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【ちょっと昔の世界一周】 #17 《風に吹かれて》

見渡す限り田んぼ・畑しかない一本道をただ歩いている。

空は晴れ渡りとてもいい天気。
青空に白い雲が映えている。

白い雲を見ながら風に吹かれているとあの曲が頭の中に流れていく...

『宿はあるのかな...』

バックパックを背負い、私はひたすら一本道を歩いていた。

*****

パークセーからワットプー遺跡に行くために、遺跡近くの街【チャムパーサック】へのツアーを申し込んでいた。

早朝、宿を出発し旅行会社へ向かう。
着いてみると私の他にヨーロッパ系の旅行者が数人すでに集まっていた。

予約していたチケットを渡し改めて説明を聞く。

どうやら私を除いた全員がパークセーより南部にある【コーンパペンの滝】を見に行くらしい。

チャムパーサックへ向かう旅行者は一人だけ。
なので、途中にあるチャムパーサック行きのバス乗り場まで乗せてもらい、そこからは乗り換えを案内してくれるとのこと。
もちろん代金はそのバス代込みで払っている。

一人しかいないことに不安と気楽さが混じり合った感情だったが、着けばいいや。の気持ちで出発を待った。

・・・

本当に待った。

出発時間を30分は過ぎただろうか。
依然バスはやって来ない。

私としては
『さすがラオス。ゆったりしてるな〜』
といった気持ちでまったりしていたのだが、他の人たちが見るからにイライラしている。

日本にいた時なら私もこんな感じだったかな...
そんなことを考えてさらに待っているとようやくバス(ワゴン車)がやってきた。

ドライバーが、やっちまったわ!といった表情で旅行会社の青年に声をかける。

どうやら寝坊した雰囲気だ。

結局全員の荷物を積み終わり、出発したのは予定の一時間後。

「Sorry,Sorry... :)」

ドライバーが乗客に笑いながら謝りバスは動き出す。

『今日中にワットプーを見れればいいし、そこまで観光に時間もかからないからちょうどいいや』

そんなことを考えている私とは打って変わり、他の人たちはどこかイラついている。

確かに全く反省の雰囲気のないドライバーの態度はどうかと思うが、それも含めて旅だ。

どうせなら楽しもう!
そう思えるようになった私の考えはだいぶ良いものかもしれない。

車内にはなんともいえない空気が漂っているので外を見ていると、ガソリンスタンドが見えてきた。

バスが止まる。

「ガソリンないから入れてくるわ!」

ドライバーは多分そんなことを言ったのであろう。
その言葉に私以外の人たちの堪忍袋の緒が切れたようだ。

「遅れてきて次はガソリンを入れてない!どんだけ俺たちを待たせるんだ!」

私の英語力でも怒鳴り声の意味を理解できた。

しゅんとした様子でガソリンを入れ走り出したバスの中の空気はさらに重苦しいものになっていた。

しばらくは信号もない道を走っていた。
そのおかげかバスは猛スピードで進んでいる。

『このペースでどれだけ遅れを取り戻せるのであろう』

そう思っていると、次第にバスが減速していく。
トイレ休憩かとも思ったが、特に建物(小屋)のようなものもなく川沿いに小舟が並んでいる。

バスが止まりドライバーがこちらを向く。

「チャムパーサック?」

チャムパーサックに行くのは私だけのはず。
手を上げると荷物を持って付いてこいといった感じ。

どうやらここが乗り換え地点らしい。
ようやくこの雰囲気から離れることができ、気楽になってバスを降りる。

しかし、ここで問題が起きる。

いくら急いだとはいえ、ここへの到着時間は遅れていたようで川を渡るはずのバスはすでに出発していた。

次のバスにはまだまだ時間がかかるようだ。

ドライバーとしても唯一怒っていなかった私に気を使ったのか(当然のことなのだが)色々と考えてくれている。

「本当はバスが来るまで待ちたいんだけど…」

と私たちが乗ってきた、重苦しい空気の漂うバスを見ながら話をする。

私も気持ちとしては気にするなと言いたいのだが、流石にここで置いてかれたら困る。

するとドライバーは思いついたように川の方へ歩いていく。
その方向にいたのは何事かと自分たちの小舟から様子を見ていた人たちがいる。

少し話をし手招きしている。

どうやらこの小舟で向こう岸まで乗せてくれるらしい。
川を渡ればチャムパーサックだから大丈夫。と小舟のおじさんにポケットから出したお金を渡している。

なかなかの展開である。

小舟といっても観光客用とは程遠い。
ギリギリ二人は乗れるであろうが、基本は一人で漁をするような雰囲気。
東南アジアの観光パンフレットで川にポツンと浮かんでいるようなものである。

ならバスを待つかと思ったのだが、これも経験だ。
せっかくなら乗ってみよう。

OKと言いドライバーに別れを告げる。
この交渉中も過ぎていった時間の分、より重苦しくなったバスへと彼は戻っていく。

さて、次の問題は私だ。

おじさんは舟の準備を進める。
準備といっても舟を引っ張って川に浮かせている。

大人が一人で動かせるサイズなのである。
何となく不安になってくる。

そんな私の不安はいざ知らず、荷物置くよ。と手を伸ばしてくる。
バックパックを渡すと舟の中央に置いてくれる。

次は私だ。
おじさんは膝まで川に入り舟を押さえてくれている。

一連のやり取りで集まった人たちが、そこに乗れ!と指を指してくれる。
腰を下ろしたまではいいのだが、少しでも左右のどちらかに体重をかけると水が入ってくるぐらい船は沈んでいる。

バランスをとるのに苦労していると、おじさんがエンジンを動かす。
なかなかのいい音と同時に船が安定してくれた。

周囲に集まった人たちの見送りの中、私とおじさんを乗せた小舟が動き出す。

エンジンがかかったことにより安定はしたのだが、水を切って走り出すことによって結構な量の水が入ってくる。

想像するに大人二人&荷物の重さでいつもより沈んでいるのであろう。

初めのうちは不安が勝っていたのだが、川の中央部あたりを通過する頃には楽しさの方が勝っていた。

風とともに顔に当たる水滴が気持ちがいい。
水面ギリギリで味わう風もいいものだ。

段々と対岸が近づいてくる。
先ほどの川辺と同じように小舟が何隻か並んでいる。
そこでおしゃべりをしている人たちがこちらを見ている。

何事もなく岸に辿り着くと、その場にいた人たちが集まってくる。
考えてみれば知り合いが普段は乗るはずのないであろう外国人を乗せてやってくるのだ。
事情を知らない人たちからすれば何事かと思うだろう。

舟の上でバランスが悪くフラついている私を見かねて、舟を抑えたりこちらに手を差し出してくれる。

無事に地面に降りおじさんから荷物を受け取る。
街はあっちだよ。と教えてくれるおじさんにお礼を言い歩き始める。
後ろでは集まった人たちに一部始終を説明しているようだ。

本来であればチャムパーサックの街中まで行くバスだったので、この道を歩くことはなかったであろう。

『ドタバタながらもなかなか面白い経験ができたな…』

心地よい風に吹かれながら、見渡す限り建物がない一本道を歩き始めた。


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