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「桐島、部活やめるってよ」を今更読んだら、4年越しに高校生活の無気力さに気づいた

2012年出版、当時大学生だった作家・朝井リョウによって手がけられた「桐島、部活やめるってよ」をかなりの時差で読んでみたら、4年前のあのどうしようもない無気力感を思い出して一人で途方に暮れてしまった。

私は今大学4年生で、もうすぐ学生生活も終わる。当時を思い出す事なんてもう無いと思っていたのに。自分にとってあまりに衝撃だったので、恥ずかしいから高校の同級生には読まれたくないけど、小説と一緒にまったく意味が無いと思っていた高校生活を振り返ってみようと思う。

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青春なんて無かった。頑張る事を諦めた高校生活に刺さる

高校といえば青春を代表する時間だ。だけど勉強が全ての真面目ちゃんだった自分は高校に入ると、努力する事は格好悪く、努力せずして結果を出す人間が格好良いという全く愚かな考えを持つようになった。

そうして頑張る事を諦めたので、これといった思い出もあまりなく、3年間アオハルは来なかった。そんな高校生活だったからこそ、単なるキラキラ青春モノではなく、高校生の不安や苛立ちや無気力さにフォーカスした本作は刺さったのだと思う。

小説に登場する人物の中で自分は、野球部の幽霊部員・菊池宏樹くんが重なった。(何でもデキちゃうスーパーマンじゃなかったけど!)

頑張る人を見たり、大人から勝手に期待されると菊池君と同じようになんだかイライラしたし、「本気でやって、何もできない自分を知ること」が怖かったからいつもテキトーに力を抜いていた。

当時は「私の高校生活腑抜けてるな」なんて思ったことは無くて、ただ漠然と無気力感を感じながら、あ~あんまり楽しくなかったなと、思い出を振り返る事もなく何となく卒業してしまった。

4年後の今になって菊池君の心の声を読んで、みんなのような高校の頃の良い思い出が無いと思っていた理由をすっかり明らかにされた気分だ。

今では「私は高校生の頃、何かすごい事をしたくてたまらなかったけど結局何もできなかった」とそう納得できる。「本当はこんな狭い世界じゃなくてもっと広いどこかでなんか活躍とかしちゃって、そんな才能あったら良いのに」とずっと思っていたのだと思う。

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蘇るスクールカーストコンプレックス

小説の全体のテーマにもなっている、学校内カースト。高校に入るとまず思い知らされたのがこれだった。大学に入って他人の目なんて気にせず自分らしくいこうと決めた今でもトラウマ。クラスメイトが派手な子グループと、大人しい子グループにくっきり別れたのは、田舎の中学から出てきた私には衝撃だった。

例えば制服の着こなし。映画部の前田涼也くんが菊池くんや竜汰くんに抱く憧れや疑問を自分も持っていた。大体、カーストなんて最初の一週間くらいで固定される。その短い期間で判断材料にされるのは外見なのだ。

クラスに入った瞬間に「ランク付け」を勝手に決めて、前田くんと同じように自然と立場をわきまえていた。そんな自分が惨めで大嫌いだった。

殊に外見については、このランク付けに慣れたせいで容姿コンプレックスが形成されたと思っている。私は日焼けして真っ黒だから恋愛対象にはならないし、短くしたスカートから太い足を出しているから可愛くないし、結局外部活は土で汚れるからオシャレしても意味無し。

正直言うと陰キャではなかったけど、とにかく外見ではカースト最下層だと思っていた。(だってモテる子たちはみんな私と正反対なんだもん!)

この若くて健康な身体を保てるのなんて人生の一時しかないというのに、高校3年間は自分の体を好きになることも、自信を持って人前を歩くこともできなかった。

前田くんには、そんな事を忘れられるくらい本気になれる映画があったけど、私には何も無かった。当時この本を読んでいたら、前田くんを光だと思った菊池くんのように自分も変われたのかな。

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あの無気力さは自分だけではなかった事に救われた

高校生活=華やかな青春という私の観念を打ち破ってくれた本作にとても救われたと思う。努力をして、壁にぶち当たって、恋愛もしてみたり、でも将来に向かって明るく突き進む経験をしなくても、自分は高校生だったと認めてもらえたような気持ちだった。

友達と高校を振り返る話をする時イマイチ話が噛み合わないのも、みんなは素敵な青春をしっかり送ってきているからだ。本当は言いたかった「私の高校生活はロクなモノじゃなかったよ」と。

ずっと自分だけ青春をしてこなかったことに負い目を感じて、青春をそれなりに楽しんでいる風に頑張って繕っていたから。

でも、もうそんな嘘はよして、自分は登場人物達のようには無気力や絶望から脱する事はできなかった事を白状しよう。ただ、それは必要な過程だったことも同時に認めようと思う。私が大学に入って好き勝手できたのも、何もしなかった高校の後悔があったおかげだから。

ずっと意味のない高校生活だと思っていたけど、本当は必要な事だったんだ。

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