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ESG経営(5):コーポレートガバナンスと社外取締役制度について

ESGの3つめとして現代企業、とりわけ上場企業にはガバナンスの重要性が問われています。

ここでまた、朝日新聞社 SDGs Action!のWeb記事を参照してみると

コーポレートガバナンスとは、企業の統治(=企業を統治するための仕組み)を意味する言葉で、企業を統治するためのルールや慣行、プロセスのことです。(中略)
サステナビリティが求められる現代では、コーポレートガバナンスは株主利益の最大化だけでなく、社会からの期待に応え、企業価値の向上につなげることが重要になります。

朝日新聞社 SDGs Action 記事より 

コーポレートガバナンスの目的
(1)経営陣による不祥事を防ぐ
(2)サステナビリティへの取り組みを促進させる
(3)利益をステークホルダーに還元する

コーポレートガバナンスの実効性を高めるために
(1)監査と透明性の強化
(2)機関投資家の責任
(3)内部統制の仕組みを整える

朝日新聞社 SDGs Action 記事より 


コーポレートガバナンス・コード

そして、2015年に金融庁と東京証券取引所共同で上場企業に求められるコーポレートガバナンスについて、より具体的なルールや指針「コーポレートガバナンス・コード」が公表・制定されました。

コーポレートガバナンス・コードはプリンシプルベース・アプローチ(原則主義)とコンプライ・オア・エクスプレイン(comply or explain)の手法を採用しています。
そのため、国内すべての上場企業は原則としてこのコード(行動規範)に沿った事業運営が要請され、遵守できないのであれば、説明責任が求められるようになりました。

さらに2021年のコーポレートガバナンス・コード改訂では「取締役会の機能発揮」「企業の中核人材における多様性の確保」「サステナビリティを巡る課題への取組み」などが新たなポイントとして追加されました。


社外取締役の役割

2021年の改訂の中で大きな議論を呼んだのは、取締役会の機能発揮、その中でも(独立)社外役員の構成比と役割強化です。

1.取締役会の機能発揮
・プライム市場上場企業において、独立社外取締役を3分の1以上選任
 (必要な場合には、過半数の選任の検討を慫慂)
指名委員会・報酬委員会の設置(プライム市場上場企業は、独立社外
 取締役を委員会の過半数選任)
・経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力) 
 と、各取締役のスキルとの対応関係の公表
・他社での経営経験を有する経営人材の独立社外取締役への選任

金融庁「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」

そんなに社外役員ばかり増やして、果たしてどうなんだろう?と感じられる方は私だけではないと思うのですが、
コーポレートガバナンス・コードでは「監督と執行の分離」の方向性を明確に打ち出しているため、現在の会社法の定めにこだわらず、日本企業の取締役会をモニタリングボード型へと急速に移行させるような動きになっています。

私自身はこのモニタリングボードというのが、くせ者だったと感じています。社外取締役に、これまでの経営や学識経験などを生かしたアドバイザーの役割、他企業や社会の視点で助言を求めるのではなく、当該企業の事業活動をしっかり監督せよ!と役割が大きく変わっています。
確かに、これは就任する側のハードルも高くなっていますね。

一般社団法人社外取締役コンソーシアム JSEEDS ホームページより

こうなると、いくら大企業の代取経験者でも取締役会報告や審議時に現役時代の幅広い経験から気になったことを助言する程度では済まされず、
前々回のnoteに書いた伊藤レポート3.0・価値協創ガイダンス2.0など、直近や将来の外部環境や経営課題を深く理解した上で物申す(監督する)必要が出てくるでしょう。

経済や経営が専門の大学教授や投資銀行出身者ならいざ知らず、社外にここまで応えられる経営人材(かつ自社の取締役活動に拘束時間が取れる人材)がどれほどいるのかと言えば、かなり難しいのが現状ではないでしょうか?

実際、私自身、グループ会社の監査役や非常勤取締役をしたこともありますが、それでも結構な事前準備や会議に時間を取られました。特に監査役の場合、就任前の研修もあり、会社法や会計監査、コンプライアンスなど基本的な法令や仕組みはきちんと理解し、監査役として役割を果たすように言われ、背筋が伸びる思いがしました。

実際、親会社の監査役室に取締役会前の事前説明に行くと、机の上には会社法の本や下記、月刊誌などが様々な参考文献が山積みに置いてあり、弁護士経験者だけでなく、以前は他社の経営幹部や官公庁の幹部だった方々も上場企業の監査役としての役割・責任を果たすために最新動向を含め、かなり勉強されていたことに、少したじろいだ経験があります。

監査等委員会とは別に、さらに報酬委員会指名委員会を設置し、その過半数を独立社外取締役にするとなると、少なくとも2~3名の有識者を社外から招聘する必要があります。

執行側役員の資質・コンピテンシー適切な報酬体系に関する事項は人事部門や人事コンサルティングでも、かなり特殊な領域です。経営経験豊富な方であっても、この領域において感覚論ではない、的確な判断が本当に出来る方は限られているのではないでしょうか?

そのうち、月刊「社外取締役」とかいう雑誌も出るかもしれませんね(^^♪

社外取締役の現状

さて、こうした一連の取締役会改革の動きについても、地域経済連合会から急ぎ過ぎではないか?との声の一つとして上がっていることは前々回のNoteに書いたとおりです。

少し前に週刊ダイヤモンドで『社外取バブル2023「10160人」の全序列』というちょっとエゲつない特集が組まれました。報酬の多寡ばかりに目がいってしまいますが、特定の学識経験者や有名経営者、系列企業幹部に集中するなど「お友達」クラブ的な感じがする取締役会も散見されるようです。

社外役員制度の先進国である米国でも実は似たようなものではないか?
それでコンプライアンス問題や高額報酬問題が起きていないのかというと、実際にこの仕組みで何が監督出来ているのか、本当にガバナンス強化につながっているのか、疑問に思うところもありますよね。

そして、さらに国内では女性役員を増やせ!という社会的・原則的な要請もあるため、まだまだ日本では数少ない女性経営者や幹部経験者で実際に社外役員を引き受けられた方々の側でも、様々な苦労や悩みをお持ちになられているようです。

「急ぎ過ぎ」という面だけでなく、ここでも、数字目標やガイドラインが独り歩きし(呪術化し)本来の目的や有効性からも少し離れていっているのではないか?と感じるのですが、皆さんはどう思われるでしょうか?


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