見出し画像

新生児の抱っこについて

 街を歩いていると、生まれたての赤ちゃんを抱っこ紐にすっぽりと入れてそろそろと歩いているお母さんに出くわすことがあります。小さくて柔らかい赤ちゃんが、縦に入れられてくしゅんと沈み込んでいます。お母さんは両手を離していて「抱っこ(ホールディング)」していません。

 今、新生児(0日から28日)から抱っこひもを使ってもいいと言われています。抱っこひもの取り扱い説明書にもサポートがしっかりしているから縦抱きで使っていいよ、というようなことが書いてあります。抱っこひもって高価なので、一つ買って終わりでしょう?そうすると少しでも早くから使える抱っこひもの方が買ってもらえる可能性が高いから、メーカーさんもそう書きたくなってしまうのかなあと(これはあくまでも推測ですが(;'∀'))。

 だから、新米のお母さんお父さんは、そうか、新生児から使えるのか、股関節脱臼にならないようにM字開脚になるコアラ抱っこがいいってネットにも書いてある。縦抱きがいいんだねと思ってしまうのでしょう。

*****
 赤ちゃんのことについてはよくあるんですけれど、自分自身が子育てしたことがないから実は赤ちゃん親子の日常をよく知らない(もう一人の親に預けっぱなしとか保育園で育ててもらった)「専門家」や、赤ちゃんって新生児も1歳も2~3歳も同じ赤ちゃんだと思っている「お医者さん」や、赤ちゃんの身体のことは知っているけれど全体的な発達については知らない「専門家」や、たくさん育てた経験がある、けど経験談でしかない「アドバイザー」などが、結構、あれこれアドバイスしているんですよね。
 この頃の発達はものすごい勢いで、しかも日本人の家族の生活がどんどん変化している中で、赤ちゃんの身体も発達も赤ちゃんを取り巻く環境も大きく変化しています。そして、「出産の専門家」「産後の母親の身体の専門家」「小児科」「〇〇の資格あります」などと名乗っていて、必ずしも、「現在の日本の正常に生まれた新生児の生活の中でのトータルな発達の専門家」ではない人も多いのです。とりわけお医者さんは「病気や障害のある赤ちゃん」や「ちょっと大きくなった赤ちゃん」しか診たことがなかったりもします。だから、「お医者さん」や「専門家」の言うことだったら信用できる、って単純には言えません。でも、メディアはそういう人を登用しがちです(ほかに判断基準がないから仕方ないですかね)。

(もちろん、そういう意味では、私も信用できないですね! でも、私の強みは、権威とかネームバリューとかそういうものに引きずられず、さまざまな分野の現場から実践的なことが言える専門家とつながって、自分が納得するまで徹底的に聞いたり調べたりするし、間違っていると思ったら自分のメンツを優先せずにちゃんと訂正するということです。しかもどこからもお金をもらっていないし、こういう文章を書いたからと言って残念ながら笑、どこからもお金が入ってこない)
*****

 産後の親は、健診に行かなくては、ワンオペで買い物に行かなくてはと思って出かけることもあるでしょう。そうすると、健診先でみんなが抱っこひもで来るから、それでいいのかと思ってしまうかもしれません。だって、みんな新米だからみんな知らないし、みんな気を使って、それちょっと赤ちゃん苦しそうじゃないですかって声をかけて注意してくれる人もいない。

 でも、首が据わる前の赤ちゃんは、まだ体が充分にできていなくて、シュークリームみたいに柔らかいから、そっと両腕で包み込んで横抱きにしないとつぶれてしまいます。つぶれたシュークリーム!大変です。

 生まれたての赤ちゃんは、自分の首にかかってくる頭の重さを自分では受け止めきれないから、移動するときには、大人が大切なところ、つまり体重の3分の1もある頭やお尻を中心にバランスよく、全身を大人の両腕に載せて横抱きで支えてあげることが必要です。

https://www.youtube.com/watch?v=--l-nlE-GOM

(この動画に出ている吉田敦子先生は、母子フィジカルサポート研究会代表の助産師さんです。https://boshi.jp/   動画を見てもわかると思いますが、実践も理論もできる方です)

 本当は、新生児は布団の上で寝っころがっているのがいいのです。たとえ、支えがあったとしても、新生児が縦向きで布団の上にいるなんて考えられないでしょう?授乳のときだけ抱き上げてもらえばいいのです。

 でも、子育ての経験のないお母さん、お父さんにはわからないかもしれません。当然ですよね、見たことも経験したこともないのですから。だから「説明書」に従って、育てるしかないのです。もしその「説明書」に、新生児から縦抱きにしていいよって書いてあったら?そして、「説明書」を書いている人たちも新生児の発達をよく知らない、ちょっと異分野の専門家や研究者たちだったら?

