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貝に山菜、稚鮎、じつは豊富にある5月の食材|皐月の献立

5月にも関わらず、半袖でも暑いくらいの真夏日が続いたかと思えば、雨で気温が下がったりと、気候の変動が激しく体調を崩しやすい日々が続いております。ご自愛いただき、健やかにお過ごしいただけることをお祈りしております。

こんにちは、乃木坂しんの店主、石田伸二です。

飲食店では、「5月は端境期で食材がなくて大変」ということをよくいいます。かくいう自分も、修業時代から長らくそう思っていましたが、ここ1、2年、産地をまわって生産者さんと交流が強くなったこともあって、愛知県日間賀島の平貝や、京都府京丹後市の鳥貝といった貝類など、「5月でも、いい食材はたくさんある」ことに気づかされました。

皐月さつきの献立には、稚鮎もあります。去年、一昨年ぐらいからこの月の献立が固まってきて、良いものができているという自負もあります。もちろん食材の組み合わせを替えたりしているお料理もありますが、大きく変えることはしていません。

今月も「食材本来の味わいを楽しんでいただく」という”乃木坂しんらしさ”を変えずに、豊かな5月の食材を表現していきたいと思っています。

皐月(5月)のおまかせコース(22,000円)を紹介します。

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先付|稚鮎の唐揚げ、西瓜のかき氷、実山椒

最初のひと品は、その季節を端的に感じていただける食材で季節を実感していただきたいと思っています。そこで今月は、稚鮎を唐揚げにしてご用意しました。

鮎には、毎年スイカを合わせてきましたので、早い段階から稚鮎のから揚げとスイカを合わせる料理にしようと決めていましたが、スイカをどう仕立てるかを試行錯誤しました。

スイカをゼリーにしたり、試食会のときには画像のようにややゆるめの餡を稚鮎のから揚げの下にしいていました。しかし、ゆるい餡では温度感が中途半端で、冷たいのか、温かいのかがはっきりしない料理になっていたので、温度差をはっきりと出すために思い切ってかき氷にしました。

アツアツと冷たいのコントラストをお楽しみくださいませ。

上の画像とは仕立てを変えて、かき氷の上に稚鮎のから揚げをのせています。試作の際に餡に入れていた実山椒は、かき氷には入れず、お皿の手前においてつけながら食べていただきます。また、お皿の奥の方にちょっと塩を盛っています。食べ進むうちに最後に塩味が口の中に入ることで味の骨格をはっきりと感じるアクセントになると思っています。

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前菜|平貝
グリーンアスパラ、ミニトマトのおひたし、
山菜すり流しと出汁ゼリー

北海道・厚沢部町の「ジェットファーム」長谷川博紀さんのグリーンアスパラと、長野県・妙高の奈潟轍さんが採る天然の山菜を味わっていただきたいひと品です。

そのため平貝は、湯引きしただけで一歩下がった位置づけにしています。試作では、平貝を炙ることも考えましたが、炙った香りがアスパラガスの香りや山菜を邪魔するのではないかと思い、シンプルに湯引きにしています。画像にありませんが、ミニトマトを二番出汁に塩と薄口醤油で味を調えた八方地に漬けたお浸しもあわせて盛り込んでいます。

5月は、春から初夏に移る新緑の季節ですので、緑を意識して見た目でも楽しんでもらえるように仕上げました。

すり流しは、湯がいた山菜を氷水に浸けて色止めしてからミキサーにかけてペースト状にし、昆布出汁を加えて味を調しています。ウコギを主体に、コゴミなどそのときどきに採れた山菜を使っています。

ウコギは、苦味があり滋養強壮もあって体に良いものです。それに対して、コゴミは甘味もあるので、ウコギの苦みに合わせやすい。また、二番出汁に塩と薄口醤油を合わせたゼリーをまとわせて、口に入ったときにスルっと召し上がれるようにしています。

アスパラガスは、塩湯がきしています。きれいな爽やかさがあると思っています。それに対して芽吹いた山菜のすがすがしいきれいな山の恵みを合わせて食べてもらいたいお料理です。

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椀物|油目椀、蓬麩、タラの芽、梅肉

鰹節と昆布の一番出汁に、湯引きした油目あぶらめのお椀です。炭火で焼いた蓬麩、湯がいた油目の皮、梅肉、タラの芽を盛り込んでいます。

油目は、3月からおいしくなる魚で、一般的にはアイナメ(「鮎並」や「鮎魚女」と書きます)と呼ばれています。油目というのは、僕の故郷の徳島や大阪、香川での呼び方です。ちなみに、北海道では「油子(アブラコ)」と呼ばれたりしているようです。

