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旅好きの、旅に向かない体質

 旅好きなのに、どうやら私自身の体質は旅には不向きです。
 旅の醍醐味。
 日常生活圏から離れて、いつもと違う景観、文化を五感で楽しむこと。
 日常から脱却するためには、まず移動しなければなりません。過去にメニエール病を経験したことがあり、現在は完治しているものの軽いめまい症状が起きやすくなって以来、移動が長距離になればなるほど乗り物酔いするようになってしまいました。飛行機、ダメ。船もちろんダメ。車やバスも、長時間はダメ。電車は、通勤で使う特急や急行、地下鉄くらいであれば大丈夫でも、新幹線のように速度によって気圧が変わるレベルのものはダメ。

【電車で酔うパターン】
 新幹線でいえば、関西方面だと名古屋〜新神戸区間までであれば酔わずに乗車していられて、関東方面へ遠出となる名古屋から小田原以降は確実に酔います。酔うポイントも発覚していて、愛知県の豊川付近を走行中、新幹線の車内に「ヒュイーーーん」という特有の走行音が聞こえるあたり。それと、静岡県内の広々とした工業地帯を走行中。新幹線がスピードを上げる区間、上りと下りの新幹線がすれ違う瞬間は、要注意です。
 旅行前にトラベルミン(酔い止め薬)をかかりつけ医で処方してもらって服用しておけば、ほぼ症状を抑えることが出来るのですが、残念な副作用が一つ。私はこの酔い止め薬が睡眠薬も兼ねているかのように、ぐぅぐぅ寝てしまうのです。覚醒後、平衡感覚が失われて頭も身体もフラフラするのも困りもの。トラベルミンって、めまい症状で処方されることもあるのに、トラベルミンを飲むことでめまいがするなんて。
 移動中は完全に熟睡してしまうし、到着後も不調を引きずるので、トラベルミン1錠まるごと服用するのは私には成分が強すぎると判断し、調剤薬局で薬剤師さんに相談の上で錠剤を半分にカットして服用するようになりました。ぐぅぐぅがウトウト程度に緩和され、なんとか起きていられるようになったし、服用後のフラつき感も軽減されています。

 名古屋から出雲まで、飛行機で飛べは早く安く行けるのに、「特急やくも」に乗りたくて電車旅を選んだことがあります。喜び勇んで、先頭車両一番前の展望席を押さえていました。旧型車両の「特急やくも」は、よく揺れることで有名です。新幹線ほどのスピードは出ないんだからトラベルミンは服用せずに過ごせる気がして、岡山駅で買った駅弁をやくも車内で景観を楽しみながら食べていたところ、酔いました。泣く泣く薬を飲んで寝てしまい、眼下に広がる渓谷や大山のパノラマを見逃したし、お弁当は半分も食べられなかったことを今でも悔やんでいます。
 この「特急やくも」、車体をリニューアルして揺れにくく改良されました。乗り物酔いするヤツが言えるセリフではないことは重々承知の上ですが、「揺れるのが、やくもの良いところなんじゃないか!」と思いつつも、新車両になってどれだけ揺れなくなったのか、是非とも乗車してみたいです。酔い止め薬の出番なく、出雲まで無事たどり着けるでしょうか。
 ちなみに、出雲旅行の帰りは出雲縁結び空港から名古屋空港まで飛行機に乗ったのですが、小さい機体で飛行中の揺れが強かったことと旅疲れもあってか、やはり酔いました。飛行時間が短かったことが、不幸中の幸いでした。

