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元バルサのコーチが語る スペイン人から見た日本

先日、スペイン人指導者の友人とビデオ通話をした中で、印象に残ったことを紹介させていただきます。彼は昨年夏、FCバルセロナキャンプで来日し、日本人の子供達を指導した一人です。彼は、スペイン、ポルトガル、セルビア、オーストリア、中国、アメリカなど数多くの国でコーチングをした実績があり、教え子にはラ・リーガ1部のセルタ・デ・ヴィーゴで活躍する、パペ・シェイク・ディオプや香川真司選手もプレーするサラゴサの、アルバロ・ラトンなど、アメリカMLSで活躍する選手などもいます。
今回のビデオ通話では、フットボールを通した対人マネジメントや、コミュニケーション、外国人から見た日本のあり方などをたっぷりと語ってもらいました。フットボールで学べることは、様々な分野に応用が効くと思います。彼の知見は、日本サッカー界だけではなく、企業内での組織マネジメントや、異文化理解という点でも大いに参考になるのではないでしょうか?
とても話しが盛り上がり、ボリュームが多くなってしまった為、3回に分けて書きたいと思います。

<プロフィール>

ホスエ・リナエス。スペイン出身。プロGKコーチ兼GKアナリスト、アプリ開発者。スペイン2部BのモンタニェイロスなどでGKコーチを務め、2015年に活躍の場を上海NIKE FCに移す。上海NIKE FCでは、GKコーチ、フィジカルエデュケーション講師を務めると同時に、中国スーパーリーグの上海緑地申花のアカデミーでGKコーチも務めた。その後アメリカNYレッドブルスでGKコーチ、指導者のコーチングも務める。2016年にスペインに戻り、ラ・リーガに所属するデポルティーボ・ラ・コルーニャでGKアナリストを務めた後、FCバルセロナアカデミーででGKコーチ、GKアナリスト、指導者コーチングを担当。2019年夏のFCバルセロナキャンプで来日。日本の子供を指導した。また、「IQScouting」という、選手の潜在能力を発見し開発していくアプリ開発者でもある。「IQScouting」では、チェルシー FC、ブラックバーンFC、フィンランドサッカー協会などとプロジェクトを進める。


日本の選手を見て感じたこと、スペイン人の強み

日本の選手は勤勉で技術も高いのに加え、戦術理解度も高く、組織的にとてもオーガナイズされていて驚いたよ。しかし、それと同時に、基本となる戦術を教わっていないんだということもすぐに分かったね。少し残念に感じたかな。
ポテンシャルはあるんだけど、それをうまく発揮できていない選手が多かったね。言われたことを理解するのは早いんだけど、フットボールの考え方に対する幹のようなものがなかった。
これは、時間とともにだんだんと解決されていくと思う。

日本の選手を見て一番に感じたことは「戦術」の欠如や「フットボールの質」の高さや低さなどではなく、「自分で決断できない」ということ。
練習中、子供たちに「やるべきこと」を伝えたら、すぐに飲み込み、伝えた通りにできていたよね。反対に、あえて「やるべきこと」を伝えなかった時は、上手くいかないことが多かった。僕たちは、日本の子供達に「あえて伝えない」というアプローチもとったんだ。ただ答えを与えるのではなく、子供達自身に練習の意図やゲームを「解釈」させるためにね。自分自身で問題を見つけて解決したり、問題に対する答えを発見して欲しかったんだ。しかし日本の子供達は、フットボールや練習の意図を自ら「解釈」しようとする動きがとても少なかった。

これがどういうことを意味しているかというと、家庭や学校で、親や先生がすぐに答えを与え、子供に考えさせないことを意味していると思う。
その結果、日本の子供たちは「答えは与えられるもの」だと思っているし、答えが与えられことを待っていた。何かに対する答えというものは、自分自身で見つけ出さなければいけないんだよ。人生を生きていく中でも、フットボールをプレーするということにおいてもね。そこで明らかに違った答えを出してしまったら、子供が再び正しい答えを見つけられるように導いてあげればいいんだよ。

スペインだと、各々がゲームを「解釈」して行動を起こすから、選手が僕たちコーチにとるべき解決策をくれるんだ。「戦術」や「技術」という表面的な話しではなく、メンテリティーにおける自由度という、内側にあるものの話しになってくるね。そこが、スペイン人と僕が見てきた国々の子供たちとの違い。自由であれることはある種の能力なんだよ。

