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延藤 直也
2024年3月31日 07:01
朝日が射し込む角度は春眠い目を擦りながら目的地に着くまで停まらない時間から降りる湿った暖かな微風半袖姿の少年桜の木に止まるうぐいす春の濃度が増す窓を開けて息を吐く吐いた分だけ息を吸う春の香りが気管から肺へそれから全身を駆け巡る
2024年3月30日 09:30
夕日は水平線に融けて空が夜色に塗れる朧げな半月とそれぞれ地球との距離の異なる星々が静かな夜をより一層鎮める夜が夜である限り今日は終わらない明日は始まらない暗い夜が頭を撫で頬擦りし肩を包む何度も今日の夜に救われなんとか明日を生き抜いている夜に感謝してもしきれない夜への恩返しについて考える時結論が出る直前でいつも眠りに就てしまう夜に救われてばかりだ
2024年3月29日 07:11
暗くとても暗く寒い晩冬の台所でガラス片みたく角の尖った言葉の断片が裸足の足裏に刺さるも床の冷たさが痛覚を麻痺させるお湯の出ない蛇口を捻って薬缶いっぱいに水を入れて青い炎で湯を沸かすその間に風呂を沸かす為風呂場へ向かうと浴槽の片隅に蜘蛛がひっそり佇む蜘蛛は動くことと動かないことどちらをも選ぶことなくただそこに居る暫く見つめていると時間の感覚を見失いやがて視界がぼ
2024年3月28日 07:27
今日から明日への道中で人ひとり寝転べるくらいの小さな洞穴を見つける一休憩と思い洞穴に身体を寝転がせるはちみつの甘い香桜が咲き始める夜の涼夢と現実の間へと誘う純連の紫月光さえ射し込む余地のない洞穴で眠に鎮む
2024年3月27日 08:02
雨をはじめる一滴目が降り始めてから雨を終える最後の滴が降り終わるまでの間湿っぽい古びた雑居ビルの二階の窓辺で幾つかの詩を書く自分が書いた詩を自分が読む読み込むほど自分の詩に辟易するほとんど角砂糖みたいな甘ったるい飴を舌で数回転がしてすぐ噛み砕く改めて窓の外を見てみると一度止んだ雨がまた降り始める閉じたノートを開いて雨という題の詩を書き始める
2024年3月26日 07:57
昨日の雪今日の雨用水路は雨が降った分増水し集積場に集められた生ごみは濡れ枯木から傘に雨水が滴り落ちる夜みたいな昼朧月みたいな夕日年の瀬みたいな春のはじまり晴れたり雨が降ったりあるいは雪が降ったり昨日と今日と明日の違いは空模様くらいそれくらいしか無いの地続きの日々を坦々と歩く
2024年3月25日 07:02
茶褐色の胴体に六本の足を携えた一匹の虫が、精神の内側を、輪郭をなぞる様に歩いたり、或いは飛びまわる。昼、一匹の虫は音ひとつ立てず寝静まっている。夜、部屋の灯りを消して目を閉じて精神が眠りに着地した瞬間、一匹の虫は起き上がり這って活動を始める。朝、小さな窓から朝日が射し込むと、途端に一匹の虫は活動を止めてその場に倒れ込み、一瞬にして深い眠りを手に入れる。昼夜問わず、一匹の虫は精神の反応、つまり喜怒哀
2024年3月24日 06:54
低い鉄棒と高い鉄棒が二つ並んで低い方の鉄棒に手袋が高い方の鉄棒に帽子が掛かっている薄明かりの街灯が舗装されていない砂利道を照らし幾つかの影が往来する風が吹いて風が止むブランコがほんの少し揺れる人の声が聞こえる方を振り向くとただ枯れた木が立っている冬と春季節が重なり合い巡り合う
2024年3月20日 09:02
菌で澱んだ声帯から痰が絡んだ喉仏を振るわせて伝えたい言葉が音になり損ねて霞む伝えたい事伝えたかった事何一つ言葉に出来ずに声帯の奥底にあるため池に溜まっていくつい昨日伝えたかった事は既に底の方に沈み見えない取り出す事も到底出来ない伝えようと思えば思うほどため池の水は濁りを増すあの時伝えたかった事が声帯まで浮かび上がるのを暗闇で待っている
2024年3月18日 08:10
何もする事がないということはない布団のシーツを洗って干す事玄関の砂埃を掃いて靴を揃える事窓を開けて空気を入れ替える事花の挿された花瓶の水を変える事年に数回しか履かない革靴を磨く事テレビの裏のコードに絡まった埃を取り払う事椅子と机の脚を吹き上げる事お風呂の床を磨き洗う事箪笥に仕舞った服を整える事汚れた物や使わない物や散らかった物を元に戻す事元に戻してから本当の一日
2024年3月23日 07:43
沈みゆく陽の光が海面にすうっと伸びて水平線が燃える闇夜に真っ黒く塗り潰された海を月光だけを頼りにして歩く灯台の明かりがうっすら見えた瞬間穏やかな波に飲まれ暖かい海流に流され静かな深海に沈む
2024年3月22日 07:10
薄い靄が張る空に輪郭のくっきりした太陽が燃える蕾を付けた木々の影が柔らかく揺れるアスファルトに散り散るガラス片が煌めく道端に咲く純連の紫で春の絵を描く駐車場で日向ぼっこする猫を写真に撮る
2024年3月21日 07:01
駅から家までの小路で雨雲と鉢合わせソーダ水みたいな軽やかな雨粒と冷めたお風呂の湯みたいな温い雨風とこんにゃくみたいな黒混じりの灰色の雨雲が祖母が孫を抱く様に街を包む古民家の軒下に雨雲から隠れる雨雲が前を走る風を追って次の風に追われて流れる踏切を越え国道を越え河川を越え山林を越え雨雲の過ぎ去った街に春が薫る
2024年3月19日 07:23
小さな窓から射し込む陽光は春の温もりを纏っている食パンを齧る音うぐいすが鳴く音洗濯機が回る音冷めた珈琲を啜る音鼻を擤む音色とりどりの音が朝を奏でる一日を始める為に幾つかの詩を読むいつまでも始まらない一日いつのまにか誘われた微睡み眠に就て眠から覚めるまでは一瞬朝は微風に吹かれて次の風が昼を連れてくる