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地中海の舞踏

最近、鷹峯の京野菜にこだわったイタリアンの出張料理人と巡り会い、この国の土壌で育まれる野菜の秘めたチカラが如何に凄いかを彼に教えてもらったりしている。野菜に限らず ”旬のもの” を身体に摂り込んできた日本人の知恵は相当理に適っているというのだ。

野菜を摂ろうと思った。それもラーメンで。円町 八の坊さんの杉山店長が丁寧に仕上げる、「ベジそば」が一等頭に浮かんだ。

自分はここの ”魚そば” の溺愛者であるあまり、実は今までにベジそばを1回しか頼んだ事がない。人の偏見というのは誠に恐ろしいものである。ここではすべて魚そばを基準に考えていたため、おいしいトマト味のイタリアンっぽいラーメン、という認識でしかなかった。

ところが今回、野菜の摂取も目的の一つとしてオーダーしたため、魚そばの偏見なくベジそばを啜り始めると、そんな色メガネがいかに愚かだったかと、今更ながら後悔する事となった。梅雨の曇天に映えるトリコローレ色のベジそばの美味しさは、半端ではなかった。

夏トマトと魚介出汁が抱き合ってマリアージュしている。ブイヤベースではなく、そこはしっかりと麺のダイブを計算したトマトのベジポタスープ。いたずらに酸味を誇張せず、仄かに酸っぱい大人の味。これも八の坊さんならではの洗練されたセンスを感じる。シャキシャキたっぷりのグリーンアスパラガス、手が掛かってるんだろうなあと一目瞭然の鶏ハムチャーシュー、うどんでいう揚げ玉の役割を担うフライドオニオンの組み合わせは、どれもこれもが、これから乗り切ろうという初夏のまだ疲れ切っていない躰に優しく染み込んでいく。

猫舌泣かせの熱々に黒胡椒を思いっきり砕き、皆さんよりひと足お先に地中海へ…
八の坊さんのベジそば、初夏の初恋の味がする

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