僕たち、スペイン人の強みは「問題を早く解決できる事」だと思っている。フットボールでは、僕たちの強みである「問題を早く解決する力」がなくてはならないんだよ。ゲーム中の状況は常に変わるから、ゆっくりと問題を解決している時間はないんだ。

日本には素晴らしいものがあり、ポテンシャルもあると思う。足りないのは「決断すること」と「問題を早く解決する能力」だと思うね。それ以外の日本人の能力や、ポテンシャルは素晴らしいと思うよ。選手以外のところで言うと、指導する側の問題かな。フットボールについての正しい知識がない大人が、子供達にフットボールを教えているのを感じたけれど、それが事実なら大きな問題だと思うね。指導者には大きな責任があるんだ。子供の将来を預かっているからね。
「教えること」には、責任が伴うということを自覚しなくてはいけない。まずは指導者が、選手以上にフットボールというスポーツについて学ばなければいけないんだ。

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スペイン人から見た、日本人の傾向

ヨーロッパのフットボールと日本のフットボールは全く違く見えたね。
日本の子供達を指導して感じたのは、選手とボールの関係性を一番に重視していたこと。
スペインでは、ボールはフットボールの一部であると同時に、全ての局面に関わるものだと認識しているんだ。チーム全体とボールに対する関係性や位置関係が大切なんだよ。アメリカの子供も、日本と同じような感じだったね。
フットボールのスタイルは全く違うんだけど、選手とボールの関係性を一番に重視する「解釈」の仕方は、日本人とアメリカ人でとても似ている。
フィンランドもそうだったね。中国はほぼ日本と一緒だったかな。東ヨーロッパのセルビアは、スペインと日本を足して二で割ったような感じだった。

日本滞在中にJリーグの試合を見て感じたことがある。それは、ヨーロッパのリーグとJリーグを比べると、Jリーグの方がゲームスピードが遅いということ。そして、その遅いゲームスピードの中でも「決断」するのが遅かった。
観戦したのはマリノス対セレッソ大阪の試合だったんだけど、当時ローティーナ監督が率いていたセレッソは、戦術的にも良く機能していたし、皆がハードワークをしていて、個人の決断の質も素晴らしかった。けど、マリノスは全体的にプレーのスピードが遅かった。
ゲームスピードや、リズムをあまりコントロールできていなかったんだ。

*ちょうどこのタイミングで、フェルナンド・トーレスとジョーがDAZNのインタビューにて「Jリーグにはパウザ(ゲームスピードをあえて落とすこと/直訳すると休憩)がなくて、とてもスピードが早い」と言っていたのを思い出しました。
なので、彼の「ゲームスピードが遅く感じた」という意見を、トーレスとジョーの「
スピードが早い」という意見に照らし合わせて聞いてみました。

日本人が「タイミング」を上手く利用できていないということを、彼らは伝えたかったのだと思う。フェルナンド・トーレスはゲームスピードをコントロールできるチームでプレーしていたんだよ。「いつ早く攻めるのか」、「いつゆっくりと攻めるのか」をよく理解しているチームということ。リバプールも、アトレティコ・マドリーもタイミングを理解しながらプレーする術を知っているチームなんだ。日本のフットボールは攻めて守っての繰り返しで、「タイミング」が存在していなかったように見えたね。スピード感や、リズムが常に一定だった。ゲームを外から見た僕の感想は、たとえトーレスが言っていたことがあったとしても、ヨーロッパのゲームピードとはかなり差があるように見えたね。僕たちにとってゲームスピードとは、「人の動きの速さ」ではなく、
「ボールが動くスピードの速さ」を言うんだ。
Jリーグでは人はよく動くけど、ボールが動くスピードが遅かったね。ロティーナのチームはすごく良かったと思う。しかし、日本のフットボール全体で見ると、日本人はよりフィジカル的で、よく走る印象が強いかな。そして、組織的でオーガナイズされているという印象も強いね。しかし、ゲームをプレーできていないんだ。
僕たちにとってゲームをプレーするということは、「タイミング」でプレーするということと「時間を操る」ということ。昔よりはだいぶよくなってきていると思うけど、ゲームをプレーできるようになる為には、もう少し時間が必要だと思うね。