 だから、FBグループページ『抱っことおんぶを語る会』(メンバーは抱っことおんぶに関心があるさまざまな分野の1900人以上の方たち)を管理運営しながら、いろいろな専門家たちから10年近く抱っこのことを学び続けてきた私は、今回、新生児(正確には、首が据わる前までなので、3か月位になる前まで)の赤ちゃんの縦抱き抱っこひもの使用の「危険」と、より安全な「横抱きの抱っこ」を皆さんに知ってもらおうと思いました。

 横抱き抱っこでおっぱいをあげた後に、赤ちゃんにげっぷをさせるときには、そうっと首を支えながら向きを変えて縦抱きにします(膝の上で前傾のうつぶせにすることもあります)。そのときは、赤ちゃんの頭を大人の肩に沿わせるようにもたれかけさせて、短時間縦抱きにします。そうすれば、赤ちゃんは、頭の重さを自分の首で支えなくていいからです。そういう縦抱き、しかも短時間は問題がありません。

 では、大人の身体が後ろに反って斜めになって、その上に載せるようにして縦抱きにしたら?例えば45度位後ろにかなり斜めに倒れて、ちゃんと首から頭を大人の手で支えていたら、縦(というかもはやむしろ斜め)抱きもできます。でも、そんな姿勢はリクライニングのできる椅子やベッドを使ってか、体操選手位しかできません。反りかえったその姿勢では歩けませんし、腰痛になってしまうでしょう。

 また、赤ちゃんを抱っこひもの中に入れて、ぶらんぶらんさせていたら、首がガクンとしたり脳みそが頭蓋骨にあたったりして揺さぶられっこ症候群になってしまうかもしれません(そういう事例が、虐待を疑われる事件として、何例が生じて裁判になり、無罪となって報道されていますが、赤ちゃんは被虐待の症候を示してしまったのです)。

 赤ちゃんの安全な素手の横抱きについては、さっきの動画がわかりやすいと思いますし、こちらのページはもっと細かく場面に分けて説明しています。https://dakko-room.net/shortmovie/  
 たくさんの短い動画があって、全部は見られないという方は、とりあえず、こちらがいいかな。

それで、これは、横抱きのスクショ。

 ちなみに、この動画と写真では、抱っこ布団、というものを使っています。初心者が抱っこするときに、抱っこ布団があると安心という方が多いので、ここでは使って見せていますが、素手で大丈夫ですし、薄い布でも大丈夫です。私は赤ちゃんの身体の微妙な形や動きを感じたいので、ないほうがやりやすいです。

 さて、赤ちゃんの出生を待つ妊婦さんの必須の準備品の中に、抱っこひもがリストアップされている場合があるかもしれませんね。最近の既製品の抱っこひもは安いものではありませんから、できるだけ長く使えるものがいいと思って、新生児期から使えるものを購入しようと考えるのはしごく当然ですね。お祝い品としても、そういうものを購入するかもしれません。赤ちゃんが生まれる前や生まれた直後に、どんなものがいいかを選ぶというのは難しいことです。そうすると、「売れているもの」「簡単なもの」「長く使えるもの」「楽なもの」「安いもの」が基準になるでしょう。でも、今どきは、出産支援金などがあるから、抱っこひも位は赤ちゃんのために「安いものはやめておこう」となるかもしれません。

 でも、ちょっと待ってください。新生児期に抱っこひもはいらないのです。新生児は、素手で、あるいはおくるみで横向きに抱っこします。外出の際は、大人2人以上で、荷物は抱っこしていない人が持てるというのがベストです。もし一人きりだったら、できる限り子育てタクシーを使う(母親の床上げ前は、母親の身体のためにもタクシーがいいです)か、あるいは、寝かせることのできるしっかりしたベビーカーで移動するようにします。
(行政で、新生児期の移動を助けるシステムがほしいですね)

 だから、実は新生児から使える抱っこひもを購入する必要はありません! 
 人類の長い歴史の中で、新生児を抱っこひもで抱っこしていた、ということはないのですから(もしあるとしたら、遊牧民族のように一か所にとどまれず、移動が必要だった民族にはあるかもしれません。その場合は体形も条件も違って、少なくとも日本ではそういうことはなかったと思います)。

 寝かせつけるときもあやすときも、大きな布(一般にはおくるみと言います)にくるんで床に置いて寝かしつけたりあやしたりするのです。もし、早くから抱っこひもで寝ることに慣れさせてしまうと、抱っこひもに入れないと寝ることができなくなったり、抱っこひもから降ろすときに泣いたりして、寝かしつけがかえって大変になるかもしれません(赤ちゃんの身体が抱っこされている状態に慣れてしまったり、ずっと同じ姿勢でいるから体が固まって降ろされたときに痛かったりするのです。背中スイッチができてしまうかもしれません)。

  こちらは縦抱きに慣れてしまった赤ちゃんについて書いてあるブログ。その格好でしか寝なくなってしまって、だんだん大きくなるにつれ、大変だったと書いてあります。

 
 さらに、お母さんの身体のことを考えると、赤ちゃんが小さいときから自分の両腕で少しずつ抱っこしていないと、お母さんの腕や身体が鍛えられなくて腱鞘炎や腰痛になりやすくなります。下の文章を参考にしてくださいね。

