恥の多い人生

「恥の多い生涯を送ってきました」
太宰治は過去形で語り始める。
 
私の恥は進行形である。

ビルの階段を降りているとき
急に人の気配がしてビックリして動揺し
なぜか階段の最後の一段をとばして飛び降りて
後ろの人を驚かせてしまう。
 
居酒屋のカウンターで
身振り手振りで熱く語り合っていたら
手がグラスに当たって倒して割ってしまう。
   
ランチで入ったとんかつ屋さんで
テーブルに案内されるときに
なぜか何もないところで滑って転びそうになる。
 
私はよくわけのわからないことをし
一緒にいる人たちに迷惑をかける。
   
私はもちろん恥ずかしいが
そばにいる人たちは
もっと恥ずかしいだろう。
   
それでもみんな優しい。
 
階段を一段とばして飛び降りてしまったときは
何もなかったように流してくれたし、
( 言葉が出なかっただけかもしれない)
 
グラスを割ってしまったときは
「一生懸命話そうとしたんだよね。大丈夫?」
と拭いてくれたし、
 
とんかつ屋さんで滑って転びそうになったときは
小さかった悲鳴でもあげて
可愛く尻餅をついてしまえばよかったのだが
下手に転ばないように耐えたものだから
「マトリックスみたいでカッコよかったよ」
と、変な慰められ方をした。
 
本当に情けなくて恥ずかしい。
私は動くと人に迷惑をかける。


そんなことを思い出しながら地下鉄を降り
エスカレーターに乗って地上へ上っていたら
私以外の人たちは
みんなエスカレーターを駆け上がっていた。
   
他の路線の電車やバスの連絡口でもあるこの駅は
朝はまるで命懸けのレースのようだ。
   
あんまり周りの人たちが必死に走るので
私も少し焦ったが
別に急いでいるわけではないし
「エスカレーターの歩行禁止」のポスターが
貼ってあるのが見えたので
大勢の人たちが駆け上がる中、
ひとり立ち止まり乗っていた。
   
後ろから駆け上がってきた誰かの鞄が
私の鞄に激しく当たり、舌打ちが聞こえた。
周りの人たちが振り返る。
 
動いても動かなくても
私は人に迷惑をかける。

恥の多い生涯ing


2016年12月29日 木曜日



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