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なでしこブンデスリーガー石川優 GKとFWの二刀流

今季女子サッカードイツ2部でプレーし、チームのブンデスリーガ1部昇格に貢献した日本人選手がいます。
その名は、石川 優。彼女はなんとGKとFWの二刀流でプレーしているんです。しかも二刀流を始めたのは、なでしこリーグに入団した後という異色の経歴。大阪体育大学を卒業すると、なでしこリーグのコノミヤ・スペランツァ大阪高槻に入団し5年間プレー。コノミヤ・スペランツァ大阪高槻ではなでしこリーグと2部リーグであるチャレンジリーグの両方を経験しています。その後、海外移籍を決意しドイツに渡ります。ドイツでのスタートは、同国4部リーグでしたが、今季は2部リーグでプレーし、チームを昇格に導いています。そんな石川選手に、「違うポジションをやってみることの意義」や、様々なカテゴリーでプレーし、着実にステップアップしてきた「キャリアについての考え方」を伺ってきました。

<プロフィール>

石川優。1991年生まれ。女子サッカー選手。ブンデスリーガ1部SV メッペン所属。ポジションは、GK、FWの二刀流。石川県出身。大阪体育大学を卒業後、なでしこリーグに所属していたコノミヤ・スペランツァ大阪高槻に入団し5年間プレー。その後ドイツに活躍の場を移す。
ドイツでは、ブンデスリーガ1部に所属するMSV デュイスブルグのBチーム(4部)でキャリアをスタート。2019年夏に、当時2部リーグに所属していたSV メッフェンに移籍。移籍初年度で、チームのブンデスリーガ1部昇格に貢献。

GKとフィールドプレーヤーの二刀流

GKとしてプレーし始めたのは、大学を出た後なんです。
大学を卒業してから、コノミヤ・スペランツア大阪高槻というチームに入団しました。所属して1年目までは、フィールドプレーヤーとしてプレーをしていました。DF、ボランチ、FWと様々なポジションでプレーしていましたね。自分の特徴が、上背がありパワーがあるというところだったので、競り合いやヘディングの部分で勝てるような使われ方をされていました。
スペランツァ1年目では、チャレンジリーグという、国内2部リーグに所属していました。2部のチームは皇后杯というカップ戦で、関西予選から出なければならなかったのですが、その時に正GKの選手が怪我をしてしまい、第二GKの選手も、大学生で途中加入の選手だったので、予選に出れなかったんです。チームとしてGKが誰もいない状況になって、どう予選を戦うか?という問題が出た時に、当時の本並監督に、GKグローブをポイと渡され、「やってみて」と言われたのが始まりです。その時の自分は主力選手ではなかったので、妥当かなと思い引き受けたのが始まりですね。

GKコーチに手伝って頂きながら、皇后杯の期間中だけだと思って、毎日トレーニングに励んでいました。一生懸命トレーニングをしていく中で、GKの楽しさを見出せてきたんです。
皇后杯の関西予選の期間だけGKとしてプレーしていたのですが、そのシーズンは、大会が終わった後にフィールドに戻りました。
しかし、次シーズンのチームにGKが2人だけしかいなく、3人いた方がいいよなという話しにチームでなっていたみたいなんです。
そんな中、皇后杯の期間中にトレーニングを手伝って頂いていたGKコーチに「GKとしてチャレンジしてみない?」と打診されたんです。
当時は、私としてもフィールドプレーヤーとして試合に絡めていなかったので、チャンスだと思い快く引き受けました。
そして、次のシーズンからは、GK一本でプレーしましたね。
GKとFWの二刀流になったのはドイツに渡ってからです。

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キーパーとしてテストを受けるも、FWでハットトリック

ドイツ移籍のきっかけは、当時ドイツでプレーしていた自分の後輩が手を貸してくれたことがきっかけです。ブンデスリーガ1部の、MSVデュイスブルクというチームの二軍の監督を日本人の方がされているのですが、トップチームにGKが足りないということで、後輩が私にその日本人監督を紹介してくれたんです。そしてとんとん拍子に話しが進み、ドイツにテストを受けに行くことになりました。

現地に到着してからは、トップチームの練習にGKとして参加していました。しかしある時、日本人の方が監督をしている二軍のチームの練習試合に呼んでもらえることになったんです。GKとしてプレーするつもりで試合会場に行ったのですが、監督から、「FWやってたんだよね?今日はFWでいくよ」と言われました。それで、4年ぶりにFWとしてプレーすることになったんです。その時の対戦相手が、3部リーグに所属している格上のチームだったのですが、そこでハットトリックという結果を残せたんです。
それからは、トップチームでもGKとFWの両ポジションで練習参加するようになりました。

