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神くん 「箱」

いわゆる下界というところは窮屈だ。

こんなに狭い箱をなぜ好む?雨露をしのぐのも箱、移動するのも箱。
他の手段は、どうやらないらしい。彼らのことを非常に頭の良い者たちと見ていたが、まだまだ成長の余地はあるようだ。

しかしここは狭い箱とはいえ、何十人もいるので比較的大きい箱なのかもしれない。
座る者もいれば、私と同じく立っている者もいる。
同じ箱が何個も連なっていて、ずっとガタンガタンと揺れている。
窓の外の景色が心地よく流れていくのが唯一の癒しなのかもしれない。

うむ、この揺れに慣れれば、案外気持ちの良いものだ。爽快感とでもいおうか。
だから、このようにたくさんの人々が集うのだろう。

しかしみな、せっかくの爽快感を味わっておるようには見えない。
こんなに素晴らしい窓の外をなぜ見ない?

ん?そういえば皆、なにやら手の平に板を持ち、それをじっと見つめ続けている。そして親指を忙しく動かしている。なんだこれは。

私だけが取り残された感じである。
もしかしてこれはマナーなのか?
板を持つことがマナーなのか?
親指を素早く動かすことがマナーなのか?

これはまずいぞ。この私がマナーを犯すわけにはいかぬ。
しかし私は動じない。全知全能だからな。板を出すことなど造作もないことよ。

ほら、どうだ。少し皆より細長いが、立派な板だぞ。板といえば「木」だな、やはり。捨てずに持っておいて正解であった。それに手にしっくりくるし、軽い。親指もこんなに早く動くぞ。

おや、目の前に座る幼な子がじっと私の板を見ている。欲しいのか?ふふ、幼な子にはまだ早いな。

「かまぼ、、」
幼な子がそこまで言ったところで隣の女性が幼な子の口を慌てたようにふさぎ、こちらを怪訝そうに見ている。

何故そのような顔をする?女性は幼な子の手を引き、隣の箱へと移動した。

うーむ、幼な子がこの板を欲しがるから向こうに行ったのか?あげたりしないのに。

おや、先ほどまで隣にいた男性もいなくなっているぞ。あ、こっちもだ。何故か私の周りにだけ空間ができている。そしてその空間はジリジリと広がっているように見える。
チラチラと私をみて、ヒソヒソ話している。

まずいな、私の正体がバレたのか?下界の者にはバレてはならぬというのに。

とりあえず、次にこの箱が止まったら外に出るか。
そうしよう。

外に出たらそうだな、またあれを食べよう。この板に乗っていたすり身のような食べ物。
あんなに上手いのに、残った板までこうして使えるのだからなんとも素晴らしい。

板が2枚になったら、1枚はあの幼な子にやるとするか。


神くんの冒険は続く、、、、、




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