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卑弥呼のヒミツは紫陽花

全国的に梅雨入りしました。しとしと降る雨の中,鮮やかすぎない紫陽花の花は曇り空によく似合います。
そんなアジサイですが,気象庁が開花をオフィシャルに観測しているということはご存じでしたか?桜の開花宣言と同じですね。

この観測(生物気象観測)は,2021年から大幅に削減されてしまい,現在も観測が継続しているのは,「梅・桜・あじさい・すすき・いちょう・かえで」の6種類です。これについては以前記事にしています。

梅・桜はお花見をみんな待ちわびていますし,いちょう・かえでは紅葉狩りがレジャーにもなっています。それに対してアジサイは少し地味ではないですか?(そう言ったらすすきの方がもっと地味ですが・・)
なぜアジサイの観測は残されたのでしょうか。

それではアジサイの開花日のデータを見ていきましょう。

下図はアジサイの開花日梅雨入り日をそれぞれプロットしたものです。
※アジサイ開花日は福岡,梅雨入り日は九州北部のデータです。(1983年~)

アジサイが咲いたら梅雨というのイメージがありますが,梅雨入り前に開花した年と梅雨入り後に開花した年は半分半分くらいで,あまり関係がありません。
アジサイの開花日はあまり変動がなく,6月上旬~中旬にに集中しています。

それでは,アジサイ=雨のイメージなので,雨量との関係はどうでしょうか。
下図は5月の雨量とアジサイ開花日の関係を表した図です。

こちらもあまり関係性は見出せません。ただ,グラフの点の上の方は雨量が多いほど梅雨入り日が遅れる傾向があるのでは?とも思わせます。

考えてみると,雨が多い=曇りが多い=気温が低い,という傾向はありますのでもしかしたら気温が関係しているかも知れない!ということで、5月の気温とアジサイの開花日を調べてみたのが下図です。

5月の気温が高いほどアジサイの開花が早くなる傾向が見て取れます。

多くの植物の成長は気温に左右され,野菜や果実では種をまいてからの気温の合計値が収穫時期の目安として使われています。
アジサイも同様にそのライフサイクルは概ね気温によって支配されていると言っても良さそうです。

先ほどの図では5月の気温との関係を見てみましたが,あじさいがいつから花を咲かせる準備をしているか分からないので,今度は春全体(3月~5月)の気温との関係を見てみたいと思います。

この図にも補助線として点線を引いてみましたが,こんな関係があるように見えませんか?
春の気温が平年並み-0.5℃程度であれば概ね6月上旬までにはアジサイが開花します。それよりも低いと急激に遅くなり6月中旬になってしまいます。
つまりアジサイの開花日から春の気温が分かるということです。

実は春の気温はその年の作物がどれくらい取れるかどうかの大きなファクターになっています。このことについては以前の記事でご紹介しました。
(もう一つのファクターは台風の上陸数)

この記事を要約すると,春の気温が高いほどその年は豊作となる傾向があります。現代では計測機器があるので気温の測定結果を利用することができますが,昔はそうはいきません。しかしアジサイの開花日を観測すれば春の気温が分かり,豊作かどうかを予測できるのです。

アジサイは日本原産で万葉集にも登場しているようで,大昔から日本列島に住む人にとっては身近な存在だったのでしょう。
古代日本の統治者である卑弥呼はシャーマンで,将来を予測することを権力の源としていました。卑弥呼は恐らくこの春の気温ー豊作関係がアジサイの開花日で計れることを見抜いていたのではないでしょうか。そしてアジサイの開花日からその年の作物の出来を予言していた。卑弥呼の秘密は紫陽花だったのです。

桜や紅葉に比べて地味なアジサイの開花日予測が現在でもなお残されている理由は,この卑弥呼以来の秘密が受け継がれているからである。

雨の中健気に咲く紫陽花には触れてはいけない歴史のカラクリが隠されていました。それを暴いてしまいうち震えております。


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