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侠客鬼瓦興業 第6話吉宗くん愛のパワー

ついてない一日とは、どうしてここまで、とことん続くのか、

意気揚々と就職してみれば、そこはなんとテキヤの世界、おまけにパンチパーマにダボシャツ姿に変身させられた挙句、鉄という目つきの悪い男のおかげで、僕は仕事帰りの路地で恐怖の世界に追い詰められていた。

僕の足元には、その張本人の鉄が、頭から血をながして気持ちよさそうにノックアウト中、そしてその向こうには、いかつい顔の男が二人、危ない目で僕を睨みすえていた。

「あ…あの、暴力は、暴力はやめましょうね、は、話し合いで、解決しましょう、話し合いで…」

僕は頭のてっぺんから出てるような甲高い声で、男たちにうったえた。

「あーん、何なめたこと抜かしてんだコラー、てめえらから喧嘩うったんだろがーボケー!」

長身でいかり肩、そして顔はまるで、はんぺんのように四角い男が、すごい形相で僕に近寄ってきた。

「いや、あ、あの喧嘩を売ったのは僕じゃなくて、この人…」

僕は資材置き場の壁に追い詰められながら、一生懸命気絶している鉄を指差した。

「こいつもくそも関係ねーだろが、生意気にパンチパーマなんぞ当てやがって」

今度ははんぺんのような男の後ろから、丸顔でやたら血色がよくつるつるした、ゆで卵のような男が倒れている鉄を足蹴にしながら、僕にすごんできた。

「パンチパーマって?いやあのこれには、事情が…」

僕ははんべそを書きながら、一生懸命パンチパーマ頭を手でかくした。

いつもの僕だったら、こんなガラの悪いおでんみたいな人たちと、こんな事になるなんて、ありえないのに…。僕は気持ちよさそうに眠っている金髪の鉄を、恨めしい目でチラッと見つめた。

そう、ことの始まりは、すべてこの鉄が原因だった。

相変わらず時間差会話を繰り返す鉄に、僕は何となく親しみを覚え始めたさなか、ふいっと路地を曲がったところで、このおでんの具のようなチンピラ達と、ばったり出くわしてしまったのだ。

よくある光景というか、そのおでんのような二人は、路地脇の自動販売機の脇で、しゃがんで、言い方を代えれば、うんこすわりでタバコをふかしていた。

僕にとっては駅前や夜のコンビになどで、良く見る光景で、そういう人たちに遭遇してしまった時には、当たらず触らず、そーっと目を合わせないように、そして出来るだけ小さくなって、通り過ぎれば、何ごともおこらずすむ。

今日も僕はとっさに道路の隅にそそくさと移動して、小さくなって目をあわさないように無事通り過ぎた

が…!

いつもならそれで終わりだったのに、今日の僕には、この金髪の鉄という男のおまけがついていたのだ。

僕がおでんの二人を無事スルーし終えて、チラッと後ろを振り返ったとき、そこではすでに大事件が始まっていた

鉄はなんと、立ち止まり、得意の鋭い目つきで、おでんの二人を、じーっと見つめていたのである。

僕はその瞬間背筋が凍りつき、ぐわっと顎が開いたまま閉じなくなってしまった。

「あー、ちょっと鉄君!?」

僕が小声で鉄を呼んだのと同時に、ゆで卵の男が立ち上がり、鉄の胸ぐらをつかんでぐいっと上に突き上げた。

「何だコラー!なにガンくれてやがんだ、おー!」

「……………………」

鉄は胸ぐらをつかまれながらも、黙って恐い顔で、ゆでたまごを見つめていた。

「あー!だめだって、鉄くん」

僕はそういいながらも、かくかく震える足で、そっとその場からはなれようとした。

ところが

「おい、てめえも仲間か、こらー」

振り返ると、そこにはいつの間にか、もう一人のはんぺん男が、小さな眼玉をぐりぐりさせながら、恐ろしい顔で立っていたのだった

「ひえーーーーー、」

僕は恐怖のあまり、その場で固まって動けなくなってしまった

「こっち来いよこらー!」

たまご男は、わめき散らしながら、鉄の胸ぐらを強引に引っ張り、近くの工事会社の資材置き場につれこんだ、

と、その時だった、今まで黙って相手を睨み据えていた鉄が、ニヤッと自信に満ちた顔で微笑んだのだ、

「え!?鉄君…」

僕は鉄のその不敵な笑みを見て、この男もしや格闘技の達人では・・・、そんな予感を肌で感じ取った。

が、そのあと目にした光景は、鉄がなすすべもなく、たまご男にボコボコに殴られたすえ、とどめに、かかと落としを脳天に一発もらって、地べたに崩れ落ちるぶざまな姿だった。

