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【ちょっと昔の世界一周】#1 《旅が始まる》

「旅が始まったなぁ...」

2008年、7月。
23歳の誕生日を迎えたその夜。
私はバンコクの宿で荷物を床に置き、一人そう呟いた。

朝からの移動で疲れたこともあり、ベッドに横になり今までのことを思い出した。


私は福島で生まれた。
実家がパン屋(というよりは工場)ということもあり、高校を卒業してすぐに働き出した。

家族経営だったのだが全くもって経営に興味がなかった。
とはいえ、パンを作るということに興味があり始めたが、意外と才能があったらしい。

20歳の時には取引先(誰もが耳にしたことがあるであろう大手企業)の人たちにも認めて頂き、色々な現場に指導員という形で働かせてもらった。

そんな時に旅、というより世界一周を決めるキッカケができた。

2007年、とある取引先との会議中に
「御社のパンをアメリカで販売したい」
との申し入れがあった。

もちろんそんな経験はない。
日本の食品をアメリカで輸入・販売している方が声をかけてくれて、どうなるかは別としてやるだけはやってみようという話になった。

そして3月になり、製造・営業担当者として初めての海外を経験した。

結果は難しかった。

会社としては残念でもあり、しょうがないといった具合だったが、個人的にはとてもいい経験になった。

そして翌月。

販売先との打ち合わせがあり鎌倉を訪れた。

思いの外早く終わり、時間ができたので何となく
『海でも見にいこうかな...』
と思い海岸まで足を延ばした。

そして何気なく海を見ていると突然、前月のアメリカで見た景色と言葉を思い出した。

アメリカでの滞在先はロサンゼルス。
初めての海外ということを知って、取引先の人が会社に行く途中に少しドライブをしてくれた。

その時に訪れた〝ベニスビーチ〟

ビーチ似合わないね。と言った会話をしながら眺めていたが、その時に言われた言葉。

『この海も空も日本につながっているんですよ』

ひと月後に海を見た時に、その言葉が蘇ってきた。

頭の中で何度も流れるこの言葉。

一ヶ月前は海の向こうにあった場所に今、自分は立っている。

世界は広い、でも同じ世界(空間)

そして、しばらくしてスッキリとした私の頭の中に出てきた言葉は

『そうだ、世界へ行こう』

鎌倉駅で何となく見た、京都への観光案内のポスターの影響もあったかもしれない。

それでも微妙に単語を変えて、その言葉が湧き出してきた。

そして、あっという間にそのことで頭がいっぱいになった。

そこからはあっという間の日々だった。

帰宅し家族であり会社に相談する。
役職はないが、一応は責任ある立場にいた。
とはいえOKはもらえた。

それでも引き続きや色々な事があることと、準備にも時間が必要なので早くても一年後を目標に動き出した。

鎌倉からの帰り道に立ち寄った本屋で偶然にも、世界一周旅行者のまとめた本を見つけた。

それで世界一周航空券というものがあるということを知り、旅のルートを想像・妄想した。

良いか悪いかはさておき、仕事が忙しすぎて休みがずっとなかったこともあり貯金はそれなりにあった。

とはいえ、航空券と生活費を考えると節約していかなれけばいけない。

なにせ一人旅もした事がなければ、海外も一度しか行っていない。

何から何まで未知の世界。

そして時間が流れ翌年。
思い立ったのが4月だったが、せっかくなら自分にとってのキリが良い日である7月の誕生日に出発を決めていた。

旅のルートは西回り。
色々考えて期間は8ヶ月。

世界一周航空券と言っても、乗る予定のフライトが印刷してあるだけの紙。
その紙を見る度にワクワクしていた。

誕生日当日。

「誕生日おめでとう、そしていってらっしゃい」

そう言われ家族に見送ってもらいバックパックを背負い旅が始まった。

“家に帰るまでが遠足です”

よく言われる言葉だと思う。
世界一周といえど、旅といえば遠足と同じように行ったら帰ってくるもの。

私にとっての旅が始まった。

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