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スタッフと一緒に茨城県の産地を巡った「大人の遠足」

店主の石田伸二は、毎週日曜の定休日を利用して産地を訪れて一次産業を学び、生産者さんと交流を深めています。石田が「大人の遠足」と呼ぶこの産地訪問、6月上旬には、2月に続いて2度目になる茨城県の産地巡りをしてきました。

普段は、石田一人でまわったり、支配人の飛田泰秀とまわったりすることが多いですが、東京から近い茨城県は、車で2時間も移動すればたいていの産地に行けることもあり、普段産地に行けない厨房やサービススタッフと一緒にまわるようにしています。

今回は、サービススタッフの小出三津子と厨房スタッフの山口明華が参加。梅雨の中休みで天気もまずまず。新宿を8時半に出発して茨城県の大洗漁港を目指しました。

3本の一級水系が注ぐ茨城の海は好漁場|魚忠

大洗は、茨城県中部の太平洋に面した町で、海岸線はゆるやかな砂浜が続いており、海水浴やサーフィンの盛んな地、県内屈指の海のレジャースポットです。町内には港もあり、毎朝競りが行われています。

乃木坂しんの定休日である日曜を利用した訪問ということもあり、残念ながら競りはお休み。そのかわり町内の魚屋さんである「魚忠」の今関雅好さんのもとを訪ねます。

大洗漁港では船曳や底引きといった漁法が主流で、ほとんどが5t程度の小型船で漁にでかけます。そのため、近海での漁が主流。魚種は、シラス(カタクチイワシ)が有名で、ほかにも鹿島灘の蛤、イワシにヒラメ、カレイ、スズキ、鯛などが港に揚がります。

良い漁港は森が近いっていわれるでしょ。山の栄養が海に流れ込むからよい漁場になるというのだけど、それなら茨城の海の近くには森がないから、よくないんですか?って聞かれるんですよ。だけど茨城の海には、全国に109ある一級水系(国土保全上又は国民経済上特に重要な水系のこと)のうち3本が流れ込んでいるです。北から久慈川、那賀川、利根川。これが森の代わりに海に養分を運んできてくれるんですよ」と今関さん。スズキやマコガレイなどは、どこに出しても恥ずかしくないものだと胸を張ります。

都内まで宅急便で発送も可能で、送料を安くするなら豊洲の市場止めもでききると今関さん。活魚は神経抜きをしてから発送しているとのこと。大洗漁港の競りは、朝9時30分からスタートするということで、11時にはその日の魚が揃うといいます。

前もってほしい魚があれば言っておいてくれたら、買っておくよ」と今関さん。「ありがとうございます。僕も一度で、あれこれいうつもりはなくて、できるだけ長くお付き合いさせていただくなかで、大洗の魚のことを知っていきたいと思っています。何度かお魚を買わせてもらえたらありがたいです」と石田も継続的なコミュニケーションを大切にしたいことを伝えていました。

魚忠の今関社長(左)と話をする石田。
大洗漁港に揚がった魚を一般でも購入することができる。
魚忠の裏に隠れ家的にある和食店「ちゅう心」。この日のランチはここでとった。
ちゅう心の海鮮丼(1700円)。大洗漁港に揚がる近海魚がうれしい。

しっかりとした思いの酒造り|月の井酒造店

魚忠から大洗の町を歩いて5分ほど、町の唯一の酒蔵で、1865年(慶応元年)に創業した「月の井酒造店」に到着します。案内してくださったのは七代目蔵元で代表取締役社長でもある坂本敬子さんです。先代の蔵元、和彦さんの妻で、八代目蔵元、直彦さんの母でもあります。

六代目の和彦さんが47歳で急逝すると、坂本さんが蔵元を継ぐことになったといいます。坂本さんは、体に良い酒造りを目指し、当時では珍しい有機 JAS 認証・茨城県産酒米を原料にした「和の月」を醸し始めます。

その思いは、八代目の直彦さんにも継がれていくなか、2018年に長く杜氏を務めていた南部杜氏の菊池正悦さんが引退されたことをきっかけに、酒造りを見なおします。2020年には、生酛造り第一人者である石川達也杜さんを杜氏に迎えると、和の月に生酛造りを採用するなど、「大洗でしか造れない酒」を目指し独自の進化を続けています。

