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先っぽ|「料理屋さんのお弁当」を目指して一つひとつ丁寧に

乃木坂しんでは、お弁当の予約販売をしております。2020年4月に最初の緊急事態宣言が東京都に発出されたなかで始めたお弁当の販売でしたが、お客様に好評で、現在まで続いている人気商品です。

このお弁当にも乃木坂しんの「おいしい料理を届けたい」という思いがたくさん詰め込まれています。その思いを料理長の石田伸二が語ります。

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料理屋と仕出し屋の仕事はまったく違う

――乃木坂しんでお弁当を始めたのは最初の緊急事態宣言の時からですね。

去年の4月に緊急事態宣言が出て、外食ができなくなったお客様に、何かお届けできることがないかと始めたのがお弁当でした。おかげさまで5月と6月で毎月100個のご注文をいただき、ご自宅での不自由な日々に、少しでも料理で喜びの時間をつくれたかなと思っています。

料理屋さんなんだから、お弁当も簡単ですよね」と思われるかもしれませんが、古くから日本には、料理屋と仕出し屋という2つの業態があるように、それぞれが別の専門性をもって発展してきました。両社の間には「まったく別の料理」と言っても過言ではないほど違いがあり、簡単には両立できないもの。そのため乃木坂しんでは、お弁当をやってこなかったんです。

料理屋は、基本的に作りたて料理をゆっくりと召し上がっていただく場所です。料理の盛り付けが際立つ器に盛り付けて、料理の説明やおすすめの食べ方などをご説明することもできます。つまり、私たちの方で料理や環境がお客様にとって最適になるようにコントロールしながら召し上がっていただける場所だということです。

しかし、お弁当は出来上がってお店を出てからは、まったく私たちが関与できません。持ち帰り時間が20分なのか2時間なのか、さらにはどんな交通機関を利用するのかによっても、お弁当の状態は変わっていきます。さらにどんな場所で保管され、いつ召し上がられるのかも、お客様ごとに変わってきます。

――つまり、お弁当は食べるまでのお客様ごとの変数が多いので、お店で食べるよりもサービス体験にバラつきがでやすいというわけですね。

そうなんです。ですので、お店で出している料理をそのまま詰め込めばいい、というわけではまったくないのです。

たとえば、炊き物などはお店で出しているものをそのまま盛り付けたら時間が経つと味がダレてきてしまって、ぼんやりとわかりづらい味になってしまいまがす。ですので、基本的には炊き物はお店よりは味を強くして、時間が経ったおいしさを感じてもらう味付けが必要だと思っています。

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――確かに老舗の仕出し屋さんのお弁当は、全体に味が濃い目、色味も茶色いですよね。

醤油で味をしっかりつけているからですよね。それに、しっかり塩や砂糖で煮て、しっかり火入れしておけば腐りにくくなります。

かといって乃木坂しんも同じようなお弁当を出すのも何か違うかなと思うんです。やはり、お客様に召し上がっていただくためには「料理屋の乃木坂しんが作ったお弁当」の必要がある。それは何かというと、店で出す料理と変わらず「素材の味を伝えること」だと思っています。

そういった思いもあって、強い味付けで統一するのではなく、たとえば炊き物でいえば、お店で出す味に近い淡い味とお弁当用の強い味で強弱をつけるようにしています。

また、生ものもまったく入れないわけではなく、お造りを漬けにして作った手毬寿司や、昆布締めや酢締めにしたお造りなど、当たり前のことですが塩や酸味を加えて痛まないような工夫をしていますよ。

――それでも店で出すものとは別にお弁当用の炊き物を作らなければいけませんよね。

そうですね、今月でいったら、店の献立の八寸に入れている蓮根のきんぴらや白和え、鮎の塩焼きに添えているインゲンの蓼酢和えなど一部店で出しているものも盛り込みますが、大半はお弁当用に別に仕込みます。

とはいえ仕込むための厨房は一つ。店の通常営業を続けながら、お弁当の仕込みも同時に行っていくのはなかなか困難なことです。厨房のオペレーションは慣れないと難しいところがあります。

――これまで仕出し屋で働いたような経験があったのですか?

徳島で働いていた料理屋さんでは、店の仕込みや営業をしながら、それこそ相撲弁当といって、徳島に大相撲の地方巡業があるとそこで配るお弁当を何百個も作るような店でした。その経験がなかったら、乃木坂しんでお弁当を続けられなかったと思います。

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お弁当は食材の切り出しから始まっている

――お弁当を作るうえで、先ほど味を強くするということを挙げましたが、ほかにも気を付けていることはありますか?

