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夏休み課題図書~           おすすめファイナンス本【2022年版】

伊藤信雄 テンキューブ㈱代表

はじめに

 ファイナンス関係の本でいいものない?といろんな人に聞かれるので、この際まとめてみました。「いい本」と一口にいっても読む人の職業/職位・基礎知識・分野などによって全然違うので、一応、「スタートアップを中心に零細・中小企業」をざっくり対象としたリストにしてみました。もちろん、下記以外の切り口もいくらでもあるし、人によって良し悪しの判断も違うし、隣接分野の法務・会計・税務・IPO準備などもオーバーラップするので、その辺の区切りは曖昧ですがご参考まで
(選定の前提条件)
①分野
 ・コーポレートファイナンスのみ
 ・マクロの金融論やアセットマネジメント(運用)は除外
 ・会計、税務、法務、IPO準備、事業承継などの各論も除外
 ・大物経営者・CFOなどの経験談モノも除外
 ・安心の定番モノ中心。多少古いものも含まれる
②対象者
 ・起業準備中/シード~シリーズA調達前後のスタートアップ
 (社長のみor社長+数人・十数人レベル)
 ・零細・中小企業(管理担当者ほぼなし)
 ・専門家・セミプロ級の人は除外
 ※「お勉強系」(学生向け)は別途最後尾に。

1.起業家向け全般

 加瀬著「スタートアップファイナンス」。本書は起業する前段階から、起業とは、起業する際に必要となるアクションとは、を丁寧にまとめ、その上で資金調達、会計、税務の基本をまとめています。ので、これを読んでおけば、失敗しそうな箇所を事前に結構塞ぐことができるような内容です。ざーっと読んでも、じっくり読んでも得るところあります。

 磯崎著「起業のファイナンス」。定番中の定番です。テクニックよりも、起業に際して、ベンチャーを起業するとはどういうことか、事業計画の立て方、資本政策とは?投資契約とは?といったベンチャーファイナンスの基本的な考え方が深く書かれた本です。起業家は一家に一冊。

2.資金繰り

 スタートアップも中小企業も、ファイナンスの入り口は「資金繰り」です。資金繰りのコントロールなくして、銀行融資もエクイティ・ファイナンスもその他の高級な議論もありません。まずは会社がきちんと回っていくための基礎知識は頭にしっかり入れましょう。

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 川北「絶対にカネに困らない資金繰りバイブル」は、その辺を網羅的にカバーした本です。正直、資金繰り本は山のようにあって、本書の他にもいい本はあるのですが、総合的には一番安定した記述だなと考え載せました。著者の川北氏は昔から資金繰り・銀行融資本では定評があります。

 菅原著「激レア 資金繰りテクニック50」。ちょっと刺激的なタイトルなので取り上げるか少し迷ったのですが、Amazonでは最近ダントツの人気なのと、載っているテクニックが「これでもか」というくらい豊富なので採録しました。資金繰りの全体像は別としても、個々のテクニック事例の積み上げも結構大事ですので。ただそれらの手法が万人に合うかどうかは別なので、自社に合わせて適法な範囲でアレンジしてくださいね。

3.銀行融資

 川北著「銀行からの融資完全マニュアル」。銀行融資の受け方を網羅的に記載した本。資金繰りと同様、銀行融資本もいろいろありますが、最近のものでもっとも体系的で、きちんと・分かりやすく書かれた本と思います。

4.エクイティファイナンス(急成長めざす経営者)

 エクイティ・ファイナンス分野はテクニカルな本が多いですが、いきなり読んでも消化不良になります。また、それらは専門家の領域だったり、4の具体論であったりします。ここでは以下1冊読んでおけば十分と考えます。

 磯崎著「起業のエクイティ・ファイナンス」。レジェンド・磯崎さんの「赤本」が改訂になり、「青本」になりました。ここ10年ほどのスタートアップファイナンス状況の変化を俯瞰しながら、最近の手法、あるべきスタートアップファイナンスの方向性まで書かれており、深い本です。

5.スタートアップ(資本政策:管理部門、担当者)

 資本政策は、実際にエクセルなどでCap tableを作成し、ああでもないこうでもないと数字をこねくり回して初めて分かるような話が多いです。なので、管理部門長や担当者はある程度実務に習熟する必要があります。その観点から概論→具体論で3冊選びました。

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 佐々木著「資本政策+経営計画のポイント50」。著者の佐々木氏は3社のIPOを成功させたCFO実力者。本書は上場を目指す企業の経営者・担当者が資本政策と、その前提となる経営計画の立て方、ポイントをサっと頭に入れるのにいい本です。

 石割著「資本政策立案マニュアル(第2版)」。これはIPO企業を題材に実際のCap tableを再現している本です。2014年のやや古い本ですが、資本政策立案のための雛形が今でも参考になる人は多いはずです。著者の石割先生は資本政策支援のプロです。ただ、資本政策の”組み方”自体は流行りすたりもあるので、そのまんま数字を真似て使う、というものではありませんので念のため。

