侠客鬼瓦興業 第7話めぐみちゃんの秘密
おでん顔の二人組との死闘を、みごと愛の力で勝利した僕は、ぼろぼろの身体を引きずりながら、鬼瓦興業にむかって歩いていた。
そして僕の後ろには、いつのまにか、すっかり僕に心酔しきって、まるで下僕とかしている、金髪の鉄が相変わらず鋭い目つきをしながらついてきていた。
「鉄君、一応救急車は呼んでおいたけど、大丈夫かなあの人たち。」
僕は鉄パイプの下敷きになって気絶していた、おでんの二人を思い出しながら鉄に話しかけた
「…だ、大丈夫でしょ………、ちゃんと…息…してたから……」
鉄はボソッとつぶやいた。
「それより、あ、兄貴…、鉄君は…やめてくださいよ…、今日から舎弟なんですから、鉄って…そう呼んでくんねーと…」
鉄は僕にむかってそういいながら、ぼろぼろに欠けた歯で微笑んだ…。
ぞーーーーーー!
彼の不気味な笑顔を見るたびに、背筋が凍るおもいがした。
僕は出来る限り彼を見ないようにしながら、おでん達に対した時のことを思いだしていた。
(何であの時、あんな不思議なパワーがでたんだろう、やっぱり、愛のパワーなんだろうか?)
僕はめぐみちゃんの顔を思い浮かべながら、ボーっと考えていた。
(考えてみると、彼女とは面接でほんの数分あっただけなのに、あの日以来、頭からはなれなくなって、おまけにあんなパワーまで・・・、これが一目惚れの力というものなのかな…)
僕は両鼻に大きなティシュをつめこんだ顔でポッと頬をそめながら、夜空を見上げてにんまり微笑んだ
(でも、彼女はいったい?銀二さんの話では、社員でもなく、娘さんでもなく、どういった子なんだろう、まさにミステリアスだなー、いったい彼女の正体って…)
僕はぞっとするのを覚悟で振り返ると、おもいきって鉄に彼女のことを聞いて見ることにした。
「ねえ、鉄君」
「………鉄です!」
鉄はぎろっと僕を睨んできた。
「あ、ご、ごめんそれじゃ…て、鉄…」
「なんっすか、兄貴~」
鉄はうれしそうに、気味の悪い笑顔を僕に向けた。
「あ、あの、鉄はめぐみちゃんって知っていますか?」
「……め、めぐみちゃん!!…」
鉄は突然青ざめた顔で、黙り込んでしまった
もともと時間差会話の鉄だが、今回は少し様子が違う、僕は鉄の青ざめた顔を見て、急に不安な心がよぎった。
「あ、あの鉄、彼女には何か?」
僕は思った、彼女には恐ろしい彼氏がいるのでは、それで鉄はこんなに怯えた顔を…
「あの鉄、彼女ってもしかして、こわい彼氏がいるとか?」
「………………………」
またしても鉄の沈黙が続いた、僕はさすがにじれったくなってしまい、
「だから、彼氏がいるのか、いないのかー?」
気が付いた時、僕はあの恐い鉄の顔に詰め寄り、ドキドキしながら返事をまった。そして返ってきた鉄の言葉はあっけなく
「彼氏がいるなんて…、聞いたことありませんよ……」
僕にとって最高の言葉だった。
「あーよかった、彼氏はいないんだー」
僕はほっとしたせいで、思わず鉄がいることを忘れてそうつぶやいてしまった。
「え?兄貴もしかして・・・、めぐみさんのこと・・・」
いつもはなかなか返事もしないくせに、こういう時だけは、すばやく鉄は僕に質問をかえしてきた。
「え、あ、あのその…」
僕は真っ赤になって、しどろもどろ返事をはぐらかした。そんな僕を鉄は無言で見つめ続けていた、しかしその目は、冷やかしとかそういう目ではなく、恐ろしい生き物でも見ている、そういった目だった。
「あ、あのどうしたの鉄、そんな顔で僕を見たりして…?」
僕は額に青い線を数本たらしながら、恐る恐る鉄の顔をみた、すると鉄はそれまでの恐怖に怯える顔から、今度は尊敬する顔にかわって、突然訳のわからないことを言い始めた
「さ、さすがは兄貴だー!…あの、めぐみさんに目をつけるなんて、やっぱり俺が兄貴と認めただけの人ですねー……」
鉄は腕組みをして、うれしそうにうんうんと、うなずきながら僕のことをまじまじと見つめていた
「え?何?なんで?さすがって?」
ぼくは、鉄が感心している理由が、lさっぱり分からなかった、
しかしめぐみちゃんには彼氏はいない、そう分かったことで不安はなくなり、僕のあたまの中は大きなハートマークでいっぱいになっていた。
そんな僕に鉄はふたたび気になる、一言をあびせかけた。
「さすがは兄貴だー、あの、めぐみさんに挑みかかろうって言うんだから、やっぱり、はんぱねえ!男の中の男だ…」
「え、挑みかかる?」
「あの、めぐみさんに挑みかかるなんて・・・やっぱ兄貴は半端ねえ・・・」
鉄は再び恐ろしい生き物を見るようなまなざしを僕に向けた。
「えっ?えっ?鉄、だから挑みかかるとか、半端ねえとか・・・いったい?」
「おーい、吉宗ー!鉄ー!」
鉄の気になる一言で固まっているところへ、僕らを呼ぶ声が聞こえてきた。振り返るとそこには、僕たちを見つけてうれしそうに駆け寄ってくる、銀二さんの姿があった。
「銀二さ~ん!」
銀二さんの顔を見た瞬間僕は、今までの恐ろしい出来事から救われたようなほっとする気持ちになって、思わず声を出して泣き出してしまった。
「ぎんじすわーーーん!」
「あらー、何だお前達、そんなぼっこぼこのツラしやがって…」
銀二さんは僕と鉄の顔を見て大笑いしていた。
「でもよかったー、お前らが見つかったから、これでやっとこさ、夕飯にありつけるぜ」
「いやーよかった、よかった、あねさんは探して来いって言うし、腹はぺこぺこだし、いやーよかった、飯が食えるー」
銀二さんは僕たちの、このぼこぼこの姿などどうでもよく、ただ頭の中はご飯のことでいっぱいだった。
「本当によかったー、めしだーめしめしー」
銀二さんはご飯が食べれると、さんざん喜んだあと、ふいっと後ろを振りかえり声をはりあげた。
「おーい、見つかったぞー、これで飯が食えるぞー!」
僕は銀二さんが声をかけた先を見た。
「あーーーーー!?」
一瞬僕のまわりの空気がとまった。
(めぐみ…ちゃん!?)
そう、僕の目の前には、夢にまで見た面接の彼女、めぐみちゃんが、心配そうな目を僕に向けながら静かに立っていたのだった。
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