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春の気温と台風が豊作を決める

植物は自分で移動できない代わりに自分の成長に必要な物質を作り出す光合成という能力を持っています。光合成のプロセスは光・温度・水など周囲の環境に依存していますので,当然ながら農業は気象と密接な関係を持っています。

ですから気象条件が変われば作物の出来不出来も変わってくるのですが,それがたった2つの要素で説明できてしまうというのが今回の内容です。本当にそうであれば結構驚きではありませんか?
と煽り気味な書きぶりをしてしまいましたが,今回は大多数の野菜に対する平均値のデータを用いたものですので,個別の作物で事情が異なることをご承知おきください。

さて今回元データとして使用したのが下図になります。

これは単位面積1反あたりの収穫量の2000年以降の推移を作物ごとに示したものです。(1反=10a=1000m2※農業界の面積の単位数は1反が一般的)。反収が多ければたくさん収穫できて豊作であることを示しています。
だいこんとほうれんそうでは重さが大きく違い,同じ面積でも収穫できる重さも大きく違うため,単純には比較できないので,数値を標準化する手法を用いて比較できるようにしています。(平均0・分散1に変換)

この図を見ると,2004年と2016年が全体的に低くなっているように見えます。2004年と2016年の気象要素をいろいろと調べてみた結果,この両年は台風の上陸数が多いことが分かりました。(2004年10個,2016年6個)
ということで,各年の台風上陸数と標準化反収の平均との関係を見てみると下図のようになりました。

台風上陸数と反収との間に関係性があるように見えますが,台風上陸数が少なくても反収が下がっている年もあります。

ということでさらに標準化反収を見てみると,2010年も全体的に少ないように見えます。

そして2010年についても気象要素をいろいろと調べてみました。すると春(3~5月)の気温が全国的にかなり低かったことが分かりました。

先ほどは台風と反収の関係図を作りましたが,今度は台風とさらに春の気温と反収の関係を数式で表すために,重回帰分析という手法を使いました。標準化反収を目的変数として,台風上陸数,春気温の平年差(北日本,東日本,西日本)の4つを説明変数としました。つまりは下のような標準化反収を予測する数式を作るということです。
$${標準化反収=a_1(台風上陸数)+a_2(北日本気温差)+a_3(東日本気温差)+a_4(西日本気温差)+C}$$

予測結果を縦軸,実際を横軸にして予測がどれくらいの精度でできたかを確認するために下図を作成しました。

各点が斜め45°の赤い線に近いほど精度が良いということですがいかかでしょうか?結構精度よく予測できているのではないかと思います。ということは,春の気温と台風上陸数でその年の野菜の獲れ高がだいたい分かってしまうということです。

台風は雨もさることながら風が重大ですね。台風以外であれほどの風が吹くことはありません。暴風により作物が倒れたり落ちたりしますし,ビニールハウス等の生産設備にも損傷を与えます。台風が日本の農業の運命を左右すると言っても過言ではないかも知れません。

そして春は,作物生産の最適期にもあたりますし,田畑の準備をしたり,種をまいたり,苗を植えたり農業にとって非常に重要な時期です。この時期の気温が低ければこれらの作業がうまく進まず,収穫量にも影響を及ぼします。
この観点から今年の春の天候を見ると,平均的には平年より高い状態で推移しています。まずはひと安心といったところでしょうか。

冒頭でも記載したように,個別の作物ではさらに条件を細かく見ていく必要がありますが,平均的にはたった2つの要素でだいたい分かるということ,植物がいかに自然に対して素直であるかということを示すとともに,我々人間は自然には抗えないということも示唆しているように思えます。


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