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GKをやるつもりがFWに

今のチームに移籍した当初は、基本的にGKでプレーしたいと思っていました。しかし、チームは私がFWもできると知っていたので、契約して一番最初の練習の時に「FWもやってみて」と言われたんです。その日の練習では、午前中はGKとしてトレーニングをして、午後にフィールドに入ってトレーニングをしました。

その日の午後のミニゲームでのプレーを、監督が気に入ってくれたみたいで、「FWで使いたい」という打診をされました。GKをやるつもりで入団したのですが、試合に出れることが一番重要だったので、迷わず「YES」と即答しました。
GKをやればGKとしてアジャストするし、FWをやればFWとしてアジャストするので、どちらでプレーするかという拘りはありませんでしたね。
練習では9割くらいFWとしてトレーニングしていて、シーズンオフや、プレシーズンの時にGKに入ってトレーニングをします。試合の時は、ベンチに自分のユニフォームとGKグローブを置いておき、キーパーの選手が怪我したらGKとして試合に入るという感じでプレーしています。

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他ポジションを経験することのメリット

違うポジションでもプレーすることで、様々視点からゲームや物事を見れるようになると思います。
私自身、GKでもプレーするようになってから、確実にサッカーが上手くなりました。GKというポジションは、1手、2手、それより先も読んでプレーする必要があります。そうなった時に、まずは、今全体で起こっている状況を把握し、ある程度予測を立てながらプレーするんです。
細かいところに集中するのではなく、全体の構造や流れを捉えてプレーするので、物事を俯瞰して見る癖がつきました。

FWでは、基本的に自分はポストプレーをすることが多いのですが、ゴールに背を向けてボールを受けにいく体勢でも、背後状況をイメージできるようになり、どっちから敵がきてるのか、相手のDFラインの作り方はどうか?
までわかるようになりました。
GKをやっている時に、自分のチームのDFラインを見ているから、それを相手に置き換えてイメージできるんです。相手FWがどういうプレーをしてきたら嫌なのかも分かるし、対峙するDFがどういうタイプで、何を嫌がっているかということも分かるようになりました。

そして、両ポジションでプレーする際に、相手の嫌なところを自然に選べるようにもなりました。自分が、GKやFWをしている時に感じた、「されて嫌なこと」をポジションに応じて相手にできるようになりました
GKもFWもやることによって、出来なかったことが出来るようになったり、見えなかったことが見えるようになったりと、どちらにも良い影響が出ていることは間違いないですね。

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比べるのは過去の自分

国内2部リーグから、ブンデスリーガ1部昇格という多くのカテゴリーを経験しているのですが、自分自身がプレーするカテゴリーに対してのこだわりがないんです。「自分が成長していく」というのはどのカテゴリーでもできると思っています。
競うべき相手は周りではなく、過去の自分ということです。

キャリアでも、ステップアップを目指したというより、結果的にそれがステップアップになりました。自分が成長できる環境を選び続けただけの結果だと思っています。絶対にステップアップをする、という考えは、自分の中にはありませんでしたね。FWに戻った時も、前にFWをやっていた頃の自分よりも良いプレーをすることを目標にしていました。

ドイツに行って強く感じたのは、それぞれに良いところがあって、悪いところ(足りていないところ)もあるということです。
なので、自分の強みや弱みを、誰かと競い合う意味はないのかなと感じました。例えば、自分は足が速くありません。
スプリント能力を高めるための努力はしますけど、誰かより速くなるために努力はしないようにしています。自分の苦手な分野に時間をさいて勝負をしても、もともと得意な選手には敵いませんし、その中で埋もれてしまいます。「自分が、今一番武器としているところ」を考えながら日々取り組むことが大切だと思います。


GKとFWという真逆のポジションでプレーする石川選手だからこそ感じる事や、考える視点がとても興味深かったです。
 GKで学んだことが、FWでプレーするためのヒントとなり、FWで学んだことが、GKでプレーするためのヒントとなる。
真逆なことは、密接に繋がっているということ。
真逆のことをやることが、自分の引き出しを増やすということを石川選手は教えてくれます。違う役割もやってみる重要性はサッカー以外にもあるのではないでしょうか?そうすると、今まで見えなかったことが見えてくる。元々の役割のレベルアップのきっかけになる。一つの分野を極めることも大切ですが、一つの役割に固執する必要はないと思いました。

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