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わかいからだから ②

散歩を初めて一ヶ月、朝の体操はやればやるほど奥深く、なかなか思ったように筋肉が使えない。雨と雪の日以外、毎日欠かさず続けてきた人達に、そんなにすぐに追いつけるはずなどないよな、年齢など関係ないのだ「継続は力なり」を身に沁みて思う。

体操は、切り株に置かれたDVDプレーヤーを、持ち主のおじいちゃんがONにすることで始まる。音楽は聴こえるけれど画面が小さいので、いつも先頭にいるおばあちゃんを手本にしている。ばっちり1時間もある体操の名前は「気功体操」だと聞いた。家で調べてみたけれど、それほど長い動画は見つからなかった。なんでもネットで見つかると思ったら間違いだ。

年齢は平均して70代後半くらいではないかと思うその集団は、10〜20名位の8割が女性だ。こちらから話しかけない限り、会話という会話は無く、「おはようございます」と「おつかれさま」の挨拶を交わす程度の日が続いたある日、先頭のおばあちゃんが「携帯がわからなくて」と、電話の画面をこちらに向けながらわたしに近付いてきた。画面には「EXILE TAKAHIRO 結婚おめでとう」の文字。「迷惑メールだ」と理解すると同時に、素早く他のおばあちゃんが、少し強めの口調で「どれ」と割って入ってきた。わたしは心の中で「そうだよな、見た目がたっぷり怪しいわたしに、無防備に携帯電話を触らせちゃダメだよね」と思いながら、「それは削除しなきゃダメだよ」と先頭おばあちゃんに告げた。きっと割り込みおばあちゃんが、削除の仕方を教えてくれるだろうと、その場を離れた。

そんな事があった数日後、いつも通り体操を終えて振り返ると、短パンTシャツも爽やかな、容姿の整ったスラリとした20代の男性が立っていた。わたしが「おはようございます」とぼそりと言うと、彼は笑顔で返してくれた。汗を拭う彼が歩き出すと、一人のおばあちゃんが彼に近寄って「途中からだったからつまらなかったでしょ? いつも6時からやってるのよ」とハイトーンで話しかけた。するとすかさず、4人のおばあちゃんが彼に話しかけながら近付いて行ったのを目の当たりにして、少し複雑な気分になる。彼が「そうですか、またきます」と言うのを、歩きながら背中で聞き逃さない自分に、「わたしも気になってるじゃないか」と思う。たまたま隣にいた先頭おばあちゃんに、「やはり素敵な青年の前では乙女になりますな」と、嫌味のように言ってしまった自分にはっとするも、それに答えるように微笑みながら、先頭おばあちゃんの口から漏れた「わたしなんて もう」を聞いて、わたしの頭の中の単純妄想が枝分かれ暴走する。


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