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ある男

事故で死んだある男が、実は名乗っていた人物とは違った。
というところから話が始まる。
調べることを引き受けてくれたのは、離婚するときに頼んだ弁護士。
彼は在日三世で、国籍を移しているという。

戸籍をロンダリングする話と、ヘイトスピーチが溢れる世の中と。

ロンダリングを引き受ける詐欺師の老人を、柄本明が本当に嫌らしく演じている。いろんなことを経験した末に、そういう事をしていた老人。
この老人が知っているいろいろな人たちのことを聞いてみたくなる。


苗字が三回変わった後で、今度はなんて苗字になるのかと心傷める息子。


昔、母親が離婚して、中学卒業までは戸籍上とは違う通称名で過ごすが
卒業で変わる、という少年が悩んでいた。
自分のことをわかってもらえるかどうかという事だ。
結婚する人みたいに(旧姓)をつければよいのだと話すと、少し元気になった。

私自身は、離婚が成立する前に、もうその苗字で仕事を始めていたのと
子どもが嫌がったので、旧姓には戻さなかった。
子どもを自分の戸籍に入れるという手続きはした。
元夫への未練は全くなかったが、「戻す」というニュアンスが
「後戻り」みたいでいやだったのかどうかはわからない。
ただ、旧姓に戻してから仕事を探すのとは違ったので、
いちいち言って歩くのが面倒だったことだけが確かである。


親に似た自分の顔を殴りたい、皮を剝いでしまいたいというのは
究極の自己嫌悪なんだろうと思う。
犯罪者の家族がとんでもない目に合ったり、自殺したりという事が
全然珍しくないこの国。
どこからわけのわからないヘイトが飛んでくるか。

他人事とは思えないで調査を続ける中で、弁護士事務所の同僚の
時に気の抜けた対応も救いになっているだろう。
小藪の個性そのままのように見えるような演技。


名前は「たかが名前」とは言えないのである。
誰も知らなくても、自分は知っているわけだし。
飲み込んだ石、は死ぬまで腹の中にあるのである。


何回かたくさんのクレーンが映し出された。
私がクレーンに何となく持っている気持ちとは全然違う不穏な感じ。
「創る」というより「壊して隠蔽する」ものの象徴のような。


後姿の男が連なるあのマグリットの作品は象徴的である。
もう一人、名前を変えた男はいたのだ。そして国籍を変えた自分。
マグリットの作品の画像を見ていたら、顔をりんごで隠した男の絵もあった。それから空に浮かぶ大勢の男たち。

同じ服装で宙ぶらりんで生きている人たち。
天使になれる人もいるのだろうか。

妻の浮気をどうするのだろうか。


正直と誠実とはすれ違いがちなものなのかもしれない。


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