そうですね、びっしりとお重やお弁当箱に詰めるということですかね。僕の場合は、揺らしてもずれないくらいにびっちりと詰めています

それは、もちろんたくさんお料理を詰め込むことで喜んでいただきたいということもありますし、隙間を作らないことで、崩れたり寄ったりしない、店で盛り付けた状態でお召し上がりいただけるということでもあります。

一方で日本料理なので、見た目が綺麗でありたいとも思っています。お弁当なのでどうしても色味が茶色くなりがちですが、そのなかでも緑や黄や赤を入れて、彩りよく盛り付けたいと思っています。

――盛り込むのにコツがあるんですか?

それには仕切りがあるお重を使わないのがポイントです。

それによってお弁当の献立が変わっても自由に盛り込めるんです。もちろん、炊き物と焼き物の間にハラン(バランとも)を切って挟んだり、炊き物のように汁気があるものはしっかり紙で吸わせたり、白和えのようにまわりの料理と混ざってしまうものはカップに入れてから盛り込んだりしています。

ただこの盛り込み方の欠点は、お重を並べて流れ作業で、料理一種類ずつを1人の担当が盛り込んでいくことが難しい。お弁当一つひとつをつきっきりで仕上げていかないといけないので時間がかかってしまうことですかね。

じつはお弁当は、食材の切り出しから始まっているんです。たとえば、魚の切り出しもお弁当に盛り込めるように寸法を考えて切り出していかないと、「アレ、入らない」とか「スペースが足りないぞ」みたいなことで、どんどんロスが出てしまうんです。

ですのでお弁当の全体、もっというと店での献立を含めて全体が見えていないと難しくて、そういう意味では店のスタッフになかなか教えにくい。たとえば、魚の焼き物を重ねて盛り込むときなどは、腹と背で厚さが異なる部分をうまく重ねて安定させたいんですね。飛さん(飛田泰秀、乃木坂しん オーナー 支配人兼ソムリエ)には、「テトリスみたいにぴっちり詰めるね」って言われるくらいです(笑)。

それで、出来た隙間に重ねた焼き物が動かないようにきんぴらとか、おかか和えといった形が決まっていないものを盛り込みます。

僕の場合は、お重の上から盛っていった方が詰め込みやすいですね。上に押し込みながら、手前に手前に盛っていけるんで、作業がしやすいですね。

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――形を保つように、たとえば寒天やゼラチンを使うとか、変色しないように色止めの食品を入れるとかはしないですか?

そういうことは一切しないですね。そのためお弁当は、16時以降にお引き取りか配達先に向かうことにして、その日のうちに召し上がっていただくようにお願いしています。

お弁当はお店から出た瞬間から僕たちは、何もできないんです。ですから、お客様や配達員の方に渡すまでに自分たちがどこまで気遣い、お弁当を作り上げることができるかが大事だと思っています。

その日の気温を見て保冷剤をつける数を増やしたり「ご自宅では温度が高い場所を避けてくださいね」「もしお召し上がりが翌日になるようなら冷蔵庫に入れて食べる前に電子レンジで軽く温めてください」というようなことを、一言添えてお渡しすることも大切だと思います。

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――お店でお客様にお出ししているのとは違い、お弁当は反応をみることができないですよね。良かったのかどうだったのか、不安になったりしませんか。

これまで話したようなことをしっかりやり切っている、自分としては自信を持ってお届けできていると思っているので、不安はありませんね。もちろん、何かお客様にご指摘いただければ改善していきたいと思っています。

去年からお弁当を開始して、お客様には「おいしいね」と言っていただいていますし、何回も注文してくださったり、離れたご家族に渡したいと言ってくださるお客様もいらっしゃったりするのが、なにより自信になりますし、今お届けしている内容はそんなに悪くないんじゃないかと思ってもいます。

乃木坂しんのお弁当は3種類

三段重会席弁当(遊山箱入り、2人前)
  25,000円(税込) ※3日前までのご予約
二段重会席弁当(1.5人前)
  15,000円(税込) ※前日までのご予約
一段重会席弁当(1人前)
  5,000円(税込)

三段重会席弁当(遊山箱入り)

石田料理長の故郷・徳島県の伝統的な重「遊山箱」に季節の食材をふんだんに盛り込んだ豪華な三段重です。お重はすべて手作り、徳島阿波和紙のルーツになったといわれるいんべ紙で貼り合わせてあります。かわいらしい仕上がりですよね。

遊山箱は、徳島県では桃の節句や端午の節句などに、子どもたちがこの重に料理やお菓子を詰めて、海や山に遊びにいっていたそうです。江戸時代にあったようですが、昭和にはなくなり、石田料理長自体も見たことはないそうです。

一の重には、酒の共になるような料理を詰め込んでいます。

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写真は、ある日(葉月、8月)の献立は以下のような内容になっています。

