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経済書(8):「新自由主義と脱成長をもうやめる」

前回投稿から少し間が空いてしまいましたが、最近読んだ本の中で現在の「資本主義の限界」とも見て取れる状況に、世界の論客たちはどう考えているのか、コンパクトに紹介した本とその中で紹介された書籍について紹介したいと思います。今回はその1冊目です。

新自由主義と脱成長をもうやめる

まず取り上げるのは東洋経済新報社が出している骨太の経済書籍をテーマの中心にして、日本の論客たちが座談会形式でその内容を深堀りをし、日本経済や政治に当てはめたり、細かな点での賛否を問うたりしている「新自由主義と脱成長をもうやめる」です。

タイトルから推測されるように、サッチャーやロナルド・レーガン、小泉純一郎などの政策に根底にあり、いまなお続く新自由主義(Neoliberalism)への批判です。小さな政府、民営化、規制緩和といった政策を目指す経済思想と言えばわかりやすいでしょうか。

次の「脱成長」「格差社会や気候変動の根本原因は資本主義にある」「地球の持続可能性を超えて、現代社会は過剰に経済成長に重きを置いているのではないか」という議論です。日本ではマルクス研究者 斎藤幸平氏が有名かと思います。

経済書(2):日本の経済学者・エコノミスト|Nobu-san (note.com)

この2つの主張・思想の反論を海外の経済学者の書籍を紹介しながら、日本の論客たちが自らの考えや批評を話していく形式です。
座談会に登場する「令和の新教養」研究会の主なメンバーは、中野剛志(評論家)、佐藤健志(評論家・作家)、施光恒(九州大学大学院教授)、柴山桂太(京都大学大学院准教授)となっていますが、いずれも現代社会と日本の状況を憂う50代前半の論客・俊英たちです。

本書に関連する経済書・社会学書

私もこの書籍の中で紹介された書籍、すべてに目を通した訳ではありませんが、機会があれば、ぜひ読んでみたいと考えています。

まず始めに「国家はいくら借金を重ねても問題ない!?」というMMT(現代貨幣理論)の原典。経済学ではいまだ異端に近いようですが、政策上の留意点も含めて、わかりやすく深堀しています。


次にヨーロッパや米国がこれまでの積極的な移民政策により、自国の文化や国民の生活や脅かされていると警鐘を鳴らした「西洋の自死」

次の本は私は読んだことがないのですが、出版元サイトでは以下のように紹介されていました。

国民国家がもっとも、個人の自由や多様性を擁護し、発展させることができる政治体制であるとしている。
文化や起源、宗教を共有しているという連帯意識があってはじめて、近代的な自由民主主義の政治制度や市場経済も機能させられるとしている。
◎「トランプ以後」の米国保守主義勢力が目指している姿。

東洋経済STORE

こちらは下巻のみ目を通した記憶があるのですが、本書では「ファンタジーランド」に住む人々、つまりアメリカ人の信条は、異様に進んだアメリカ的な個人思想、それに支えられる妄想や空想で、恐ろしいことにそれが現実生活を支配するまでになっていることが、いくつかのエポックメーキングな歴史により、米国の多くの国民意識の中に埋め込まれていったと書かれています。

これらのグローバリズムと自国主義の対立について、東洋経済のサイトに興味深い記事があったので、合わせて紹介しておきます。

この記事後半の部分からの一部引用となりますが、

英国のジャーナリストであるデイヴィッド・グッドハートである。彼は、2017年に『The Road to Somewhere: The New Tribes Shaping British Politics』(どこかに続く道――英国政治を形作る新種族)という著書を上梓し、英国をはじめとする欧州諸国の国民世論の分断現象を論じた。
英国では現在、政治意識の面で国民の間に2つの大きな集団ができているという。
1つ目の集団は、「エニウェア族」(Anywheres)と著者が称する人々である。思想的には、経済面でも社会面でも「リベラル」である。経済面では市場経済重視であり、成果主義・能力主義を好む。社会面では、グローバル化の進展やそれに伴う改革を支持し、移民の大量受け入れにも寛容である。
もう1つの集団は、「サムウェア族」(Somewheres)である。
生まれ育った町に住み続け、ロンドンなどの大都市よりも、地方都市に暮らしている傾向がある。英国や地域社会に愛着を持ち、帰属意識が強い。国民相互、地域住民相互の連帯も重視する。
排外主義や頑固な守旧派ではないものの、現在よりももっと秩序だった、伝統が重視される社会のほうがよいと思っている場合が多い。数としては多数派であるが、政治の場で彼らの声はあまり取り上げられない。

東洋経済Online 『ブレグジットに反対する「エニウェア族」の正体』より 


この話、どこかで似た論調を聞いたことがある。と思い出したのが経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏の「GとLの経済成長戦略」です。

日本国内すべての企業や企業人がグローバルを目指すのではなく、ローカルで力強く生きていくことも改めて重視すべきではないか? という話なのですが、全国の大学も国際競争で生き残れる大学(G型)地域特化型の職業訓練校(L型)に分化していくべきだと主張し、一時炎上したことがありました。
冨山和彦氏「G型かL型か」大学は今こそ決断を:日経ビジネス電子版 (nikkei.com)

最後に「令和の新教養」研究会の著者を代表して、中野剛志氏の書籍を紹介しておきます。
私自身は中野氏が経済産業省商務情報政策局にいた頃、情報化政策の講演でお話を伺ったことがあるのですが、京大退官後、経産省に戻った後も著作活動と続けられ、現政権への政策批判とも取られかねない評論家活動を続けられていることに、日本の官僚機構も昔と比べてオープンになっているんだな。と別の意味で感心しています。






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