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THE EGG (ザ・エッグ):

人間に知られている最も怖い理論とは?

Tommy Yamadaさんによる回答です。

この短編小説は2009年にアメリカの作家アンディ・ウィアー(Andy Weir)によって書かれたもので、美しく、恐ろしく、同時に示唆に富んでいます。
私がこれまでに読んだ中で、宇宙と人間についての最もユニークな考え方です。

Tommy Yamadaさんによる「人間に知られている最も怖い理論とは?」への回答


The Egg
By: Andy Weir
Translation: Alex Onsager

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君は家に帰っている途中で死んだ。

交通事故だった。
ごく普通の交通事故だったが、致命的だった。
君は妻と子供二人を残した。死ぬときに痛みはなかった。
救急隊はがんばって救おうとしたが、無理だった。君の体はもうボロボロで、実際この方が良かった。

そして、君は私と出会った。

「いったい何が起こったんだ?」と君は尋ねた。
「ここはどこ?」

「君は死んだんだよ」と私は答えた。ここで回りくどく言う必要はない。

「トラックが来てて…そしてそれが急に滑って…」

「そう。」と私は言った。

「し、死んじゃったのか?」

「 そう。でも気にする必要はない。皆いずれ死ぬのだから。」と私は言った。

君は回りを見た。何も無かった。ただ君と私の二人だけ。

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「ここはどこなんだ?」と君は尋ねた。「ここは死後の世界なのか?」

「まあ、そんなところだ」と私は答えた。

「あなたは、神?」

「そう。」と答えた。「私は神。」

「子供達は…僕の妻は…」と君は言った。

「彼らがどうした?」

「大丈夫なのか?」

「良いことを言うね。自分が死んだばかりだと言うのに一番の心配が家族だなんて。」
「その心意気好きだよ。」と私は言った。

君は私を改めて見つめ直した。
君にとって私は神には見えなかった。ただの男の人か、あるいは女性にようにも見えた。何となく偉そうな気はしたが、それは神とかよりもどちらかというと小学校の先生のようだった。

「心 配 はいらない」と私は答えた。
「彼らは大丈夫。子供達は君のことを完璧なお父さんとしてしか覚えない。憎く思えるほど一緒に時間をまだ過ごしていなかった からね。奥さんは外では泣くだろうが、本当は密かにホッとしている。実を言うと君たちの関係は崩れかけていたからね。気休めになるかわからないが、彼女はホッとしていることに対してかなり罪悪感を感じているよ。」

「そう」と君は言った。
「これからはどうなるんだ?天国とか地獄とかに行くのか?」

「どちらでもない。君は生まれ変わる。」と私は言った。

「そうか。じゃあヒンドゥー教が正しかったのか。」と君は言った。

「人々の考えはすべてそれなりに正しいんだよ」と私は言った。
「少し散歩をしよう。」

我々は二人で虚空の中を歩き始めた。「どこへ行くんだい?」と君は聞いた。

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「特にどこへも行かないよ。歩きながらしゃべるのも良いじゃないか。」

「意味はあるのか?」と君が尋ねた。
「どうせ生まれ変わったら空っぽなんだろう?ただの赤ん坊になって。だから今話しても、この命での経験や行動は関係ないじゃいないか。」

「いや、そんなことない。」と私は答えた。
「君の中には今まで得た経験と知識がすべて残っている。ただ今は思え出せないだけ。」

私 は立ち止まって君の肩に手を乗せた。
「君の魂は、君が想像も出来ないほど壮大で美しくて、巨大なんだよ。人間の頭に反映しようとしても、ほんの一部しか収 まらない。コップの水の温度をはかるために指先を入れるようなもんだよ。自分の小さな部分をそこに入れて、取り出す時には体全体にその一部の経験が伝わっている。」

「君はここ48年間ずっと人間の体の中だったから、意識を広げてその壮大さを感じ取る機会がなかったんだよ。しばらくここにいたら少しずつ、全てを思い出してくるけど。一つ一つの人生の間にそれをする必要はないけどね。」

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「じゃあ、僕はもう何回生まれ変わってるんだ?」

「そりゃもう、沢山さ。本当に沢山。そして色々な人生にね。
次は確か、君が言う中世時代の中国の女の子かな?」

「え?ちょっとまってくれよ」と君は驚いて言った。「僕は過去に飛ばされるのか?」

「まあ、そう言われるとそうかもしれない。君の言う時間は君の世界でしか存在しないからね。私が元々いた場所では意味の無い話になってしまう。」

「元々いた場所があるのか?」と君は言った。

「そりゃあるさ」と説明した。
「私だってずっとここに居た訳ではない。別の場所から来た。そして私みたいな存在もほかにいる。君がその場所の話をもっと聞きたいことはわかるが、説明しても君には理解出来ない。」

「そうか」と君は残念そうに言った。
「でも待てよ。時間がばらばらで生まれ変わるのなら、自分と出会ったこともあるかもしれないじゃないか。」

「そう。よくあることだよ。けどお互いの存在は自分の人生のことしか認識していないからそこで気づくことは無い。」

「じゃあ、いったい何のために?」

「存在の意味か?ありきたりな質問だね。」私は訊ねた。

「けど聞く必要は十分あると思う」と君は問い続けた。

私は君の目をじっと見つめた。「存在の意味、そしてこの世界を私が作り出した理由。それは君を成長させるためだ。」

「人類のこと?人類に成長してほしいの?」

「いや、君だけだ。私はこの世界のすべてを君一人の為に作った。人生を重ねることによって君は成熟し、さらに壮大で完璧な知性となっていく。」

「僕だけ?ほかの人々は?」

「ほかは居ない」と私は答えた。「この世界には、君と私の二人しか存在しない。」

「でも、世界中の人々は…」

「すべて君だよ。全員君の生まれ変わり。」

「待って!」
「全人類が僕だと言いたいのか?」

「やってわかってきたね」と私は微笑んだ。

「今まで生きて来た人間がみんな僕?」

「そう、そして今後生まれてくる人々も全員ね。」

「僕がリンカーン?」

「そしてジョン・F・ケネディでもある。」と私は付け加えた。

「僕がヒトラー?」と君は動揺を隠せず聞いた。

「そして彼が殺した何百万人の人々。」

「僕がイエス・キリスト?」

「そして彼に従う全ての人々でもある。」

君は黙り込んだ。

「君が誰かを犠牲にするとき、それは自分を犠牲にすることになる」と私は続けた。
「君が人に親切をするとき、それは自分への親切となる。今まで経験された、そしてこれから全人類に経験されることとなるうれしい思い、悲しい思い、これを全て君が経験する。」

君は長い間考え込んだ。

「どうして?」と君は訊ねた。「なぜこんなことをする?」

「それは、いつか君は私みたいになるから。君はそういう存在であるから。君は我々と一緒。君は私の息子なんだよ。」

「そんな、」と君が信じられないように言った。「僕が神だということか?」

「いや、まだそうではない。君は胎児。まだ成長をしている途中。全人類全ての人生を経験した後、君は十分成長を積みやっと生まれることが出来る。」

「じゃあ、この宇宙って言うのは…」

「卵だよ」と私は答えた。「さあ、次の人生を始める時間だ。」

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そして、私は君を見送った。

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出典: The Egg

画像出典: Google Images

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