一の重(ある日の例)
・アオサ海苔玉子焼き   ・伊達鶏くわ焼き
・鮎唐揚げ        ・メイチダイの昆布締め
・昆布          ・鱧の揚げ煮
・毛蟹と無花果の白和え  ・インゲン豆の蓼酢和え
・牛肉の焼き煮      ・新蓮根きんぴら
・ニガウリのおかか和え

二の重は焼き物と炊き物です。

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二の重(ある日の例)
・カマス塩焼き   ・赤むつてり焼き
・煮穴子      ・伊勢海老黄身焼き
・茗荷甘酢漬け   ・薩摩芋甘露煮
・椎茸       ・大徳寺麩
・茄子       ・ミニトマト
・冬瓜       ・小芋
・万願寺唐辛子   ・南瓜
・絹さや     ・蛸小豆煮

三の重はお食事です。

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三の重(ある日の例)
・ちらし寿司
蒸し鮑、鮪漬け、車海老つや煮、錦糸卵、胡瓜

三段重を遊山箱に収めて箱に入れ、風呂敷で包んでお届けいたします。

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遊山箱はしっかりとした作りのものですので、お弁当を召し上がられたあとも繰り返し使っていただけます。

2名様分の内容ですので、お酒を飲みながらゆっくりとご自宅での時間を過ごしたいという方にぴったりの内容になっています。

遊山箱は、YouTube「乃木坂しんチャンネル」でもご紹介していますので、こちらも合わせてご覧になってみてください。

遊山箱は、YouTube「乃木坂しんチャンネル」でもご紹介していますので、こちらも合わせてご覧になってみてください。

二段重会席弁当

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遊山箱の内容からお料理を少なくして二段に盛り込んだ内容です。

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こちらもある日(葉月、8月)の献立の例をご紹介します。

【口取り】
・カマス塩焼き     ・赤むつてり焼き
・鮪てまり寿司     ・青海苔入り玉子焼き
・枝豆         ・インゲン豆の蓼酢和え
・伊達鶏くわ焼き    ・新蓮根きんぴら
・鱧の揚げ浸し     ・ニガウリのおかか和え
・牛肉の焼き煮     ・茗荷甘酢漬け
・毛蟹と無花果の白和え ・揚げ進上
【香の物】
・昆布佃煮       ・コリンキーの漬物
【ご飯】
・焼き穴子とトウモロコシご飯
【炊き合わせ】
・蛸小豆煮       ・椎茸
・大徳寺麩       ・南瓜
・茄子         ・煮鮑
・冬瓜         ・トマト
・絹さや        ・小芋
・万願寺唐辛子

二段重は、お一人様ずつ召し上がっていただくためのお弁当です。男性の方にはお酒を飲んでお食事までお楽しみいただくのに十分な量ですが、女性の方には少し多いかもしれません。

その場合は、翌日の朝ごはんのおかずにしていただくなど、翌日まで十分楽しんでいただけますので、ぜひお一人1個でお楽しみいただきたいです。

一段重会席弁当

一段重はお昼のお食事などにぴったりな、二段重をよりコンパクトにした内容になっております。

ご予約・お受け取り方法

ご予約は、店舗に直接お電話(☎03-6721-0086)ください。

また、乃木坂しんのサイトでもご予約を受け付けております。サイト内の「ご予約/Reservation」のページから外部の予約サイトに移動していただき、店舗予約ページの下の方に、下の画像のようなお弁当のご注文フォームがあります。こちらからご注文下さい。

サイトイメージ

お引き取りは、ご予約日の16時以降に店舗に直接お受け取りにいらしていただくか、中央区、千代田区、渋谷区、新宿区、目黒区、品川区であればMKタクシー様のデリバリーサービスをご利用いただくこともできます(別途料金、2500円~)。ご注文の際にお問い合わせください。

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デリバリーサービスのご紹介

乃木坂しんのお弁当をお取り扱いいただいているデリバリーサービスをご紹介いたします。※店頭販売分とは価格が異なりますこと、ご承知ください。

BUTLER TOKYO様

皆様のステイホーム、おうち時間が少しでも豊かな時間になりますように。引き続きお弁当の販売を続けてまいります。ご利用お待ちしております。

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乃木坂しん
東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂1F
☎03-6721-0086
ランチ(水〜土) 12:00〜15:00(13:00LO、*前日までの予約制)
  おまかせ10,000円、15,000円、18,000円
ディナー(月〜土) 17:30〜23:00(21:30LO)
 おまかせ 15,000円、18,000円、28,000円
※消費税、サービス料10%別
※緊急事態宣言中などは、夜の営業時間を変更して営業しておりますので、店舗までお問い合わせください。

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次回のnote更新は石田料理長の「煮炊きの12カ月」の第6回です、お楽しみに!

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編集・執筆=江六前一郎
編集協力=吉川大智

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