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心を揺さぶられる12個の物語

「私はごく「普通」の家庭で育ってきたと思ってきたけれど、その「普通」もある種「特別」であることに気づいた。家庭をつくるということは、「特別」な「普通」をつくっていくことなのかもしれない。そもそも「普通」という概念は、人それぞれ、その時々で変わってくる。私の「普通」とあなたの「普通」は、きっと違う。

徳瑠里香さんは著作『それでも、母になる』の終わりにこんな言葉を残している。本書は「原発性無月経」という生まれつき自然な生理と排卵が起きない疾患を持つ著者の徳さんが妊娠をし、子どもを胎内に宿したことをきっかけに

「母になるとは?家族ってなんだろう?」

という問いを、身近にいる「自分の心と身体の事情とともに、自分の家族を築いている人たち」にぶつけ、その物語を記した作品だ。この作品に登場する人たちは、徳さんの言葉を借りると

著名人でもなく、特別に探し出したわけでもなく、私の身近にいる人たちだ。

本書には12人の物語が綴られている。12個の、心を揺さぶる物語が綴られている。そして、僕は12個の物語を読み終わって気がついた。僕が初めての人生を生きているのと同じ様に、父も、母も、中高や大学を一緒に過ごした友人たちも、今の会社で時間を過ごす上司や同僚たちも皆一回目の人生を生きているという当たり前のことを。

わかってくれない両親に苛立つこともある。

友人の何気ない一言に傷つくこともある。

”普通”の就活をして、”普通”の企業に就職したはずなのに上手くいかなくて苦しむことだってある。

そのときに何を思うか。

当たり前だけれども、人生にリハーサルも、やり直しも、たらればもない。

どうして、と相手に対して憤ることがあってもいいと思う。

だけれど、怒りをぶつけて、それで終わってしまっていいのだろうか。

彼らも一回目の人生を生きている。

そしてその人生は“普通”であり“特別”でもある。

その事実を一回受け止める想像力を持てたら。

その上で、自分の初めての人生における選択肢を取れたら。

一回目の人生を悔いなく生きる勇気をくれる一冊に出会えた気がする。

徳さんが本書を書くきっかけとなったHuffpost日本版の連載

徳さんのことをまず知りたい方はこちら


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