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日本の選手が学ぶべき要素

「マリーシア(一種のズルさ、したたかさのようなもの)」だね。昨年夏のFCバルセロナキャンプで、子供がプレー中に相手チームの選手を蹴っちゃったの覚えてる?相手を蹴ってしまったその瞬間、ボールは放っておいて蹴ってしまったことを謝りに行って起こしてあげていた。素晴らしいことだと思う。日本人の礼儀正しさを象徴するような振る舞いだったね。

しかし、スペインではそうならないんだ。
たとえ相手選手を蹴ってしまっても倒れていても、まずボールを優先して自分のものにする。そして遠くから「ごめん!」と言いながら笛が鳴るまでプレーをやめない。スペインの子供たちは、フットボールにおいて何が一番大切なのかを理解しているんだよ。小さいことだけど、そういうところが勝負を決めるんだと思う。
選手が倒れていても、笛が鳴るまでやめないのか、プレーをやめてしまい相手を待ってあげるのか。謝ることは後ででもできるけど、数的優位で攻めるチャンスは試合中にそうはないんだ。
今この瞬間の優先順位を、スペインの子供たちは感覚的に知っているんだと思う。もしもファールなら、審判が笛を吹くからね。選手が勝手に判断してプレーを止める必要はないんだ。
そのために、ルールに則ってゲームをコントロールする「審判」という役割があるからね。

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フットボールをする上での日本人の強み

これはポジティブでもネガティブあるんだけど、「言われたことは守る」ことかな。どんな監督でも、監督の事をとても信頼しているように感じたよ。これは、いい指導者に巡り会えた時は最高の結果が出ることを意味するね。
君たち日本人の恒常性は素晴らしいと思う。
僕たちスペイン人には真似できないと思う。
監督が何かアイディアを選手に伝えた場合、日本人はそれを実行する能力があるし、そのレベルまで達さなかったとしても100%の力を出して、それをやろうとする。できなかったとしても、監督の指示にできるだけ従おうとする。
その能力にはとてもびっくりしたし、僕たちが学ぶべきことがあると思う。

しかし、「言われたことを守る」ことにネガティブな面もある。
日本人は、言われたことを守って目標に到達できるんだけど、その後に何をするのかがわかっていないし、目標に到達する過程で、新たな何かを発見する力があまりないよね。目標だけに囚われてしまって、他に良い選択肢があったとしてもそれに気づかず、状況によって柔軟に方向転換ができないように感じたかな。それではなかなか想像力は発揮されないと思うね。目標を定めてそれに向かうことは素晴らしいんだけど、目標に到達することだけに囚われると、他の素晴らしいチャンスを見失ってしまうんだよ。

気を悪くしないで欲しいんだけど、それはちょっと機械みたいだね。指示を出されて、その通りにやり遂げる。それは素晴らしいんだけど、今後その能力は間違いなくAIに負けてしまう。
今こうやって言ったけど、それは必ずしも悪いことではないとも思っているんだ。なぜかというと、君たち日本人はそうやって目標を達成してきたからね。物事には二面性があり、必ずいい面と悪い面がある。それを理解しなくてはいけないね。君たちの強みを理解して、その中のネガティブな面を上手くカバーできればいいんじゃないかな。

反対に僕たちスペイン人は、よりクリエイティブだけど思うけど、目標を達成するのに時間がかかるし、当初の目標とは全く違うところに到達してしまうこともある。それはそれで失敗ではないんだけれどね。目標意識と、それだけに囚われないことのバランスが大切だと思うんだ。
どちらかがより良いではなく、視野を広く持って、状況に応じた対応をすること。そして、柔軟なメンタリティーを持つことが大切だと思うよ。

今回のまとめ

日本とフットボールが強くない国の共通点は「選手とボールの関係性を一番に重視していたこと」とホスエは言っていました。
そんな中でも、着実に進歩を遂げている日本人のポテンシャルは計り知れないとも語ってくれました。最後にも日本人の強みについて話してくれましたが「技術」や「戦術」を語る以前に、日本人の内面を知ることや、指導する側のアップデートが必須になってきているように感じます。ただ単に外国スタイル真似するのではなく、日本人としての強みを明確ににしながら、フットボール先進国の知識や考え方を盗むことが大切なのではないでしょうか。僕たちが進歩を遂げようとしている間に、彼らも進歩し続けているということ。世界は僕たちを待ってくれません。

次回に続く・・・


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