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短編小説|「枝葉」 (第2話/全7話)


その4日後。覚さんから家に連絡があった。

「佳穂、今から覚さんのところに話聞きに行くけど、あんたも来なさい。暇でしょ。有希ちゃんも行くって」

「暇でしょ、は余計でしょ。まあ、時間はあるから付き合ってもいいけど」

「はいよ、じゃあ車乗って」

私は自分が関わった戸籍収集の結果に興味があった。戸籍というものを見るのも初めてだし、家族の成り立ちについても知りたいと思っていた。

「ええとですね、長谷川家の相続関係を示した図がこれです」

覚さんはA3の紙を1枚取り出し、私たちの前に広げた。そこにはテレビで見たことがあるような家系図のようなものが記載されていた。

「これって、家系図ですか?」

「まあ、だいたい正解。私たちは相続関係説明図そうぞくかんけいせつめいずと言っているけど」

「相続関係説明図」

「そう。今回の相続に限って、その相続に関係する人たちを記載してる。えっと、一番上が亡くなったおじいちゃん。忠雄さん。被相続人だね。隣が亡くなったおばあちゃん。そんで、下にぶら下がっているのが忠雄さんの子たち。4人。上から愛子さん、実さん、修治さん、有希さん。そんで、実さんは前にお亡くなりだから、相続が下に落ちて、佳穂ちゃんと淳くんが相続人になる。そんなに枝分かれはしてないな。割とシンプルな構造だね」

「あ、お母さんは相続人じゃないんだね」

「そうだね。実さんの相続人ではあったけど、おじいちゃんの相続人ではないことになる」

「そうなんですね。なんか、ちょっとガッカリしたわ」

「お母さん何言ってんの。山とか畑とかもらっても何もできないでしょ」

「兄さんは相続人なんですよね」

「もちろん。行方不明でも戸籍上は生きてますからね。そこで、次のステップ。誰が相続をするか。それぞれが法律に定めた持ち分で相続することもできるし、協議して誰か一人にまとめることもできる。ただね、それも協議だから、やっぱり修治さんの存在は無視できないんですよ。今回の場合、叔父さんが不在であることを説明する必要があるかな」

「でも、いないことを確かめるって、難しくないですか?」

「おっ、さすが佳穂ちゃん。鋭い。でもね、ただ何もせずに「修治さんはもういないんです~」って言っても、裁判所は信じてくれない。だから探す努力はしないといけないんだな。だから、最後の住所地に直接行って簡単な聞き込みをしてくる。佳穂ちゃん、一緒にどう?」

「えっ、私ですか?」

「どう?」

「どう?って、、、お母さんどう思う?」

「えっ、行きなよ。暇でしょ」

「そういう問題じゃないでしょ。ああ、もう、分かりました。行きます!」

「良いね、やる気だね。じゃあ、今週の土曜日にしよう。電車になると思うから詳細は後で連絡するよ。あ、携帯番号教えて。悪用しないから」

なんとなく流れに乗ってしまったようだが、誰かを探すなんてなんだか探偵みたいで楽しそうだったし、叔父さんの人生を少しだけでも追ってみたいとも思った。変なところに好奇心旺盛な私の悪い癖なのかな。



金曜日の午前中に覚さんから連絡があって、土曜日は8時半の電車で出発することになった。8時に駅に集合。少し歩くかもしれないという覚さんの言葉に従って、履きなれたニューバランスのランニングシューズを履いてきた。手荷物は持たないように、荷物は小さめのアウトドアザックに入れた。もちろん、お菓子も詰めて。家から駅まで歩いていく。師走の朝は冷えるな。今日の旅の事を考えながら歩いていると、あっという間に駅に着く。あれ、入り口に見たことのある顔が、、、

「洋人、おはよう。何?どっか行くの?」

「おう、おはよう!あれ?佐々木先生から聞いてない?先生別件入ったから、おれが代わりに行くことになったんだよ」

「あ”あ”!?マジで!そんなの聞いてないよ。ちょっと待って、覚さんに電話してみるから、、、あ、覚さん、これどういうことですか?どういうって、、、洋人がいますよ!」

覚さんはお母さんには言ってたと言う。うう、美穂め。

「何で私に直接連絡しないんですか!もういいです。私、行きませんから!」

「おいおい、せっかく天気良いんだし、楽しんでいこうぜ!」

「あんたには関係ないでしょ。なんであんたなのよ、そもそも」

「先生、おれのこと信頼してんのよ。役場の仕事で何度か同行してるから、調査。だいたいやり方分かってっから任せろって」

ちょっと納得できないけど、今日は行く気でいたし、叔父さんの住んでいた街というのも見てみたいから、ここは我慢するか、、、

「分かった。行くけどさあ、電車の席は別々にしてね。そして、歩く時も2m以上の距離を取ること。一緒に歩いていると思われたくないから」

「マジで言ってんの?まあ、いいよ。おれは先生に頼まれただけだからな。ほれ、行くぞ」

「指図しないで。あんたの部下じゃないんだから」

「いちいち絡むなよ。仲良く行こーぜ!」

ムダに熱いのは高校の時と変わってないな。とりあえず基本無視でいこう。8時半発の特急に乗る。ここから目的地の駅までは約1時間半。太平洋に面した海沿いの街が目的地だ。まずは電車の旅を楽しもうじゃないか。

「佳穂、電車乗る前にお茶買っておいた方がいいぞ!」

「うるさい。そんなの分かってる。子どもじゃないんだからさあ。遠足気分やめてよね」

こりゃあ先が思いやられる。覚さんは何でこんなやつ信頼してるのかな。洋人と十分距離が離れた席に座り、電車は出発した。



つづく

サポートいただけたら、デスクワーク、子守、加齢で傷んできた腰の鍼灸治療費にあてたいと思います。