   
 現代は、いろいろな便利グッズが開発されて、それを使うと一時的に便利に思えるかもしれませんが、赤ちゃんの発達と育てる人の身体を考えて、縦抱き用の抱っこひもを首が据わる前から使うことはやめましょう。特に新生児の縦抱きは、赤ちゃんにとって危険なレベルです。
 
 でもそれでは、素手だと落っことしてしまいそうと思うかもしれませんね。そういう方は、まずは寝ている布団の上で、あるいはソファなどに座って低い位置から、少しずつ練習しましょう。リラックスして優しい気持ちで横抱きにしてあげましょう。おくるみや布を使うと抱っこしやすいようです。大丈夫。毎日のことだから、だんだん慣れていきます。

 また、産休は生後2か月までなので、産休明けから仕事に出るお母さんにとって、抱っこひもが使えるかどうかは死活問題です。抱っこひもで縦抱っこして、カバンをもってスマホで連絡を取りつつ、途中で保育園に預けて通勤しなければなりません。しかも保育園がベビーカーではちょっと行けない距離だったらどうしたらいいかわからないですよね。

 まさに30年前に私はその状態でした。2か月の赤ちゃんを、当時、アメリカから入ってきていた「2か月から大丈夫」と書いてあった新製品、スナグリという抱っこひもに入れて自転車に乗って15分、保育ママさんのところに連れて行っていたのです。その結果(だと思います。他に思い当たることがないのです)、子どもは足の発達がおかしくなりました。ただ、幸いなことに、その後、私たち親子は野山を駆け巡るような毎日を過ごさせてくれる保育園に出会い、そこで身体の補正ができました(でも、今でも少し身体感覚に問題が残っています)。そしてそのような保育園が滅多にないということを、私は知っています。

 だから、後で取り返しのつかないことにならないように、新生児は、本当を言うと首が据わるより前の赤ちゃんについては、「両手で抱っこ(ホールド)」して移動してほしいのです。

(両手が空くようにできるのは、おんぶですが、おんぶは腰がすわってからなので、数か月からしかできません。その間の保育園の送り迎えでベビーカーや車が使えないと大変なのですよね、それは自分事としてわかります!)

 縦抱きの抱っこひもに入れて「運ん(キャリー)」だり、「(体に)まとったり(ウェア)」するのではなくて、何とか工夫してホールド。ホールディングというのは、精神分析医ウィニコットの言葉で、人間はホールドされることで、心も体も安心して愛着関係を作ることができるのです。心身ともに安心な抱っこで、愛着関係をつくりましょう。
 
 ※ ちょっとここでイメージしてみてくださいね。
     キャリー 抱っこやおんぶした状態で運ぶ
  ウェア  着る ぺったりとくっつけて身にまとう 
  クドゥル ずうっとぎゅうっと抱っこする
  ハグ   お互いに両手で抱きしめて挨拶する
  ホールド 大きな者が小さな者を包み込んで抱っこする

  もしわからないことや困ったことがあったら、子育て中の先輩や、子育て経験の十分にある高齢者や、近くの子育て支援センターや助産院にサポートを求めましょう。知らなくてあたりまえです。子育てがみんな大変な時代なのです。助けを求めてください。

 必要であれば、フェイスブック(https://www.facebook.com/profile.php?id=100090842659999)や  このnoteのコメント欄、メール(takedanobuco@gmail.com)などで、私に直接メッセージを送って下さってもいいです。私は、私の言葉を理解してくださる仲間と一緒に、皆さんの近くにいて皆さんの子育てを支えたいと思っています。

※  股関節脱臼を予防するために、新生児を縦抱き(M字開脚)にした方がいい、スリングは危険だから使わない方がいい、という意見もありますが、それについては、下記を参照して下さい。
 スリングを使うときは、両手を離さないことが大事です(そもそも小さな赤ちゃんの抱っこは両手でするものです)。使い方を気をつければ危険なものではありませんが、手作りで布が伸びてしまうものやサイズが親子にあっていないものなどを使ったり、使い方を間違えたりすると、危険な場合もあります。どんなものを使うときにも、ちゃんと使わなければ危ないことはありますよね。ハサミなんて、まさにそうですねよね。でも、みなさんハサミを使いますよね。

※  クーハン(かご)に入れて移動するというのも大いにあり。なのですが、そのクーハンを傾けてしまったりひっくり返したりして、赤ちゃんが落っこちて重大事故発生などというようなこともあるそうなので、いずれにせよ、赤ちゃんは大事に扱う、ということをお忘れなく。

終わりに
 もし、首据わり前の縦抱き抱っこひもの危険を理解してくださって、一緒に予防のためにアクションしてくださるという方がこの文章を読んでくださったとしたら、どうぞ連絡をください。私たちは一人の赤ちゃんも、抱っこのために辛い思いをしないようにと願っています。


# 抱っこ #乳児 #新生児 #首すわり #股関節脱臼 #M字開脚 #社会的マルトリートメント #抱っことおんぶを語る会  

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?