「よ、弱!…」

僕は鉄という男が、みごとに応戦して自ら作ったこの難局を打破してくれるのでは、あの不敵な笑みから、とっさにそう思ったのだが、その淡い期待はものの数秒で終わった。

 「お前もだコラー!」

ふがいない鉄のKO劇にショックで口をおっぴろげていた僕の背中を、こんどは、はんぺん男がドンっと突き飛ばしてきた。

そして気が付いたとき、今度は僕が、おでんの二人に、その場で追い詰められていたのだった

「あの、すいません、すいません、は、話し合いましょう。」

僕は一生懸命半べそをかきながら、二人ににうったえた、

しかし目の前にいる、彼らはギラギラした目を僕にむけながら、まるで獲物を狙う、おでんといった顔で、じりじりと近づいてきた。

そして僕の必死のうったえをまったく聞くよしもなく、ようしゃなく襲い掛かってきた!

「このガキャー!」

ブヮキーーーー!!

たまご男のすごいストレートが僕の顔をとらえた、

「ぐぶわーーーー」

倒れたところを今度ははんぺん男の強烈なキックが僕のお腹につきささった

「ぐぅおーーーー」

それから、おでんの二人は、何発ものパンチやキックを僕に浴びせてきた

(こ、こんなところで僕の人生は終わりなのか…、思い起こせば、ごく普通に生まれ育って、これといった趣味もなく、そして内気で恋愛経験もほとんどなく、何時でも小さくなって生きてきた僕の人生は、終わってしまうのか…。)

痛みと悲しみのなか、そう思ったとき、僕の頭の中では、小さなころから現在までの、僕の人生の映像が、走馬灯のようによみがえっていた。

小さな子供の時、誤ってドボン便所に落ちてしまったこと・・・、

幼稚園では友人に濡れ衣を着せられて罰としてにわとり小屋に閉じ込められてしまったこと、

小学校では、僕が体育倉庫内の掃除中なのに、用務員のおじさんにまちがえて外から鍵をかけられて、三日間一人で泣きながら暗い倉庫ですごしたこと

また成長してからは、雑誌の通販でエッチなDVDを注文したら、配達に怖いお兄さんが現れて20万円もする男のダッチワイフをローンで買わされてしまったこと・・・。

おもい返すことは、すべて僕にとってついていなかった事件の数々だった…。

そしてその思い出は、やがて鬼瓦興業の面接の日まで辿り着き、そこで出あった美少女めぐみちゃんの清らかな笑顔で止まった。

「めぐみちゃん」


「めぐみちゃん……」

彼女の笑顔が頭の中で大きく膨らんだ時、僕の心の中では今にも消えかけていた小さな炎が、再びめらめらと音を立てて燃え上がり始めたのを感じた、と同時に

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

僕は今までの人生で、一度も出したことのないような大きな声を張り上げて、ぼろぼろの体にも関わらず、おでん達の攻撃をみごとに振り切って立ち上がったのだ!

「こ、こんなところで僕の人生を終わらせる訳には、いかにゃいんだー!」

そういいながら、僕は命がけのすごい形相をで、おでんの二人を睨みつけていた

「なんだ、こいつ、急に復活しやがったぞ」

「終わるわけにはいかにゃいんだー!」

「何をわけのわからないことを、この野郎ー!」

たまご男はそう言いながら、ふたたび僕に殴りかかってきた

「うおおおおおおおおおおおおお!」

気がつくと、僕はさらに大きな声で雄たけびをあげながら、たまご男が打ち込んだ拳にむかって突進していた!

グシャーーーー!!

