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原点、金沢。

美大祭がある11月はいつも寒くて、雨も多かった記憶がある。構内の通路にひしめき合う出店が夜に連れていつもカオス状態になる。サンバ隊が楽しい音を奏でながら街を行進するのが毎年の恒例行事だった。私も入学当時から卒業までずっと参加した。街中で鳴らす音は格別心地よい。
良い時代だったなと思い返しながら
今年に取り壊しとなる、
6年間通った大学校舎の最後を見に行った。

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金沢に降りたってすぐ、
谷口吉郎・吉生記念建築博物館へ向かった。
犀川を水盤越しに望む風景はとても穏やで、大雨で氾濫する犀川とは真逆の存在だ。
水平、垂直方向がとても美しい建築で、
細部まで洗練されていてとても勉強になる。
また一つ、お気に入りの場所が増えた。

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そこから歩いて金沢21世紀美術館へ。
もちろん『タレルの部屋』に真っ先に向かう。
学生時代何度訪れただろうか。
晴れの日は光の流れを見に、
雨の日は地面に映り込む雨の音を、
雪の日はぼーっと雪の落ちる様を。
いつ来てもあの時間に戻れる場所。
自分の思想の源流にある場所だ。

・・・

街は新旧の建築が混在し、
立体的な街並みを構成している。
記憶の中のあの場所も、
ここだったような気がするけど、なんか違うとか。
歩きながら記憶を取り戻していく作業が無意味だと感じる。案の定、昔長く住んだ長屋は取り壊されていて、新しい家が建っていた。
記憶は上書きされ、新しい記憶が生まれていく。
そういう事を感じられるようになって来た事に
長い時間の蓄積や豊かさを感じる。
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旧校舎を巡る。
自分たちが使った部屋。
もう今は空っぽで廃墟であるが、
ここに来ると沢山の想いが詰まっていた事に気づく。徹夜した日や悩んだ日、飲み会をやった日。
何でもない毎日をゆっくりした金沢時間の中で
目一杯過ごした。
切磋琢磨した自分たちの空間は、
とても貴重で自分の思想の源流だ。
ここを拠点に様々な経験を積んで、今の設計の仕事がある。

ここに来て強く感じたのは、
もっと自由に手で考えながら、
より良いものづくりを続けて行きたいなと。
普段の小さな事で諦めることはやっぱりないし、
これからの自分に必要なステージが用意されていると思って、日々出来る事を続けること。
それこそが大学生活の6年間で学んできた事だったのではないだろうか。

今後の独立(設計事務所)に向けて、
何かようやくスイッチが入ったような気がする。
原点に立ち返って、良いものづくりを続けること。
それこそが自分にできる唯一の事だ。
一つひとつ、想いを込めながら。




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