冬にむけて、食材が力強くなっていく
11月は、霜月や雪待月などと呼ばれる秋から冬への変わり目になる月です。これから日に日に寒さが増していく時期でもあります。年末に向けて忙しい日々も続くと思いますので、どうぞみなさまご自愛ください。
こんにちは、乃木坂しんの店主、石田伸二です。
食材が力強くなってきたからこそバランスを大事に
11月6日に、北陸・山陰地方でズワイガニ漁が解禁になりました。メスのセコガニ(香箱ガニ)は12月末まで、オスの松葉ガニは3月20日まで漁が続きます。
ズワイガニ漁がはじまると、冬が来たと感じます。じっさいに寒さが増してきて、一つひとつの食材のうま味や力強さが増してきたように思います。そのため、献立を考えるときでも、過度な調理や別の食材を足すのではなく、その食材の良さを引き出すことをこれまで以上に考え、味のバランスを整えていくような意識で考えるようにしています。
お話ししていることは先月と同じことなのですが、今月は、より食材の味が強くなってきているだけでなく、蟹を使った恒例の料理や、お椀、お造りはこれまでやってきたことを、より良くしていくことが多くなっています。なおさら、バランスをとるための微調整が大事になっていきそうです。
ぜひ、冬を目の前にした食材の力強さを、乃木坂しんのお料理で感じてみてください。
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先附|焼き雲子と菊芋すり流し
雲子は、鱈の白子(精巣)のことです。12月からはフグの白子が本格的に始まりますので、毎年11月は雲子をお出しするようにしています。
雲子は、温めるよりも焼いた方が香ばしくて、独特な香りをうまくマスキングしてくれるとも思っています。
また、寒くなってきていますので、温かい料理から献立をはじめたいと考えるなかで、もちろん茶碗蒸しでもいいのですが、何か新しいものをと思い、温かい菊芋のすり流しと合わせています。
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前菜|香箱蟹 2種仕立て
2年前は、手毬ずし、昨年はバッテラ寿司と甲羅盛りの2種盛りと、お味だけでなく、見た目でもお楽しみいただけるような仕立てにしてきました。
今年の仕立ても、工夫をこらしています。
酢飯とあわせた香箱蟹の蒸し寿司の甲羅盛りと、ほぐし身の甲羅盛りを、半分にわって、お互いの一方を入れ替えて、1杯分の香箱蟹に見立ててお出ししようと思います。写真はありませんので、ぜひじっさいのお料理はお店で確認してみてください。
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椀物|甘鯛松笠焼き、蕪、春菊、松葉柚子
甘鯛松笠焼きも、毎年続けている11月のお椀です。甘鯛の鱗を落とさずに熱した油をかけて、逆毛立てるようにした姿が、松笠、いわゆる松ぼっくりのように見えることから松笠焼きと呼ばれています。
お出汁で炊いた蕪と春菊、松葉柚子を合わせました。
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造り|もみ鯛、洗い海苔、山葵、赤蕪甘酢漬け
お造りは、へぎ切りにしたり、薄造りにしたり、切り身の厚さを変えることで、食べる人の咀嚼する回数も変えてうま味や風味の感じ方を変えていくことで、その魚の良さを伝えることをいつも意識しています。
今月の鯛は、塩をもみ込んだ「もみ鯛」にしています。塩をもみ込むことで味付けをしているのはもちろん、表面がねちっとした食感にもなります。これが舌にあたることにより、鯛のうま味を感じやすくしているのです。
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強肴|鰆の昆布〆、イクラ醤油漬け
おろし和え
鰆の昆布〆は、今年初めてやってみました。ほかのお店でもあまり聞いたことがないのではないでしょうか。大根のおろし和えにしたいと考えていたときに、漬けだったり、炙りやタタキにしたことはあったので、何かおもしろい仕立てをと考えたときに、昆布〆が浮かびました。
とくに昆布〆にできない魚はなく、魚ならなんでもできると思いますが、それよりもどんな具合に昆布の風味を魚につけていくかを考えておこなうことの方が重要だと思っています。
たとえば、今回の鰆では、全面に昆布の風味をつけるのではなく、ふわっと香る程度にしたい。また、昆布〆にすると、表面の水分が抜けていくので、生とは違った食感が生まれます。それによって舌で感じるうま味も変わっていきます。
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焼き|松葉蟹、スダチ
今年は、10月に京都府の日本海側に位置する京丹後市に行ってきました。
間人ガニで知られる、ズワイガニの産地で、現地の魚屋さんとも知り合うことができ、よい松葉蟹(オスのズワイガニ)を仕入れられそうです。
焼き松葉にするか、茹で松葉にするか。どうぞお楽しみに!
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八寸|うざく、海老芋カラスミ、ほおずき、
クワイチップ、丸十さっぱり煮、酢蓮根、
柿と大徳寺麩の白和え
「乃木坂しんの味をいろいろ楽しんでほしい」という思いを込めて作っている八寸。今月もいろいろな食材をとり揃えました。
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温菜|鰤と焼き葱、天然キノコ出汁
じつは、今月の献立でもっとも苦戦したのがこのお料理です。
天然キノコがたっぷり入った熱々のお鍋。なのにそのなかの鰤の身は、火が入りすぎてパサパサになっていない、半生。そんなイメージの料理です。
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食事|百合根と鯛の玉子とじ
鰹の漬け、そば米雑炊
お食事は、上の3つのなかから選んでいただきます。お腹に余裕があれば、少量ずつ全種類のご注文もできますので、ご遠慮なくお申しつけくださいませ。
毎月変わる卵とじは、今月は百合根と鯛です。当初は、百合根だけの玉子とじにしたいと思っていたのですが、それだけではやや物足りない味になったので、お造りで出している鯛で頭や切れ端が残るので、それを炊いてほぐし身にしたものを加えています。頭の部分は、ゼラチンや脂がたくさんあるので、玉子とじにぴったりなんです。
食材をできる限り使いきりたいという思いも詰まった、サステナブルな玉子とじです。
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菓子|栗あんみつと栗アイス
水わらび(ラ・フランス)
白玉と煮小豆、栗の甘露煮と糖蜜と阿波晩茶の2種類の寒天のあんみつに、自家製の栗アイスをのせてあります。
栗のアイスは、毎年評判が良くて、プロの方からも「しんさんの栗のアイスクリームが、今まで食べたもののなかで一番おいしい」と言ってくださるほどです。ですので、作り方は企業秘密です。というのは嘘です(笑)。
作り方は簡単で、栗を剥いて蒸して火入れして裏漉したものをバニラアイスに混ぜるだけです。作り方は簡単ですが、原価はしっかりとかけていますので、おっしゃる通り栗のアイスはおいしくできていると思います。
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今月も、魅力的な様々な食材を取り揃えながら、みなさまのご来店を心よりお待ち申し上げております。
「乃木坂しん」店主 石田伸二
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構成・文・撮影=江六前一郎