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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(七一、七二)
普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。
教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。
だいたい週一回、まとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。
七一.大納言経信(だいなごんつねのぶ)
夕されば 門田の稲葉 おとづれて
葦のまろやに 秋風ぞ吹く
(ゆうされば かどたのいなば おとずれて
あしのまろやに あきかぜぞふく)
現代語訳
日暮れれば 門田の稲穂 さわさわと
葦の屋根にも 秋風が吹く
英訳
As evening draws near
in the field before the gate
the autumn wind visits,
rustling through the ears of rice,
then the eaves of my reed hut.
draws / drɔz(米国英語), drɔ:z(英国英語)/drawの三人称単数現在。drawの複数形。(軽くなめらかに)引く
rús・tling /ˈrʌslɪŋ(米国英語)/さらさらいうこと、牛泥棒
ears of rice / 稲穂
eaves / íːvz(米国英語), i:vz(英国英語)/(家の)軒、ひさし
reed hut / 葦の小屋
解釈
経信は俊頼の父である。この歌は師賢朝臣の別荘で「田家秋風」という題で歌を詠みあった時のもの。目前の実景に触発される感懐が涼しくさわやかである。経信は定家にいわせると、「末の世のいやしき姿をはなれて、常に古き歌を」求めて、その姿を高くすることを求めていたというが、この一首にはその理想がいくほどか具現されているといえる。経信は公任と比肩されるほどの博学多才で、音楽ことに琵琶をよくした。
「夕されば」は「夕方になると」ですが、こういう表現を現代語がなくしてしまったのは残念です。「夕されば」だけで、静かな夕暮れの光や涼やかな夕暮れの風を感じてしまいます。「門田」は「門の前の田んぼ」で、「丸屋(まろや)」は「粗末な作りの小屋」です。葦を刈ってそれで屋根を葺いているような、当時の「貧乏作り」です。作者は宇多天皇の子孫で、大納言にまでなった源経信ですから、良暹法師みたいな「自分の家の前の風景」であるはずがありません。これは、都を少しはずれた「自分の別荘」に行った時の風景で、「葦の丸屋」の他にも、立派な建物はあるのです。なるほど「豊かな田園風景」のはずです。
感想
「夕されば」は使ってみよう。歌でしか使えない、というわけではないかもしれないけど、歌なら織り交ぜても許される言葉は多い。
七二.祐子内親王家紀伊(ゆうしないしんのうけのきい)
音に聞く 高師の浜の あだ波は
かけじや袖の ぬれもこそすれ
(おとにきく たかしのはまの あだなみは
かけじやそでの ぬれもこそすれ)
現代語訳
名に高い 高師の浜の 暴れ波
いやだわ 寄ったら袖が濡れるわ
英訳
I stay well away from Takashi shore,
where the waves, like you,
are famed for being treacherous.
I know if I get too close to either,
my sleeves will end up wet.
famed / femd(米国英語), feɪmd(英国英語)/名高い、(…で)有名で
treach・er・ous / trétʃ(ə)rəs(米国英語), ˈtretʃɜ:ʌs(英国英語)/裏切りをする、そむく、不忠な、不実な、(…を)裏切って、(…に)不忠で、あてにならない、油断できない、危険な
sleeves / slivz(米国英語), sli:vz(英国英語)/ sleeveの複数形。(衣服の)そで、 たもと
解釈
これは「堀河院艶書合(えんしょあわせ)」の催に「人知れぬ思ひあり磯の浦風に浪のよるこそいかまほしけれ」(中納言俊忠)への返歌として詠まれた。凛呼とした気品と迫力をもって贈歌を圧倒している。「音に聞く」という強いうたい出しも「あだ波」を引き出すにはふさわしく、あだ波はまた相手の「あだ情」を掛けことばとして含み、拒否の姿勢はさわやかに美しい。紀伊はこの時七十歳ほどであった。
「高師の浜」というのは、大阪の南の方の大阪湾沿いです。歌だけ見ると「高師の浜は波が荒いことで有名」とも思えますがそうじゃありません。男を「波」にたとえて、「あんんたの浮気っぽさは有名よ」と言っているだけです。そこに近寄ったら袖が濡れる――つまり「泣きを見る」です。後朱雀天皇の皇女である祐子内親王に仕える「紀伊」という名の女房は、そういう歌を詠んだんです。紀伊は、父親か夫が紀伊守だったのだろうということがわかるくらいで、どんな女性かはわかりません。
感想
人生の中で何人か、好きな人もいて、何人かお付き合いもしたはずなので、恋にまつわる歌も詠めるかもしれない。感情が生まれたときに詠まないと消えてしまいそうにも思うけど、七十歳になっても、色恋のことが詠めるというのは、無理やり思い起こしてまで詠まなきゃいかないことでもないかもしれない。でも、思い出せるうちにもっと詠んでみよう。
※引用図書の紹介
『百人一首がよくわかる』
国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。
『英語で読む百人一首』
百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。
『百人一首 (平凡社カラー新書)』
馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。
いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。