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伝えたいのに伝えられない私

 伝えたいのに伝えられない。
 どう伝えれば伝わるのか、私にはその力がなかった。

 まだ会ったこともないあの方とメール交換を始めたのはいつ頃からだろうか。他愛もない内容でもメールのやりとりは続きました。

 ある日のメールを読み驚きました。
「私、『池にいる鯉の形が分からない』と友達に話したら、その人が私を池に連れて行ってくれて、池に餌をまき近くに鯉を寄せて、その鯉に触らせてくれたんです。そして、その鯉を持たせてくれたんです。私の服はびっしょり。でも嬉しかった。鯉ってこんな感じなんですね」と。その頃のメールのやりとりであの方が全盲だと知ったのです。
 メールはどうして打てるのかと聞くと、読み上げ機能があってメールを読むことができること、そして入力もパソコンはしてくれると教えてくれたのです。

 自分では気づかなかったのですが、それからしばらくしたある日、「今までのメールに比べると硬い言い方に感じるよ」と返信がきました。
 知らぬ間に、自分が見たものをどう文字にして伝えたら良いのかと意識していたことに気づきました。

それからもメールは続きました。

 ある日、「今日は富士山に雪が積もって綺麗ですよ。富士山はやっぱり雪が積もって綺麗さを増します」とメールをしたのですが、その返信がしばらくなかったのです。
 そして届いたメールは「とても富士山が綺麗でしょうね。心の目で見ています。でも富士山ってどんな形なのかわからないんです」と。

富士山の形を文字でどう伝えることができるのだろか。
私には言葉の力がなかった。


九州の方とメールのやり取りを始めて、もう2年以上。頻繁にメールを送りあっているのではなく、毎月1回ほどのメールのやり取り。

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