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今度生まれたら

今度生まれたら この夫とは結婚しない 
と始まる。

夏枝は、70歳になったばかりの時に街頭インタビューに答え
(70)と書かれたことにショックを受ける。書かれた内容の是非ではなく
数字の与えたインパクトにやられる。

70歳から何ができる という思いがあり、何か趣味を見つけろと言われることが嫌いである。この辺は、「終わった人」の壮介と同じなのかもしれない。
趣味を見つけろという事が、「世の中には要らないけれど」という前書きがつきそうな感じがするのかもしれない。

いろいろあってカメラをやろうと決めたのに、写真を習いに行くことも、カメラを買う事も、結局賛成されない。反対されるのではなく、賛成されないのである。夫に。この人は大喧嘩したりしない。
思い出して、庭の薔薇の手入れを始める。
夏枝は、親にも「園芸」の才能を認められていて勧められていた進路もそういう方面で。かつて妹に園芸店の仕事を紹介され、夫の反対で断ったことを実は後悔しているのである。

百匹のネコを被ってまで手に入れた夫である
自分の進路は「お嫁さん」と定めて、親にも担任にも勧められた国立大学を受けもせずに「嫁さんにふさわしい短大」に進学し、男性が多いサークルなどに属すのではなく園芸部で年寄りと花を育てる。
順風満帆だった夫が、出世前夜 タクシーの運転手に暴行して閑職に追われ、結局退職しても
夫を責めたりしないし、外でも夫の悪口は言わない。
プライドが高いとはこういうことなのかと思わされる。
この人に比べたら、私のプライドはなんと卑小なプライドだったか。

地味なコピー取りをあえて買って出て残業したりして、エリートの夫を捕まえるが、学歴のない純朴な青年を袖にする。その、「元青年」とその妻に、最終的に助けられ、彼女の老後の「個人としてのあり方」は決まっていく。
それと前後して、家族の問題がいろいろある。
長男夫婦の問題、独身次男の、スペインで職人になる問題。スペインに移住する という息子の影響で、けち臭かった夫の意識も少し変わる。
極めつけは仲が良いと思っていた妹夫婦の離婚である。週に一度は夫婦で居酒屋に行くくらい高校時代から仲が良かった夫婦なのに、50年経って、当時可愛かった女の子をずっと好きだったと言い出すのである。この展開はかなりびっくりした。最近の浮気ではなく、50年である。
夏枝と同じ年齢の、評論家とのやりとりも興味深い。

共感するところ多々で、まとまらなくてちょっと苦しんだ。
近頃のトレンドは「生まれ変わり」「やり直し」なのである。





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