一瞬あたりの空気が止まった…

ポタッ、ポタッ 僕とたまご男の間の土の上に数滴の血がしたたりおちた

そして再び空気が動き始めた時、そこには、たまご男の繰り出したパンチを、見事に顔面で受け止めている、僕の姿があった

「うわー、すんげえカウンター、決まったなーこりゃ…」

横で見ていたはんぺん男が、そんな壮絶な光景を目の当たりにして、つぶやいた。

ところがその後、はんぺん男にとっても僕にとっても、意外な事態が起きたのだ

「うぐあーーーーーーーーーー!」

なんと、そういって、悲鳴をあげたのは僕ではなく、たまご男の方だったのだ、

たまご男の右手はまるでグローブのように腫れ上がり、彼はその手をかかえてのたうち回っていた。

不思議なことにあれだけのパンチを顔面にもらったにもかかわらず、僕はその時、まったく痛みを感じなかったのだ

「こ、これは愛だ~!愛の力が僕に不死身の体を与えてくれたんだー!」

僕はその時、真剣にそう思った、そして今度は滴り落ちる鼻血ブーで壮絶な顔をはんぺん男に向けた

「なんだ、こいつは、訳の分らんことをぬかしやがって」

はんぺん男はそういいながら近くにあった鉄パイプに手をやった、

と同時に僕はさらに大きな雄たけびをあげた

「うおあああああああああああああああああああ!」

僕は無我夢中で近くにあった鉄パイプ、それにドラム缶など手当たり次第に、大声を張り上げながらはんぺん男に投げつけていた

「うおおおおお、こんなところで、終わってたまるかー!終わってたまるかー!」

「うわーこらやめろー、いててー」

はんぺん男の声が、かすかに聞こえていたが、僕はひたすら大声をはりあげながら手当たりしだいに、あっちのものこっちのものと、ひっくり返したり、投げつけたり大暴れをしていた。

「うわーー!うわーー!うわーーーーーー!」

僕はさらに暴れた、暴れて暴れて、暴れまくっていた

そして、ふっと正気にもどったとき、あたりはシーンと静まりかえっていた。

「え?あれ?何?何が起きたの?」

当たりをキョロキョロ見渡すと、そこはまるで嵐がさった後のように単管や古タイヤ、ドラム缶などが、ぐちゃぐちゃに散乱していた

そして僕の前には、数十本の単管の下敷きになって気絶している、おでんの二人が泡をふいて伸びでいたのだった。

「えーーーーー!、な、何でーーーーー!」

僕は飛び上がって驚いた、

「ちょっと大丈夫ですかー!大丈夫ですかー!」

僕はおでん達に声をかけながら、二人の上に重くのしかかっているたくさんの単管パイプを両手でどかしていた。

その時、僕の後ろで今まで不甲斐なく眠っていた鉄が目をさました。

そして鉄の目に、長い鉄パイプを両手でにぎりしめ、気絶しているおでん達の前に、血みどろの顔で仁王立ちしている僕の姿が映ったのだった。

 「す……すげえ………!」

鉄はそういいながら僕を、まるで恐ろしい鬼神を見るように見つめていた。

「あ、鉄君、目が覚めてくれたのかー、よかったー早くこの人たち病院へ連れて行かないと・・・」

僕はそういいながら鉄パイプをおでん男の上からどかそうとしたが、それまでのダメージからふっと力が抜けて、鉄パイプを抱えたまま、その場に崩れ落ちてしまった。

鉄の目にその光景は、まるで戦場で槍を抱えて崩れおちる勇ましい武人の姿にみえてしまった。

そして金髪の鉄は目に涙をいっぱいにためて、

「あ、兄貴ーーーーーー!」

僕のことを急にそう呼んだのだった。

「あ、アニキ?」

「あ、…兄貴!……、吉宗の兄貴!……」

「え?ちょっと鉄君、何ですかその兄貴って」

僕は鉄パイプにささえられながら、ぼこぼこの顔で訳がわからずしゃがみこんでいた。

「ま…、まさか……、あんたが、こんなに強かったなんて……。お…、俺は感動しましたー。」

金髪の鉄はそういいながら僕の前にひざまずくと

「あ…、兄貴………、俺を俺を兄貴の舎弟にしてください!」

「シャテイ?」

僕はその時、鉄の言うシャテイという言葉の意味が全く分かっていなかった。

しかしその言葉の意味が弟分であると後でわかったとき、それが僕にとって更なる波乱の幕開けになろうとは、この時はまだ考えてもいなかった。。。。

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