フォローしませんか?
シェア
延藤 直也
2023年5月31日 20:44
海の向こう側にいるあなたに届かなかった思いや伝えきれなかった言葉や溢れるように流れ出た涙が身体と一緒に冷たく暗く静かな海の底に沈んでいく身体から湧き出た感情は泡となって浮き上がり水面下でそっと消えた
2023年5月30日 10:12
現実から逃げたくてずっと逃げているのに現実は追いかけてくる追いつかれて逃げて追いつかれてまた逃げて追いつかれるたびに逃げ出すいっそ現実に追い抜かれて置いてけぼりにしてくれたらいいのに夢に追いつきたくてずっと追い続けているのに夢は逃げ続けている薄く小さくほんの少し見える夢の背中を追い続けているいっそ現実に追い抜かれて代わりに現実が夢に追いついてくれたらいいの
2023年5月29日 09:46
街の片隅にある雑居ビルの階段にたったひとりで少女は座っている黒目は真ん中に唇は閉じたまま笑うことも泣くこともない喜怒哀楽を失ったのではなくもともと何も持たずに少女は座っている毎日同じ場所にいて毎日同じ格好をして毎日同じ人間として少女は座っているいつの日かあの場所でその少女は目を向けて唇を開いた絞り出した言葉は海の向こうの遠い国の言葉だった返す言葉
2023年5月28日 09:19
朝、カーテンの向こうにある世界を眺めるバタートーストと昨晩の残りのみそ汁を食すベランダに咲く薔薇を見ながら洗濯物を干す珈琲を一杯点てる昼、街の隅にある小さな書店で買った本を読む冷蔵庫で眠る残り物を組み合わせてランチする濁った青色のカーペットの上でうたた寝をするひとりでいる夜、何回も聴いた曲をまた何回も聴きながら口遊むいつもと同じ畳み方で取り込んだ洗濯物を畳む今日食べる
2023年5月27日 09:52
西から東へ葉桜を揺らし朝顔を撫でて白雲の背中を押して青空のお腹をさする東から西へ夜のカーテンを揺らしうぐいすの頬を撫でて溜まった洗濯物を乾かしてあの日の記憶を連れてきて明日は明日の風が吹く
2023年5月26日 09:57
あなたと一緒に乗ったあの日の電車と同じ電車は今日も沢山の人を乗せて走るあなたと一緒に見たあの日の夕陽に似た夕陽が今日一日に無言で別れを告げるあなたと一緒に食べたあの日のアイスが忘れられず仕事帰りにふたつ買って帰るあなたと一緒に歩いたあの日の砂浜のような駅から家までの道のりをただひとり歩くあなたと一緒にいたあの日の記憶が今日を生きる意味となってわたしを生かしている
2023年5月25日 20:14
夜の暗闇に飲み込まれぬように、落ちていく夕陽を必死に追いかける夕陽は追われていることも知らずに、地平線のその先に落ち続けるわたしは今落ちた夕陽を脳裏に焼き付けて、夜に飲み込まれる
2023年5月24日 09:28
外の世界が朝を迎える頃布団の中は未だ夜を纏う地球が太陽の光に温められる頃わたしは毛布に包まって温まる空が黒く塗りつぶされる頃灯のない暗闇の深淵で眠る光もない灯もない人もない冷たい温もりだけがある
2023年5月23日 00:47
一秒、一秒、また一秒と続いて長針が一分進む一分、一分、また一分と続いて短針が一時間進む一時間、一時間、また一時間と続いて一周、二周、周り一日進む朝を迎えて夜を超える春を歩いて夏を走る秋を飛んで冬を這う雲に乗って空を駆ける雨に流されて風を追い掛ける太陽に溶かされて海を潜る今日が昨日になって明日が今日になって一日、一日、また一日と続いて一年進む一年前と似た少し冷
2023年5月22日 09:21
静寂に包まれて暗闇に覆われた深淵の夜自分の足音以外に音はなく半月の月光以外に光はなく昨日と今日あるいは今日と明日の境目に線はないこれまで歩いてきた道もこれから歩いていく道も見えない今踏み出した一歩と次に踏み出す一歩だけが半月に照らされている
2023年5月21日 09:36
わたしがみた新緑とあなたがみた新緑はきっとちがう色の緑でわたしがきいた鶯の歌とあなたがきいた鶯の歌はきっとちがう音色の歌でわたしがかんじたあなたの温もりとあなたがかんじたわたしの温もりはきっとちがうやさしさを持つ温もりでわたしの一歩とあなたの一歩は歩幅も速度も歩き方もきっとちがう一歩でわたしが歩いてきた道とあなたが歩いてきた道は距離も坂の数も地形もきっとちがう道
2023年5月20日 19:37
静寂の朝に清涼の風がそよぐ新緑の中から小鳥の声が響く食卓にパンとコーヒーが並ぶわたしのとなりにきみがいるこれを幸せと呼ぶ
2023年5月19日 09:15
洗濯物をベランダで干していると東から吹く風が木々を揺らす学校へ向かう子どもたちの声と小鳥の囀りが重なり合って風に乗るずっと昔のことやつい昨日のことや今ここにいることが一緒に風となり一瞬で自分を追い越す忘れていたことと忘れられないことが風と風の間で交錯して柔軟剤の匂いがふわっと香る
2023年5月18日 12:52
それはいつも予兆なく急でこちらの事情など関係なく勝手気ままに飄々と訪れる箪笥の匂いがするTシャツを着てサンダルを履いて玄関を出る薄汚れた自転車のサドルは熱を帯びて余儀なく立ち漕ぎをする車の下の影に寝そべる猫と目が合って顔見知りの人と会ったみたいに会釈するじんわり滲む額の汗を袖で拭こうとすると若い朝顔が咲いているのが見える鼻で吸った空気は熱く目に映った色彩は濃く世界の扉