酒造りが終わった時期ですので、何もお見せできなくて申し訳ないです」と坂本さん。「しっかりした思いがモノづくりには必要だと改めて強く感じました。 思いだけで物事は進まないので、その分さまざまことを決断して実行してきたのだと思います。そういったお話を聞けただけでも本当にありがたかったです」と石田も感銘を受けていた。

また、酒を勉強中だという小出も「月の井さんの造り方は本当に凄いと思います。 素晴らしい蔵つき酵母が根付いているのですね。ぜひ、醸造中に再訪させて頂きたいと思いました」と、酒造りを学びたいと再訪を願って庫を後にします。

大洗の商店街にある月の井酒造店。
月の井酒造店の代表取締役、坂本敬子さんに蔵を案内していただいた。
月の井酒造店の境内にある社。
蔵の一つひとつを丁寧に案内していただいた。
月の井酒造店の代表銘柄を試飲させていただいた。1本1本のお酒の情報を熱心に読み込む小出。

乃木坂しんにとって必要不可欠な食材「梅干し」
|ume cafe WAON

続いて月の井酒造店から歩いて3分ほどにある梅干し専門店「ume cafe WAON」に向かいます。

実は、乃木坂しんにとって梅干しは、とても重要な食材の一つです。というのも乃木坂しんでは、献立にお造り(刺身)が出ますが、基本的には醤油につけて食べてもらうことはしません。

それは、醤油をつける量が人によってバラバラで、仮につけすぎてしまった場合、本来のお造りの味わいを覆い隠してしまうこともあると考えているからです。そのためお造りは、漬けにしたり、出汁のゼリーをかけたり、藁で燻してタタキにしたりと、味を決めてからお出しする工夫をしています。

そのなかで、時折登場するのが日本酒と梅干、鰹節で作る「煎り酒」です。

日本の伝統的調味料とされる醤油ですが、じつは普及するのは江戸時代になってから。それより前は、この煎り酒が調味料として使われていた歴史があります。

そのため「良い無添加の梅干しを探していたんです」と、石田が楽しみにしていた訪問先の一つです。

さっそく3種類の梅の食べ比べセットを店主の大山吐志さんの説明を聞きながら試食をします。石川一号、加賀地蔵、八代目という梅の品種が食べ比べられるセットです。

梅干しの原料は梅と塩のみ。使う塩はどれも赤穂の塩で、漬ける方も同じ。そうなると品種の違いが色濃く出るのが梅干しの特徴です。「初めて梅干しを食べ比べてみましたが、どれも塩味と酸味のバランスや質が違って、興味深いですね。煎り酒にするのであれば、僕は加賀地蔵かな」とさっそく、試作用で加賀地蔵の梅干し1kgを購入していました。

大洗町の商店街にあるume cafe WAON。
無類の梅干し好きな山口も興味深々。
3種類の梅干しを試食。
梅干しを試食する石田。

システム化したトマト栽培に
アナログな人の感性が宿る|NKKアグリドリーム

大洗から車で1時間ほど移動して、茨城県西部、桜川市のトマト農家「NKKアグリドリーム」に向かいます。

NKKアグリドリームが育てる「スーパーフルーツトマト」は、糖度が高く酸味もしっかりあり石田も納得の味わいで、すでに6月の献立に使っているトマトでもあります。3月から4月が旬ということで、来年以降も引き続き使わせていただけるように一度、ごあいさつも兼ねて栽培方法などを見学させてもらうのが目的でした。

6月の献立の先附「蛸ちり、トマトゼリー、 新生姜甘酢漬け、たたき木ノ芽」のトマトゼリーは、スーパーフルーツトマトを使用している。

ビニールハウス内のトマト畑を案内してくださったのは、NKKアグリドリームのグループにある協和園芸開発株式会社の常務、柴森一也さんです。トマトの味を決める温度や湿度管理、農薬の使用をできるだけ押さえるために、外からの害虫を徹底して遮断する仕組みなど、手間を惜しまない栽培方法を教えてもらいます。

大きなハウスのなかで、しっかりシステム化してトマト作りをされているのを見て、安定供給には必要なことだと改めて認識しました。そんななかでも、宮田会長がハウスを毎日点検して、ほんの少しの気候の変化も見逃さずに各栽培担当の方々に指示を送り続けているという、ある意味でアナログな方法も大事にされていることを聞いて、やはり人が関わるところが大きく仕上がりに関係しているのは、もの作りの仕事としてまっとうだなと思いました」と石田は、自分が感じたトマトの味わいの理由に納得をした様子でした。