 山岡著「実践スタートアップ・ファイナンス資本政策の感想戦」。
実際にIPOした銘柄の過去の資本政策を公表情報などから組み立てなおし、どのようなエクイティ・ファイナンスを実施してきたかをたどっている本。これはスタートアップで現在進行形で調達してる人にとっては感涙ものではないでしょうか?
 基礎知識を佐々木本で仕入れ、試算する雛形を石割本で作り、最近の数値例を山岡本で確認しながら数字を置いてみる、などの使い方があるかもしれませんね。

6.勉強系(学部入門、初級)

 コーポレートファイナンスでも、1~5は経営実務をやってる人が「ノウハウ」「実務」「方針」「答え」をすぐ頭に入れて実践するための本でした。一方、もう少し遡って理屈や背景の仕組みを知りたい、という人もいるでしょう。いわゆる「勉強系」ですね。読んですぐ実務に活かせるわけではないですが、原則に戻って考えるときの指針になったりします。 

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 砂川著「コーポレートファイナンス入門<第2版>」。コーポレートファイナスの全体像について、通勤・通学の途中とか、空いた時間でササッと読みたい、という人にはうってつけ。薄いですが目次立て・内容はしっかりしてます。とりあえず知りたい、だけならこれで十分。著者の砂川先生は神戸大から京大に移った企業金融論の大家。


 石野著「道具としてのファイナンス」。大定番ですね。増補改訂版が出るようなので(まだ発売前ですが)、そちらのリンク張っておきました。コーポレートファイナンスだけでない、”ファイナンスの基本”が本当に手際よくまとまっています。別売の問題集もあります。著者の石野さんはこの分野の実務家の先駆者ですね。


 松田著「コーポレートファイナンスの基本と実践がよーくわかる本」。見開き二ページで説明完結で、図も多いのでビジュアル的に読みやすいです。それでいて基本事項はちゃんと抑えられてます。著者の松田先生(都立大)はIRとガバナンスの専門家。


 砂川・笠原著「はじめての企業価値評価」。コーポレートファイナンスの中でも、買収とか出資とかの仕事絡みで企業価値評価だけとりあえず概要知りたい、という人も多いかと思います。この本はその辺の基本をサッと頭に入れるのにいい本です。

7.勉強系(学部中上級、社会人)

 入門・初級で理屈はだいたい頭に入ったけど、もう少しケーススタディとか応用とか計算とかに踏み込んで知りたい、という人向けです。

(1)学部中級以上や実務の人向け
 保田・田中著「コーポレートファイナンス戦略と実践」。著者のお二人はこの分野で定評があります。基本からケース・実践例まで分かりやすく、それでいて結構深いところまで連れていってくれます。この赤本は特にロングセラーですね。財務部門初級者や事業会社で投資に関わるようになった人などが知識を急遽詰め込んだりするのにもいいと思います。

 伊藤著「企業価値経営」。いわずとしれた伊藤レポートの伊藤邦雄一橋大名誉教授の著。ブ厚いので通読するのはシンドいですが、財務諸表からファンダメンタル分析、企業価値評価、資本提携のケーススタディまで本質的な骨太な記述に満ちています。時間をみつけて必要箇所をじっくり読む的な本ですね。


(2)MBA、投資銀行初級者、事業会社中級者など向け
 ここから先は、手軽に読めるような内容の本ではないですが、気合を入れて取り組みたい人向けという感じになります。

 ブリーリー・マイヤーズ・アレン著「コーポレートファイナンス(上)(下)」。修士でファイナンス勉強したらどこかでこれと取り組まないといけない、避けて通れない本。最近は中級レベルで良書いっぱいあるので、かならずしもこのゴツい本読まなくても、、とも思いますが、ガチでやりたいならどうぞ。棚のコヤシになる可能性ありますが、どこかでパラ見しておいて損はないです。というか、すべてのコーポレートファイナンス本の元ネタは、本当はほぼこの本だと言っても過言ではないですから。

 マッキンゼー「企業価値評価」。投資銀行(部門)の人などは最初に買うのではないでしょうか?これも、定番中の定番であり、全ての企業価値評価本の元ネタといえる本です。ただ、米国の本ですからそのまま日本では使えません。

 マッキンゼー本に準拠しながら、日本で実際に使えるように書かれた実践本が下記の「企業価値評価(実践編)」(鈴木著)です。2004年発行と古いのですが、いまだに版を重ねており、基本形が学べます(2018年に「入門編」も出ました)。企業価値評価は、実際には会計制度や税制・会社法などの変化があり、本のとおりにはいかないのですが、その辺のアップデートは専門的に業務を扱っているコンサルファームや投資銀行・士業の先生などがカバーしていますから、クライアントサイドの初中級者としてはこのレベルを知っていれば十分です。

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 いかがだったでしょうか?結果的に、【2022年版】というより、【定番もの】の寄せ集めになったような感じもします。それだけ信頼の置ける本だということですね。ただ、もちろん実務で参照する場合は、最新の会計・税務・法務などに合わせることが大前提ですから、その辺は専門家の意見も聞いて応用していってください。参考になれば幸いです!

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伊藤信雄 テンキューブ㈱代表
テンキューブ株式会社代表。スタートアップの資金調達、Part-time CFO、M&A支援。ファイナンスの自動化SaaS"CORST"開発。デジタルハリウッド大学客員准教授/日銀→イーバンク(現楽天銀行)→PEファンド→スタートアップ支援→上場企業で企画・財務担当役員→今ココ