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【イラスト映画館】フィクションの力を信じさせてくれる映画「アルプススタンドのはしの方」

中途半端なまま、何かを諦めた高校生4人

ある高校生たち(と先生)の1日をワンシチュエーションで描く、爽やか青春映画「アルプススタンドのはしの方」。

兵庫県にある県立高校演劇部の先生が書き上げた戯曲が、原作。高校演劇がベースと聞くと、鑑賞前はプロットが幼いと思うかもしれないけれど、侮るなかれ! 2020年公開作&配信作の中で、10本の指に入る良作でした。

作品の舞台は、夏の甲子園。母校が甲子園に出場するということで、嫌々、応援に駆り出された安田さんと田宮さんは、演劇部に所属するさえない女子。2人はアルプススタンドのはしで「しょうがなく」応援していたところ、元野球部の藤野くんがやって来きます。さらに、優等生の帰宅部メガネっ娘・宮下さんも加わって4人で応援することに。

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この4人にはある共通点が。それは好きな何かを「しょうがない」という理由で、諦めた過去があること(正確には、宮下さんは劇中で諦めることになる)。だから、「どうせ頑張っても意味がない」と心の奥底で思い、弱い野球部への応援に、熱が入らない。

「しょうがない」の後、何かを掴み取る努力をしたのか?

誰だって、自分ではコントロールできない外圧のせいで、「しょうがない」と諦めたことはある。4人も一緒。その「しょうがない」のせいで、どこか冷めている4人は、熱を入れて行動することに躊躇している。

でもね、「しょうがない」の先にあるものを、掴み取る努力をしたのか?と映画は問いかけるんです。

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演劇部の安田さんと田宮さんは、とある事情で、演劇コンクールの出場を諦めた過去があり、そのことで口論に。そして喧嘩のあと、2人はあることに気付くんです。自分たちは「演劇が好き」と。

好きなら、どんな形でもいいから追いかけるべきだし、求めている場所・状況でなくても、今の環境で頑張るべきだ。

諦めないといけないのなら、その先に用意された環境で腐らず努力し続ける。すると何かが掴める、と映画は教えてくれました。

ラストの粋なエピソード

このストーリーには、野球部のエース・園田くんと控えの矢野くんが出てきます。物語の最後、社会人になった4人はまた、野球場で再会します。その4人は、元野球部2人の今の活躍を明かすのですが、それがすごく良い話なんですよね。

ネタバレになるので詳しく言いませんが、フィクションの力を信じている、と思わせてくれました。「努力し続ければ報われる」ということを力強く語っている、そんなラストでした。現実の世界では「努力し続けても報われない」ことは多々あります。だからこそ、せめて物語の世界では「努力し続ければ報われるべき」、と願う作り手のメッセージを感じました。エンドロールが流れたあと、清々しく映画館を出れたのは、これが青春映画だからではなく、頑張る人がちゃんと輝く理想の世界を見せてくれたから、と感じました。


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