急性期の早期経腸栄養
急性期の栄養療法ガイドラインは大きく分類して3つあります。
米国を中心としたASPEN(American Society for Parenteral and Enteral Nutrition:米国静脈経腸栄養学会)の2022年のガイドライン(1)
西欧諸国を中心としたESPEN(European Society for Clinical Nutrition and Metabolism)の2019年のガイドライン(2)
日本で作成された日本版重症患者の栄養療法ガイドライン総論2016&病態別2017(J-CCNTG: Japanese Critical Care Nutrition Therapy Guidelines)(3)。
それぞれのガイドラインにおける急性期の早期経腸栄養についてまとめました。
早期経腸栄養とは入院した後の腸を用いた栄養になります。
入院した後に食事を口から食べることができれば口から食べるのが望ましいのですが、人工呼吸器を使用している、意識が悪いなどの理由があると口からご飯を食べることができず、鼻に管をいれて栄養を投与することになります。早期経腸栄養というのは多くの場合この管による栄養のことです。
経腸栄養は腸管粘膜の形態学的維持、さらには正常な腸管細菌の成長を維持して菌交代(バクテリアルトランスロケーション)を避けるために有効です。
2019年のESPENのメタアナリシスでも早期経腸栄養は感染の合併症を減らすと報告されています(リスク比 0.76[95% CI: 0.59–0.97, p < 0.03)(2)。
そのためESPENのガイドラインでも48時間以内の早期経腸栄養が推奨されています。ASPENのガイドラインでは早期経腸栄養の開始時期に関して記載はないものの、本邦のJ-CCNTGでもICU入室後24-48時間以内に早期経腸栄養が推奨されています。
一方で2022年の米国を中心とした敗血症ガイドラインであるSSCG 2021(Surviving Sepsis Campaign Guideline 2021)では早期経腸栄養開始基準が72時間以内と報告されました。しかし、多くのRCTやメタアナリシスなどでは42時間以内の早期経腸栄養での優位な結果を報告しているため、この72時間以内という基準に関して明確な根拠がありません(4)。そのため現時点では48時間以内の早期経腸栄養が望まれると考えてよいように思います。
特にサルコペニアという筋肉が少ないような患者さんでは48時間以内の早期経腸栄養により院内死亡率が低下することが報告されており、とても重要です(オッズ比 0.18 [95% CI:0.05-0.71], p = 0.014)(5)。
一方でとても重症な患者さんでの早期経腸栄養には注意が必要です。
循環動態が不安定な患者さんでは腸管血流が低下し、その状態で経腸栄養を投与した場合には消化管での酸素消費量が増大して腸管壊死、つまりNOMI(Non-Occlusive Mesenteric Ischemia: 非閉塞性腸管壊死)に繋がる場合があります(6)。経腸栄養開始後にNOMIをきたすと、死亡率は58%にも達するといわれています(7)。
一般的に予後を改善するといわれる早期経腸栄養も高容量のカテコラミンを使用している患者さんではその効果は明らかではありません。カテコラミン投与量の違いによる早期経腸栄養の予後改善効果を検討した論文では低用量(< 0.1 µg/kg/min)または中等度(0.1–0.3 µg/kg/min)のノルアドレナリンを使用している患者さんでは生命予後が改善しましたが、0.3 µg/kg/minを超える量を使用している患者では生命予後改善効果を認めませんでした(8)。
一方で早期経腸栄養の安全性を検討した研究では敗血症性ショックの患者さんでも十分な輸液下で0.14ug/kg/min未満のノルアドレナリン投与であれば高容量胃残などの有害事象を有意に認めませんでした(9)。
つまりカテコラミンを要する患者さんで早期経腸栄養ができないわけではなく、高容量のカテコラミンを使用している患者さんでの早期経腸栄養に注意が必要となります。
経腸栄養の目的や注意点をしっかりと理解して、明日からの臨床につなげていきたいですね。一人でも多くの重症患者さんの社会復帰を目指します。
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参考文献
1. Compher C, Bingham AL, McCall M, et al. Guidelines for the provision of nutrition support therapy in the adult critically ill patient: The American Society for Parenteral and Enteral Nutrition. JPEN J Parenter Enteral Nutr46:12-41,2022
2. Singer P, Blaser AR, Berger MM, et al. ESPEN guideline on clinical nutrition in the intensive care unit. Clin Nutr38:48-79,2019
3. 日本版重症患者の栄養管理ガイドライン作成委員会. 日本版重症患者の栄養管理ガイドライン-総論2016&病態別2017‐ (J‐CCNTG) ダイジェスト版.2018
4. Higashibeppu N, Nakamura K, Yatabe T, et al. Is "within 72 h" sufficiently early? Intensive Care Med48:251-252,2022
5. Koga Y, Fujita M, Yagi T, et al. Early enteral nutrition is associated with reduced in-hospital mortality from sepsis in patients with sarcopenia. J Crit Care47:153-158,2018
6. Kazamias P, Kotzampassi K, Koufogiannis D, et al. Influence of enteral nutrition-induced splanchnic hyperemia on the septic origin of splanchnic ischemia. World J Surg22:6-11,1998
7. Leone M, Bechis C, Baumstarck K, et al. Outcome of acute mesenteric ischemia in the intensive care unit: a retrospective, multicenter study of 780 cases. Intensive Care Med41:667-676,2015
8. Ohbe H, Jo T, Matsui H, et al. Differences in effect of early enteral nutrition on mortality among ventilated adults with shock requiring low-, medium-, and high-dose noradrenaline: A propensity-matched analysis. Clin Nutr39:460-467,2020
9. Merchan C, Altshuler D, Aberle C, et al. Tolerability of Enteral Nutrition in Mechanically Ventilated Patients With Septic Shock Who Require Vasopressors. J Intensive Care Med32:540-546,2017
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