先月の卯月(4月)の献立では昆布締めにして前菜としてお出ししていました。5月の油目は脂がのって1年で一番おいしい季節。そのため、5月は必ず油目のお椀にするのが乃木坂しんの定番になっています。

油目に葛粉をふって、熱湯に落とし湯引きにしてから椀種にします。ちなみに、湯引きは2度、塩の入ったお湯と出汁で行っています。

昨年から唯一変えたことは、油目の切り方です。油目は、高さをつけて盛りつけづらいことがあって、やや厚めに切り出して、折り返して串うちしてから湯がいています。しかし、変えたことをいえば、それくらいで、油目椀自体の構成は、一つの形として仕上がってると思っています。

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造り|鳥貝、
アオリイカと豆づくし、スダチ醤油

乃木坂しんでは2品目にお出ししても、おかしくない前菜のような料理をあえてお造りにしてみました。

トリガイとアオリイカは、両方とも味がしっかりしています。たとえばダイコンのケンをあわせればお造りにもなりますが、乃木坂しんでは、基本的にお造りに醤油をつけません。そのため、スダチの酸味を活かしながらうま味のある食材を合わせて食べる仕立てにしたいと思い、今の季節の食材で、味がしっかりしている豆類を合わせてみました。

豆特有の青っぽい香りがアクセントになって、魚介のうま味をより引き出し、さらに、スダチもしっかり利かせているので、その酸味が味の輪郭をはっきりさせると考えています。さらに今回に限っては、次のキンメダイのお造りとの対比として醤油の味をアクセントにする方がいいと考え、わずかに醤油を加えています。

アオリイカは、両面に包丁目を入れて甘味をより引き立たせるようにしています。また、豆とトリガイは、スダチ醤油で和えていますが、アオリイカだけは塩のみで和えずに盛り付けています。すべての食材をスダチ醤油の味にせず、あえて素材だけの味を加えることで、ひと皿のなかに奥行きが生まれると思っています。

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炙り|金目鯛の炙り、煎り酒、
独活、木ノ芽

キンメダイのお造りは、乃木坂しんの定番のひと品です。キンメダイを藁であぶって、それを炒り酒を合わせる仕立てです。

キンメダイは脂が強いお魚ですので、お造りではその脂をうまく使っていかないと、邪魔になってしまいます。そこで皮目を炙ることで、余分な脂を抜いていきます。

さらに、醤油ではなく、古い日本の調味料で酸味の利いた「煎り酒」(日本酒に梅干等を入れて煮詰めたもの)にすることで、キンメダイの脂を切ってくれると思います。

昨年は、煎り酒ゼリーでお出ししていましたが、今年は小付でお出しした煎り酒をつけて食べてもらうようにしています。

ひと品目のお造りは、サラダ仕立てのような料理でしたので、日本料理屋でお造りを落ち着いて食べてもらうという意味でも煎り酒を小付けにしてお出しするのもいいのではないかと思いました。

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八寸|ホタルイカの天婦羅と蕗の薹素揚げ、
鰻の粽、蓴菜お向、白ダツ海苔和え、
丸十甘露煮、新蓮根キンピラ

乃木坂しんの味をいろいろ楽しんでほしい」という思いを込めて作っている八寸。今月もいろいろな食材をとり揃えました。

八寸のメインであるホタルイカとフキノトウの天ぷらは、今月の献立の中でも、珍しく初めての仕立ての料理です。

その分、試行錯誤をした料理でもあり、試食会では、画像のように天ぷら衣にフキノトウを合わせて、ホタルイカを揚げてみましたが、2つの食材の良さがうまく出せず、最終的には、ホタルイカの天ぷらに素揚げしたフキノトウをかけて食べていただく仕立てにしています。この方が、それぞれの食材の良さがきちんと伝わってきますし、バランスよく口に運べると思っています。

ほかには、5月らしく鰻の蒲焼を粽に。青森県のジュンサイは、三杯酢と白玉を合わせました。

新のレンコンと新のサツマイモ(丸十)が出てくると5月になったと感じます。修業時代から同じような仕事をし続けている思い出深い食材でもあります。

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強肴|猪と筍の山菜鍋

イノシシと山菜のしっかりした味付の鍋に仕立てています。山菜は、クレソンやウルイ、ショウゲンジ、ニワトコ、ニリンソウなどです。

タケノコは二番出汁で炊き、タケノコの香りが移った炊いた出汁に割り下を加えて味を調えて、鍋のお出汁にして仕立ててます。最初にタケノコを入れて温めて、山菜を入れて火入れしたところにイノシシのスライスを加えて火を入れてお出しにしています。

