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AIマーケティングにおけるセレンディピティの可能性

私と所縁のある方のイベント「AI×マーケティング進化論 パーソナライズの限界とセレンディピティへの挑戦」が開催されることを記念して、当テーマで記事を書いてみました。最近のAI・デジタルマーケティングの方向性に触れつつ、議論のために偶発性のレベルを定義しました。その上でAIの限界とその向こうについて、物理思考も交えながら考察したいと思います。
落合陽一氏、茂木健一郎氏、野口竜司氏らの考えも気になる方は、イベントへどうぞ。

■AIマーケティングの方向性

AI、ビッグデータの技術が躍進し、マーケティングは進化し、その可能性は拓けてきた。マーケティングの方向性としては、社会課題というマクロなビッグイシューと、パーソナライズというミクロな顧客体験へと2極化してきている。
社会課題としては、脱炭素、パーポスというバズワードが出てきている。パーソナライズはOne to Oneマーケティングと言われており、今回はパーソナライズに焦点を当てる。
AIによるパーソナライズの進化と、セレンディピティ(偶発性)について整理する。

■偶発性のレベル定義

本議論にあたり、マーケティングにおける偶発レベルを定義した。

●レベル0 :狙い買い
 全く偶発性の無い消費。雑誌で調べた欲しい服を買いに行ったりするような、こだわりのブランド、希少性のある商品への消費が多い。また、日常品においても、代替品を考えないような状況。商品の選択肢、関連情報の入手しやすい現代では、熱狂的なブランド力を持たないと実現するのは困難。
 ・扱える者:圧倒的ブランド企業(Apple等)
 ・顧客のニーズ:欲しいもの

●レベル1:カテゴライズ
 商品を分類したグループで、選択肢を増やす。商品なら同じポテトチップスの新しい味を増やしたりする。デジタルでは、検索結果で同じ分類の商品を並べて見せる。
 ・扱える者:メーカー
 ・顧客のニーズ:欲しいものと似たもの

●レベル2:レコメンド
 顧客が買うであろうものを、企業側から薦める。AIを使わずとも感と経験で、レジ横にガムや電池を並べて、顧客にニーズを気付かせるということは古来から行われてきた。しかし、この分野はAIで大きく進化している。デジタルでは、Amazonがよくやるように、似たような属性の他者が購入したものをお勧めする。小売の実店舗でも、データ分析の結果、ビールとオムツを横に並べると父親に売れるというような、バスケット分析が有名である。
 ・扱える者:小売(顧客データ、商材の多い企業)
 ・顧客のニーズ:意外なもの

●レベル3:パーソナライズ
 現在のAIマーケティングの目指すところである。One to Oneと言われるように、個人に合わせた商品を提供する。企業はよりデータを活用して顧客を理解する必要があり、顧客DNAを作成する。しかし、企業側だけでは顧客の全データを集めることができないため、より顧客=個人を理解するため、個人単位での全データを集めるパーソナルデータストア(PDS)の進化が望まれる。そしてPDSを安全に流通させる情報銀行のような仕組みが必要となる。
 ・扱える者:個人(情報銀行のようなパーソナルデータ流通の仕組み)
 ・顧客のニーズ:本人に必要なもの

●レベル4:セレンディピティ
 レベル3まではAIの進化の系統にて将来的に実現できるレベルである。その先の本当に偶発的な消費者には、ブレークスルーが必要となる。偶発と言っても、適当に商品を勧めても、購入に至る可能性は低く、やる意味が無い。サプライズプレゼントのように、その人に必要なタイミングで、驚きとワクワクを与えることが重要となる。これには、感動するような自分にあったお店や商品を教えてくれる、師匠のような存在が必要と考える。
 ・扱える者:ヨーダ(師匠のようにフォースを導いてくれる存在)
 ・顧客のニーズ:自分を感動させてくれるもの、高めてくれるもの

■AIの限界と、限界の向こう

AIマーケティングの現在地としては、前章のレベル3:パーソナライズに向かっている。より顧客を理解するため、大量のデータを集めて、AIで分析する必要がある。前章で述べたように、企業は顧客DNAを作り、個人は行動、ライフログ等の前データをパーソナルデータストア(PDS)に集める。そして、それをDFFT(Data Free Flow with Trust)の理念のもと流通させる情報銀行のような仕組みが必要となる。

ここからは少し未来(SF)の話。
AIの限界という意味では、まずはデータの限界がある。情報銀行もまだ煮え切らない状況であるが、ここが理想的にデータ流通させる状態を目指す必要がある。今までの企業中心のデータの反動で、個人中心のデータの流れに来ているが、これらを融かして、新しい価値が生まれる状態にしなければいけない。この「データの融けた世界」は私の最近の研究テーマでもあるため、また違う機会で触れたい。
そして、どんなにデータが流通しても、AIの限界がある。AIはデータから統計学的な分析をする手法である。統計学ということは、確率に支配される。AIは100点を目指すものでなく、確率を上げるためのものと考える方が、使い方としては良い結果を導く。
それでも精度を上げ続ければ、100点に近づくのだが、最後の個人レベルになると、人間の意思決定自体が確率で行われる。これは、物理思考で言えば、個人という最小単位に量子化されたら、不確定性原理により、状態を確定できないようなものと言えよう。

つまり、AIの限界は確率に従うしかないところである。
では、限界の向こうの、偶発的な確率による、しかもより良い世界とは何なのか。

この答えについては、イベントの皆さんのご意見を聞いて、私も考えを深めたいので、次回の記事で。

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