふわっと香るくらいの。きっとこよなくミントを愛する国民性なのだろう。ちょっと納得して、少しだけモロッコを見直してみようかと思ったのを覚えている。

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