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使うと股関節脱臼が起こる!?スリングの使用に関して調べてみた

みなさまの子育てにまつわる体の情報をお伝えしています。

つくば公園前ファミリークリニックの中川です。


『スリングは股関節脱臼を引き起こすのか?』


これが最近の疑問です。

みなさんスリングって知っていますか?


スリングで抱っこされる赤ちゃん

こういったやつですね。赤ちゃんがすっぽり脚まで入り、横向きで抱っこできます。赤ちゃんの体重で少し背中がたわみ、いわゆるCカーブが作られます。

位置の調節が難しいですが、慣れてくると赤ちゃんの居心地も良く、お出かけやお昼寝前にあやすときのアイテムとして使用されます。

これが『股関節脱臼誘発アイテム』として認知され、危険性を叫ぶ声が聞かれます。

本当にそうなんでしょうか??

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日本小児整形外科学会の発効しているパンフレットにも記載がありました。
(下に拡大して表示します)

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横抱きのスリングは開脚の姿勢が取れず、また、両脚が伸ばされる危険もあるため、注意が必要です。


ん?んん??


横抱きでスリングの中に入ると「両脚が伸ばされる」?


そんな姿勢になりますか??


スリングの中で脚はどうなっているのか??

こちらをご覧下さい。

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これは下のサイトの中に引用されていたフランスが調査した横抱きスリングの危険性を示したイラストです。この原文を確認してみると、股関節脱臼についてはまったく触れていません。赤ちゃんが完全に中に入ってしまうと窒息や圧迫の恐れがあるため危険であるとされています。

ひだりから2番目の絵を見て分かるように、スリングを使用したからといって、勝手に脚が伸ばされることはありません。おそらくこの絵の様に、折りたたまれて入るのが自然です。

この情報が日本に伝わって来た際に、小児股関節研究会の意見として、脱臼が増加する可能性があるということで、股関節のために良くないといった意見が広まったようです。しかし、世界中のどこを探してもそのような結果は見つかりませんでした。

昨年、北米の小児整形外科学会が出したレポートを久しぶりに真面目に読み込んでみました。

そこには、こういったことが載っています。

・世界の抱っこひもと股関節脱臼の発生率のこれまでの歴史
・抱っこひもがもたらす効果
・抱っこひも使用中の股関節のバイオメカニクス

注目すべきは、抱っこひもを数種類使った際に、股関節のエコー所見に変化が起こるかどうかを見る、といった研究が行われていることです。

その結果、(短期的な効果しかみていないのですが)、脚の位置が異なる3種類の抱っこひもで、有意な変化は認められませんでした。少なくとも安定した股関節であれば、股関節に与える影響は抱っこ紐の種類で特に変わりないということです。

“安定した”とあるため、新生児に対しての使用は気をつけることが必要ですが、少なくともいま世間で行われている様な、

『股関節脱臼になるから、使ってはいけません』

という医療者側からの指導は、保護者の自由を奪っているため考え直すべきではないかと思っています。

小児整形外科専門ドクター
中川将吾


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