強肴は、撮影のときから仕立てを大きく変えたので画像はありません。ぜひお店にいらして確認していただきたいです。

最初は、すき焼き仕立てで、割り下でお肉とタケノコを火入れして、山菜のサラダを添えた仕立てにしていたんですが、二つの料理の温度帯が違いすぎて、どっちつかずの料理になってしまっていました。別々にしてお出しするのも考えたのですが、そこまでして出す意味があるのかと思い、それなら鍋仕立てにして一緒に食べてもらう方が、シンプルでわかりやすいと思いました。

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炊合|長芋、蛸と牛蒡、南瓜、木ノ芽

炊合は、芋・蛸・南京ですが、いつもと違うのは、芋が小芋でなく岩手県大船渡の大久保さんのナガイモにしていることです。また、タコを小豆を入れて炊く小倉煮に大久保さんのお父さんのゴボウも入れて炊いています。

タコとゴボウを一緒に炊くことでわずかな土っぽい香りが加わってしっかり味がついたと思っています。とくに大久保さんのお父さんのゴボウは、それ自体がしっかりしていて、タコの甘辛い味に負けないんです。

大久保さんのナガイモはずっと使い続けたいと思っている食材です。

ナガイモはすりおろしたり、そのまま切ってわさび醤油で食べたりするのもおいしいですが、大久保さんの長芋は、火を入れたときにおいしさの本領が発揮されると思っています。味がクリアというか、ピュアとというか、雑味がない、いらない味がないんです。だから、炊いたときにより一層おいしさを、自分は感じると思っています。

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①桜海老とワラビの玉子とじ(月替わり) ご飯は、料理長の石田の親戚が減農薬で栽培する「ヒノヒカリ」です。
②炊き立て白米 鯛の滋味造り。乃木坂しんでお出ししてきたタイを出汁醤油に漬けた 滋味造りをお付けします。ご飯は玉子とじ同様「ヒノヒカリ」です。
③そば米雑炊。料理長の石田の故郷・徳島県の郷土料理で、鶏でとったお出汁でいただく素朴な料理です。

食事|桜海老とワラビの玉子とじ
または、鯛の滋味造り
または、そば米雑炊

お食事は、以下の3つのなかから選んでいただけるようにしています。

【お食事】
①桜海老とワラビの玉子とじ(月替わり)
②炊き立て白米 鯛の滋味造り
③そば米雑炊

①月替わりの玉子とじは、「桜海老とワラビの玉子とじ」です。

今月の玉子とじ、どうしてもサクラエビにしたいと思いました、素揚げにしたサクラエビをそのまま玉子とじにするのはすぐに思いついたのですが、合わせる野菜が少し悩みました。

季節の山菜にしようと考えたときに、サクラエビ自体が味がしっかりしてるので、それに対して味のバランスを取ってくれるような、食感が特徴のある食材がないかなと考えました。

ワラビは、特徴的な食感とともに味もそれほど強いものでもないので、良くバランスをとってもらえると思っています。

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菓子|蜂蜜カステラ、抹茶シャーベット、
マンゴーの水わらび

巣鴨養蜂園の山桜のハチミツを使ったハチミツカステラです。あわせて抹茶シャーベットに、宮崎産マンゴーの水蕨です。

巣鴨養蜂園さんのハチミツは、甘さというよりは、それぞれの花の香りに特徴が出てると思います。カステラにあうのは、山桜だと思い、今回は使っています。

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さまざまな食材をとりそろえた5月の献立、いかがでしたでしょうか。日々工夫をこらしながら、丁寧に心を込めて準備をしております。皆様のお越しを心からお待ちしております。

「乃木坂しん」店主 石田伸二

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乃木坂しん
東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂1F
☎︎03-6721-0086
ランチ(水〜土) 12:00〜15:00(13:00LO、*前日までの予約制)
  おまかせ 10,000円、18,000円、22,000円
ディナー(月〜土) 17:30〜23:00(21:30LO)
  おまかせ 18,000円、22,000円、30,000円
※消費税、サービス料10%別
※緊急事態宣言中などは、夜の営業時間を変更して営業しておりますので、店舗までお問い合わせください。

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構成・文・撮影=江六前一郎

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