VCとの関係性はスタートアップの成長に影響するのか
Columbia Business SchoolのCBS Insightsで社会関係学の観点から経済、社会学を研究しているDan Wang教授の"How Collaborating with Venture Capital is Helping—and Hurting—Entrepreneurs"という記事が掲載されていました。
彼の研究から導き出されている結論は3つあるのですが、実務をやっていて、USとは環境が違うところもあるので、自分なりの考察を加えてみたいと思います。
競合に投資しているVCとは付き合わない
まず最初は「競合に投資しているVCから出資を受けると、Exitできるチャンスが減る」というものです。その理由として、意図せず投資先の情報を相手方に漏らしてしまう可能性を挙げています。
この点は実務上も合意できます。情報の交換について、VCの業界はM&Aに比べて、情報の流通に対して比較的緩やかな風土があると感じています。私自身、過去に様々なM&Aのプロジェクトをリードしてきた後、VCの立ち上げで業界に入りましたが、情報の取り扱いに対するあり方は、初め戸惑うほどの大きな違いでもありました。
私自身は、情報の取り扱いの問題に加えて、VCとしてハンズオン支援をする際にも問題が生じやすいと考えています。例えば、スタートアップに潜在的顧客を紹介する際にも、競合している投資先を持ってしまうと、どちらを優先するのか、という問題が生じてしまうことが考えられます。
さて、この観点については、私たち、ヤンマーベンチャーズでも気にかけています。私たちは原則として、同種の技術やサービスを開発しているスタートアップには投資ししないという方針を持っています。conflict of Interestが発生する蓋然性が高いと考えているためです。
投資家のメンバー構成でExitが変わる
次に「投資家の構成がExitの方向性に影響するという」というものです。同じスタートアップに出資している投資家たちが、過去に共同投資をした経験のあるメンバー構成になっていればM&Aのexitが発生しやすく、投資家たちが双方を知らない場合はIPO exitの可能性が高くなる、と述べています。
その理由として、VC同士が顔見知りだった場合、exitでの協調体制が構築されやすいことを挙げています。
これも実務的には理解できるところもあります。M&Aでのexitを決めたとしても、参加している株主の合意が得られなければ、M&Aが成立しないためです。
ただ、現状の日本ではそこまで顕著には影響しないのではないか、とも思えます。日本のスタートアップの環境を見た場合、M&Aでのexitはまだ、少ないためです。すなわち、M&Aでのexitで他の株主をまとめていくという経験がVC側にも少ないように思われますので、USほどVCの構成が影響力を持つ状況ではないように思われます。ただし、今後、日本のスタートアップのM&Aによるexitが増えてくれば、この傾向がよりはっきり見えてくるのだと思います。
なお、これから起業する、または起業まもない方々で、成長を目指している方は、外部資金の導入を考えられる際に、資金ニーズ、株価、exitのvaluationなど、様々な資本政策上の変数を考えていくわけですが、どのような株主構成が良いかも想定はしていただきたいと感じています。
投資を検討させていただきたいと思える素晴らしい技術やサービスを開発しているスタートアップであっても、現状の株主名簿や資本政策表を拝見した際に、残念ながら投資を見送らせていただいたり、既存株主の再編をお願いするケースが、実際、私たちの案件でも発生してしまっています。
スタートアップとVCの強い関係は武器になる
最後に「信頼できるアドバイザー(スタートアップにとってのVC)の存在はとても重要になる」というものです。その理由として、digital ageにおいてはプラットフォームを通じてネットワークや選択肢が広がるため、親密なつながりの重要性が増すため、と述べています。
この点は合意できます。digital ageにおいて、SNSによるネットワーキングだけでなく、ピッチコンテストやミートアップイベントなど、人と出会う機会は多くなっていると思います。しかし、選択肢が増えたからといって、最良の選択ができるか、というとそうではありません。事業を成長させるためには、事業に共感し、パートナーとしてご一緒いただける人たちとのつながりが重要になります。信頼できるビジネス上の関係性を構築できる人を探すことが重要です。
出資先のスタートアップのことをしっかり理解し、共感してくれるVCとの信頼関係が構築されていれば、VCはそのスタートアップに合ったネットワークをスタートアップに紹介してくれるでしょう。
ただし、「信頼できる」というのがポイントで、スタートアップとVCの信頼関係が構築されていないのであれば、無用なネットワークを紹介され、時間だけが浪費されていく、ということが起こりかねないことも、注意しておいた方が良いように思います。
翻って、私たちのチームの投資方針・運営状況を振り返ってみます。
私たちは投資判断をさせていただく際に、経営陣の方々が、私たちとオープンに会話できる方々かどうか、を注意しています。その理由は、必ずしも「私たちの言ったことを聞いてもらいたい」という意味ではなく、相互理解と信頼関係の醸成に必要不可欠だからです。この二つがなければ、出資させていただいたスタートアップに合ったご支援ができないと考えているためです。
その裏返しとして、私たちは取締役会に人を派遣できる権利には、必ずしも拘らないことにしています。経営陣と私たちのチームの信頼関係が構築されていれば、取締役会で議決権を行使するよりも、強力だからです。
実際に、いろいろとご相談をいただける機会も多く、ご相談をいただくたびに、本当にありがたいことだと感じています。
所感
スタートアップが資金調達する際に、どのような投資家を選んでいくのか、は資金調達という根源的な意味もありますが、それ以上の意味を含んでいるかと思います。同じ資金で金額としては同じであっても、その後のスタートアップの成長に影響はあると思います。スタートアップと出資を行うVCが共感し合い、事業の成長にコミットする姿が理想的かと思います。
私たちのミッションである「私たちと関わる人々の才能が、より良い未来を現実のものとするために」に共感いただけるスタートアップの皆様に、信頼できるパートナーとして選んでいただけるよう、頑張っていきたいと思います。
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