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『山羊の大学』第3号 内容紹介

明日9月25日の文学フリマ大阪で『山羊の大学』第3号(漫画特集)をメルキド出版のブース(Hー37)で販売いたします。今回は詳しい内容紹介をします。

なぜいま商業誌でも特集をたびたび組まれる「漫画」をわざわざ同人誌で企画する意味があるのか? 本誌はけっしてマイナーな漫画の発掘・発見をするためのものではない。その証拠に言及される主な漫画家を列挙してみよう。
大島智子、岡崎京子、藤本タツキ、尾田栄一郎、高野文子。
もちろん現代の漫画家の知名度は個人の趣味嗜好の多様化により固定的ではないだろう。それでも上記5名の漫画家はどなたもネームバリューを持っている(私は寡聞にして大島智子は知らなかったが)。
むしろ一般に流通している「漫画家」のイメージを覆すことに意味を見出したい。
特集外の記事もたいへん充実している。稚拙な面もあるとは思うが、大いに期待してもらいたい。

書誌情報
誌名 山羊の大学 第3号
出版元 メルキド出版
レーベル トルーマン
A5判 258頁 紙製 1000円

目次

●巻頭漫画
山中美容室
「いいきぶん」
喫茶店で二人組のたわいない会話は大企業のイメージを巡り巡って……。2Pのショート漫画。秋文フリ東京で刊行予定の単行本から先行発表。

●序文
沖鳥灯
「新世紀のサブカルチャー」
藤本タツキと阿部和重にヒッピー/ハッカーの視点を介して、戦後サブカルチャーの覚醒とする。その蝶番は『涼宮ハルヒの憂鬱』とゴシック。

●特集1 漫画家と本
有島みこ
「平坦な日常でそれでも僕らが生き延びること 大島智子『セッちゃん』論」
戦時中の坂口安吾、戦後の学生運動、平成のオウムと震災、ロストジェネレーションなどの若者たちについて。

木耳
「フィクションの自立性を考える──藤本タツキとゼロ年代批評」
「東・宇野論争」から精緻に東浩紀を読解。さらに『ルックバック』『さよなら絵梨』『フツーに聞いてくれ』を等身大で語る。

Yoshioka
「考察・伏線回収・陰謀論」
『ONE PIECE』と『チェンソーマン』に関するYouTubeやSNSで拡散されるいきすぎた「考察」を慎重かつ大胆に分析。

Kiaro
「感情のアルバム」
高野文子の表紙絵に魅せられてつぎつぎに彼女の作品を読み込んでゆく。『絶対安全剃刀』『おともだち』『ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事』『るきさん』『黄色い本』『棒がいっぽん』など。

●特集2 藤本タツキVS阿部和重(二次創作)
不逢言哉
「イージー・リベンジ!」
会社員たちの深夜の居酒屋トークはMISIAから「アメリカの夜」へと脱線してゆく。DTPデザイナーの筒井は阿部和重『アメリカの夜』の文字列に魅了され、ある「テロ計画」を思いつく。

灰沢清一
「Premium Bomber」
ながやまこはるが何者かに誘拐された!? セブンイレブン神田神保町3丁目店で巻き起こった珍騒動は多種多様な固有名詞を呑み込んでこはるの姉けいこを困惑させる。事件は女性化した阿部和重の登場によりますます混迷の度を深めてゆく。

織沢実
「青い町を、ミルクの河が流れる」
謎の老人・首塚氏を中心にいびつな円を描き躍動する若者たち。後藤明生ばりのとぼけた筆致はやがて町に及ぶカタストロフィさえも逸脱するかのようだ。

●論考
ヤマグチ
「ある死者の証言 アシア・ジェバール『墓のない女』第12章について」
アルジェリアの女性作家アシア・ジェバール(1936ー2015)の当該作を歴史の犠牲として美化しない強固な精神で読もうと試みる。

芳野舞
「遍在する「穴」──ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』第六挿話についての一考察」
20世紀文学を代表し、いまだ数々の謎を投げかける希代の長篇『ユリシーズ』。1904年6月16日のダブリンの一日からあと2年で120周年。原著刊行は2022年で100周年。記念の読書会を元に書かれた論考。

●短篇
おさかな そこ
「満月の夜の海の話」
言葉を解す奇妙な蛸が「隣人」に語る摩訶不思議な海洋ロマン。抱腹絶倒、驚天動地の物語は真実か法螺話か。ライトでビターな奇想小説。

山坂槿
「下山の三島と口紅って三島由紀夫の三島なの?」
クラスメイトの下山に情念を燃やす女子高生らら。深夜突如としてインスタにあげられた下山のポートレイトにららは衝撃を受ける。三島以後のペラい日本語と対峙する同時代文学。

古戸治良
「さかえだ線」
過酷な家庭環境の先輩の実家に電車で同行しようとする融。田舎の路線で交わされる二人の会話と車窓の風景。ダーク日常系の誕生。

●紀行
佐藤智史
「随想紀行録」
夕映えの教室で昨冬の旅を回想する。天橋立、難波・日本橋、太陽の塔。雄大な自然とちっぽけな存在の自分。間隙に「歌」は宿るのだ。

●写真・装幀
Yoshioka

●編集
沖鳥灯

●組版
三千周介

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