股関節脱臼は首がすわる前までに見つけろ!
2020年初頭から発生した新型コロナウィルス感染症。自粛生活がオーバーヒートし出し、必要なものまで制限を強いられている現在に危機感を感じています。自粛は不要不急なものを避けるのであって、それ以外はをきちんと行い実施するべきです。子どもに感染対策について教える絶好の機会なのに、間違った方法を教えているのではないでしょうか。正しく恐れる。安全を選択する。生きるのに必要な方法です。
さて、熱くなってしまいましたが、乳児股関節検診が止まってしまっている問題です。
これについては何度もツイートし、徐々に広まってきている感じがします。
先日はNEWSつくばの伊藤さんに取材していただき、web記事として公開されています。
難治性の股関節脱臼の発生が増えるのではと心配しています
今日は具体的に赤ちゃんの股関節脱臼がどの様に起きるのか、どうやって予防できるのかを考えていきます。
赤ちゃんが産まれた方、そろそろ産まれる知り合いの方がいればお伝えしていただければと思います。
1. 産まれてすぐはみんな大丈夫
先天性股関節脱臼という名を聞いたことがありますか?その昔、この病気は産まれたときに股関節が外れていて、その後で見つかると考えられてきました。早期に発見して早期に治療をすると良いらしいということで、たくさん調べられたのですが、それでも数は一定数しか減りませんでした。それは『産まれたときは大丈夫であっても、その後に脱臼が起こるから』ということが分かってきました。
×先天性 →→→ ○発育性股関節脱臼
このように今では使われる名称が変わっています。
しかし発育性という名は一般的にはわかりにくいので、自分はただの股関節脱臼と呼んでいることが多いです。ここでも股関節脱臼で出てきます。
一部には胎内での姿勢に関連して脱臼が起こったり、先天的な疾患のために脱臼していたりとう例もありますが、ここではただの股関節脱臼に焦点を当てます。
では産まれてからどの様に股関節が正しい運動を身につけ、そして股関節脱臼はそこからどう分かれて発生するのか見ていきましょう。
2. 脱臼は産まれた後に発生する??
産まれてすぐの赤ちゃんは脚を良く動かします。これはお母さんの胎内で羊水という液体の中に赤ちゃんが包まれ浮いており、子宮の壁を蹴って運動を始めていた結果です。水の中では脚は比較的自由であり、さらに赤ちゃんは逆さまになっているので脚を曲げたまま生活していることが多いです。脚の運動にとっては良い環境になっていると考えて良いでしょう。
では、産まれたあとはどうでしょうか?
地球上には重力が存在します。脚の重さは水中では浮力の影響によって軽くなっていましたが、出産と同時に重力の下にサラされる訳です。自分の脚でさえ、赤ちゃんにとってはまだまだ重いものかもしれません。新生児覚醒状態が終わると赤ちゃんはほとんど眠ったままになります。たまに起きてはミルクを飲んでまた眠りにつきます。
このとき
−赤ちゃんの脚はどうなっていますか?
−抱っこしているときはどうですか?
-左右の違いはありませんか?
もしかして空中に浮いたり、不安定になっていませんか?以前ツイートしましたが、赤ちゃんと脚は股関節で繋がっています。ここがまだ不安定である時期に正しくない力がかかると、股関節がずれる可能性が高くなると考えられます。
股関節脱臼はガコッと外れるイメージをお持ちかもしれませんが、ゆっくりと時間をかけて軟骨が変形し、包まれている袋が広がっていきます。一旦ずれてしまうと、その部分で骨が安定し、戻すことが大変になってしまいます。
これが、股関節脱臼と言われる状態です。
3. 股関節脱臼の起こる時期と運動学習
↑で説明した通り、股関節脱臼は新生児の股関節が不安定な時期に、持続的に力が加わることで発生すると考えられます。
ここからは新生児期に発生が多いのではと考える理由についてです。
産まれたときにはすでに脚を動かす訓練がされています。それはほとんどの赤ちゃんで産まれた後も偶然上手くいくことが多いです。その中の一部に何らかの外力(ここでは重力の関係、脚の重み、寝ている姿勢、服やフトンなど)によって運動学習が上手くいかず、股関節を中心とした動きを身につけられなかった子がいるのではないでしょうか。
この確率がおそらく1-2人/1000人となるのです。
冬産まれの子が股関節脱臼しやすいのは体に掛ける物体の重さに関係があるのではないかと考えています。(まだまだ仮説ですが)
運動学習というものは自然と行われています。しかし、その条件を正しく整えてあげないと間違った学習をしてしまいます。間違ったままの運動を続けていると関節の変形を引き起こします。これは脳性麻痺などの疾患を診ている自分には当然の考えです。
一度正しく運動学習が行われてしまえば、その後に方向性が間違ってしまうことはありません。正しい動きを続けることで力がつき、関節の安定性も増していくことでしょう。この時期がおそらく生後1ヵ月以降ではないかと考えています。
逆に、運動学習を間違えてしまうと修正は大変です。脱臼した大腿骨頭の位置を戻したとしても、それがすでに自然な状態ではなくなっているからです。
だいたい3-4ヵ月で脚を持ち上げる運動が完成してしまうため、頸定の前に見つけて治療開始をしたいです。検診の多くは3-4ヵ月で行っているため、検診で見つかるのではすでに遅く、諸外国では6週間以内に見つけるのが正しいとされています。
4. 治療よりも予防を
小児整形外科学会はずっと前からしきりに検診の重要性を訴えています。しかし、先ほども出てきましたが、日本の検診では発見ができたとしても時すでに遅く、その後に大変な治療が待っています。
早く治療が開始できればその分、治療も上手くいくのですが、それでも100%良くなる治療方法はありません。
赤ちゃんの運動機能の学習、発達という考えに照らし合わせれば、その予防ができるのではないかと考えています。
様々な赤ちゃん体操や、まん丸指導などはその予防に一定の効果を出している様な気がしますが、理論がまだはっきりしていませんね。
新しいクリニックではそんな状況を考え、生後1ヵ月程度の赤ちゃんの股関節検診をやってみようかと考えています。つくば市内だけで毎年約2000人の新生児が誕生しています。おそらくそのうち4-5人は股関節脱臼を起こしていると考えます。
股関節脱臼の病因や予防の原理、効果についての研究がどんどんと進むことで、そのうち股関節脱臼で治療が必要な赤ちゃんが減っていくとこを信じ、これからも多くの人に伝えていきたいです。
中川将吾
小児整形外科専門ドクター
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