【波で酔うパターン】
 横浜に行ったとき、サザンオールスターズの曲にも出てくるマリーンルージュにどうしても乗りたくて、トワイライト・クルーズの時間帯に乗船しました。乗船受付とチケット引換のために桟橋の窓口で手続き中、桟橋が予想以上に揺れていて、酔いました。乗船開始を待つ待ち合いの桟橋の揺れでも、酔いました。乗船してからは停泊中の波に揺れる船内でダメになってしまい、食事と横浜の景観を楽しむことができるのか不安になったのですが、意外にも出航してしまえば揺れは気にならなくなり、フレンチのコースと横浜の工業地帯のダイナミックな景観、みなとみらいの美しい夜景を堪能できました。
 ホテルに戻り、入浴してベッドに入ったとき、身体がふわふわと波に揺られているような感覚が続いて、翌日昼過ぎにお茶をしていて着席中でも揺れ感がしつこく続いていました。三半規管が機能不全になったのは、マリーンルージュ下船後にサザンの曲よろしくBARシーガーディアンⅡで横浜の名前を冠したカクテルに酔わされたせいではないと思っています。
 湾内だけの短時間クルーズでもこれだけの症状が出てしまうので、憧れの豪華客船クルーズ旅行は、私には無理そうです。大型客船は、揺れを軽減する装置が作動して快適な船旅が出来そうではあるけれど、波のある海を航海する以上は、揺れと全く無縁なわけがない。クルーズ旅行のパンフレットにも、小さな字で「船酔いの心配がある人は酔い止め薬を服用する」旨の注意事項が書かれていました。せっかくのクルーズ旅行、薬を仕込み続けて過ごすのはイヤだなぁ。でも、一度は体験してみたい船の旅。出港セレモニーで、見送る側でなく見送られる側になってみたい。ドレスコードのある船内イベントにも、ちょっと背伸びして参加してみたい。夢は、広がる一方です。薬漬けで、挑戦してみようかな。

【飛行機で酔うパターン】
 空の旅が海外編ともなると、完全に酔い止め薬頼みです。座席位置は、出来るだけ揺れの少ない主翼の上か、主翼より前の席を予約しておきます。気が紛れるように、必ず窓際の座席。フライト1時間前にトラベルミンを1錠まるごと服用して挑みます。フライトが10時間以上に及ぶ場合は、時間を置いて機内でも追加で服用。そして、ひたすら寝る。映画を見たり読書したり、旅日記を書いてみたり、スマホいじりをするなんて優雅なフライト時間の過ごし方は、飛行機酔いする人間にはもってのほかです。
 現地に到着したら、飛行中の揺れが身体に染み付いてしまってフラフラと千鳥足。動く歩道でしっかり立っていられず、慣性の法則に従って後ろにひっくり返る迷惑な人に変貌します。入国審査や税関検査で「見るからにヤバいヤツ」と誤解を受けているのか、他の人はすぐに済むのに私だけ念入りに時間をかけられているように思うのは被害妄想でしょうか。
 酔い止め薬に旅路の命運を託す前、ヘルシンキからセントレア空港に帰る機内で、三半規管が完全におかしくなってしまったことがあります。やっと日本の領空に入った頃には、意識混濁。モニターに映し出される航路図は、長野上空くらいから記憶がありません。あのときは、本当に地獄を味わいました。そして、CAさんやセントレア空港の地上係員の方に多大なご迷惑をおかけしました。主翼より後ろの、通路に挟まれた真ん中席。満席状態でのフライトで空気もあまり宜しくなく、暇つぶしに映画を立て続けに2本観ていました。この苦すぎる経験が、今に活かされています。

【環境が変わることに弱い】
 移動時間も旅の楽しみの一つなのに、乗り物に弱いというのは、本当にツラいです。
 ついで、私は「枕が変わると寝られない」人間でもあります。使い慣れたパジャマ、旅行用の枕、薄手の着る毛布を持参し、出来るだけ自宅環境に近付けてはいるものの、出先にいることには変わりないので結局のところ脳が興奮状態が続いてしまい、全く眠れません。
 よって、移動時は酔い止め薬を、旅先で夜寝る前は必ず睡眠導入剤を服用して就寝しています。薬を処方してもらうようになる前は、移動中に酔ってフラフラ、寝不足で疲労困憊し、帰りの乗り物酔いが悪化する負のループでした。楽しい旅路、苦行付き。
 旅行中ずっと薬が手放せないのに、楽しいのか?
 もちろん、楽しいですとも。
 薬のおかげで日常生活圏から難なく脱却できるし、夜もぐっすり眠れる。だけど、乗り物酔いせず何処に行っても速攻で熟睡できるタイプの人が羨ましいです。
 最近では、かかりつけ医で酔い止め薬と睡眠導入剤の処方をお願いすると「今度は、どこに行くの?」と聞かれて旅行談義に花が咲くようになりました。かかりつけ医にお世話になるキッカケが「旅行」のうちは、人生の中でとても幸せな時間を過ごしているのだと思います。


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