協和園芸開発株式会社の常務、柴森一也さん。
摘んだばかりのトマトの香りをかぐ石田。
NKKアグリドリームでは6月が最後の収穫時期。
トマトを育てる宮田会長。
協和園芸開発株式会社の谷畑尚吾さん。
この日、6月の献立用に購入したスーパーフルーツトマト。
「わからないことを教えていただけました。説明もわかりやすくて、食材に親しみと関心をもちました」と山口(右)。トマトの追熟方法などを聞くことができ、保管の仕方や食材の見極めにも役立たせることができたという。

季節が変わるたびに話を聞きたい|石田農園

桜川市から南下し、つくば市へ。今年2月に茨城県を巡った際にもお会いした、「石田農園」の石田真也さんの元を訪ねます。石田さんは、土壌医の資格を持ち県内でも有数の「土づくりの匠」。前回訪れた際に、石田さんの土づくりの考え方に共感し、季節の度に訪れて農業のことを教えてもらいたいと再会を願ったことで実現しました。

2月に訪れた際は、ニンジンの最盛期でしたが、畑の景色も変わって、この日はタマネギの収穫の最後、そしてジャガイモの収穫の時期になっていました。

畑では、実際に土に触り、収穫を体験させてもらいます。「毎回自分達で畑を触らせていただけることで新鮮で、楽しさと大変さを感じさせられます」と、2度目の訪問になる山口も、貴重な体験に感謝をしています。

そして前回のニンジンジュースに続き、掘りたてのジャガイモの蒸かしイモまで用意してくれていた石田さん。お心づかいに感謝をしながら塩もかけずにそのまま食べてみると、蒸しただけのジャガイモなのに、しっかりと味があることに驚かされます。塩がなくても十分においしい。これが畑の力なのかと、今回も石田さんの野菜の力に驚かされてしまいました。

石田さんの野菜はおいしい。それしか言うことはありません。 これからも引き続き時期を変えて定期的に訪問したいと強く願います」と石田も感謝しきり。

石田農園では今、秋に収穫するサツマイモの準備をしているそう。病気になりやすいサツマイモを無農薬で育てるのは、難しいこともあり、石田さんも今まで育てることをしてこなかったといいますが、去年から挑戦を始め、今期で2度目。「昨年、ちゃんと採れたし味も良かった。今年はいいものになりそうですから、収穫の秋にいらして焼きいもをしましょう」といっていただきました。

石田農園の石田真也さん。
石田さんのタマネギを実際に収穫。山口は土のやわらかさに、驚いていた。
ジャガイモは土を掘って収穫。土の中からいろいろな生き物が出てくる。土が生きている証拠だ。
蒸かしたジャガイモを用意してもらった。
試食をする石田。蒸かしただけなのに、味がある。これこそ石田さんの野菜の魅力だ。
石田さんと再会の約束をして、この日の旅を終えた。

生産者さんの苦労、努力、ありがたさを身にしみて感じたという小出は、 「野菜が値上がりすると、つい『高くなった』と思ってしまっていたのですが、今日1日で考えが変わりました。 天気、自然を相手に本当に大変な思いをされていること、野菜があたりまえに買えることに感謝しております」と、旅を終えた感想を打ち明けてくれました。

山口も「2度目の茨城ですが、またいろいろなことを知ることができました。食材がとても好きなので、ぜひ次回も参加して生産者さんのお話をじっくりお聞きしたいです」と、目を輝かせていた。

2月の時も思いましたが、こんな近くに良い食材や作り手さんがいらっしゃることを今まで知らなかったことを後悔してます。 なので、引き続き繋がりを作れるように定期的に茨城県のいろいろな所に訪問できたらと思ってます。また事前のアポイントやルートを設定してくださっただけでなく、当日アテンドしてくださった茨城県営業戦略部の澤幡博子さんと大町兼さんにも大変感謝をしております」と石田。今回もさまざまな方々のご厚意をいただきながら、実りの多い旅になりました。

▼前回の産地めぐりはこちらで読むことができます。

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乃木坂しん
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☎︎03-6721-0086
【2021年11月1日よりコース料理の金額が変更になりました】
ランチ(水〜土) 12:00〜15:00(13:00LO、*前日までの予約制)
  おまかせ 10,000円、18,000円、22,000円
ディナー(月〜土) 17:30〜23:00(21:30LO)
  おまかせ 18,000円、22,000円、30,000円
※消費税、サービス料10%別
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構成・文・撮影=江六前一郎


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