見出し画像

享年40歳

朝、目が覚めると、全身がマジックの落書きで埋め尽くされていた。
相方である我が社のCTOは全身血だらけで僕の前に姿を現した。
まさにそれは映画「ハングオーバー!シリーズ」の最初のシーンのような朝、僕は二日酔いで40回目の誕生日を迎えていた。

———

デルタ航空がフワッと離陸して飛び立った時の緊張と興奮は今でも鮮明に覚えている。
初めての海外は、バックパッカーで世界を旅したいと決意した20歳の頃、それは同時に人生初の飛行機体験でもあった。

初めて降り立ったバンコク、空港の自動ドアが開いた瞬間に肌に纏わりついてきた熱風、独特の匂い、しつこく客引きしてくるタクシー運転手、至るところに記された異国文字。いよいよ日本以外の地に足を踏み入れたんだな、と高揚した気持ちを隠しきれなかった。

あれから数年間、何かに取り憑かれたかのように世界を放浪するようになった。

香港の夜、100万ドルの夜景と、その裏にある混沌とした世界の対比を見た。
マカオのカジノで30分だけ大金持ちになる夢を見て、5分で一文無しになった。
韓国の街並みは、どこか昔の日本を思わせた。
カンボジア、アンコールワットでは濁り一つない純粋な少女の笑顔に出会った。
イスラム国トルコで経験した9.11、毎日渡っていた橋が爆破対象物になり、深夜鳴り止まぬコーランと自爆テロの爆音を聞いた。
ギリシャ最南端の島へ向かう船の甲板から見た空は、こぼれ落ちるほどの星が覆い尽くしていて、到着した島の海は、底の底まで見えるほどに透き通っていた。
イタリアの町並みは人間が創りうる中で最も美しい風景のように思えた。

旅で得た、語り尽くせぬ経験の数々。

その全ての出会いと別れは僕の価値観に強く影響を与え続けてくれた。
命の尊さ、大切な人への感謝。

あの旅の途中、ジョンレノンという偉大な夢想家が紡いだ「Imagine」という楽曲がずっと僕のイヤホンから語りかけていた。「争いのないボーダレスな世界を想像してごらん」と。

どうすれば良いのかなんて分からなかった。
ただ、世界に一つでも多くの笑顔を増やしたい。国家、宗教、文化、思想なんてものを飛び越えて、人と人は繋がることが絶対にできるから。自然とそう思うようになった。

だから芝居を続けた。歌い続けた。少しでもジョンレノンが、夢を夢物語で終わらないものとする為に世界に影響力を持ち続けたそれに近付くために。
そしてビジネスというフィールドに足を踏み入れた今も、あの時と同じ思いで歌い続けている。フワッと飛行機が飛び立ったあの初めての感覚をずっと追い求めながら。

———

全身のマジックを完全に洗い落とすには結構な時間がかかったが(油性だなんて聞いてないよお前ら)、翌日には消えた。
野良犬に追いかけられて転倒した相方の傷とアザは今はカサブタで(噛まれなくて良かったね)、もう少ししたら何もなかったかのように回復するんだろう。

ミャンマーで迎えた誕生日のちょっと変わった素敵な思い出。

だけど、40歳になった今、これからの人生において絶対に消えて忘れてはいけないモノがあるんだ。

毎日もがいているし、苦しい時だってある。だけど、毎日生かされていて、大切な人がいてくれる。

画像1

拝啓、ジョンレノン。

享年40歳。
僕は今、貴方がこの世を去った40歳という歳になりました。
見てろよ、ジョンレノン。
僕は貴方が見ることの出来なかった40年目以降の人生で、きっとひとつの思いを、世界を舞台に成し遂げてみせるから。

yathar CEO / World Street 代表取締役。俳優 / ミュージシャン→バックパッカー→タイレストラン→GMO海外事業→起業。家はタイ・チェンマイ、職場はミャンマー・ヤンゴン / AIグルメプラットフォーム運営 / Borderless Entrepreneur