「○○を書きたい」という話と『ニーズとウォンツ』と『水源と蛇口』

前置き

ニーズとウォンツとは

ビジネス用語(マーケティング用語)に『ニーズとウォンツの違い』という話があります。

「ドリルを買う人は、ドリルが欲しいのではなく穴を空けたいのだ」

セオドア・レビット著『マーケティング発想法』

言わんとすることは「顧客の要求に対し、その表面だけを捉えるのではなく、その目的まで理解して価値を提供することが大事」という話です。
ここでいう『ニーズ』とは目的(穴を空けること)、『ウォンツ』とは手段(ドリル)のことです。


創作HowTo記事における『ニーズ』と『ウォンツ』

さてタイトルの件ですが、
「小説を書きたい」とか「漫画を描きたい」、「脚本を書きたい」という駆け出し創作者の思いや、それに対する「(面白い)小説の書き方」などの様々なHowTo記事がネット上には沢山転がっていることかと思います。

そして多くの場合、こういった記事を書いてくれる方はしっかりと『ニーズ』を理解した記事を書いてくれています。つまり、

  • 『ウォンツ』:○○(小説/漫画/脚本)を書きたい

  • 『ニーズ』:○○を通じて面白い物語を表現したい(そして売れたい)

ということです。

そうしてその結果、以下のような形式の記事になります。

Q:○○が書きたい!
A:○○の書き方をご紹介します。
 まずキャラクターを考え(ここにキャラクターの考え方の説明)、
 次にプロットを作り(ここにプロットの作り方の説明)、
 そしてあらすじを作って(あらすじの作り方の説明)、
 ○○を書いていきます。

そう、ここで説明しているのは『○○の書き方』ではなく『(面白い)物語の作り方、考え方』なのです。
そして往々の場合、それはおそらく大多数の読み手に取って正解となることでしょう。


なんとここまで前置きなのですが、
「ところで本当に『○○の書き方』について説明しなくていいの?」
という疑問が浮かんでおります昨今の俺。


創作における『水源』と『蛇口』

創作活動とは、大きく分けると2つの手順に分けられます。

  1. 表現したいもの(物語やシーンなど)について考える

  2. 表現したい方法(イラストや漫画、小説やゲーム)で表現する

ここではこれらについて、1を『水源』、2を『蛇口』と言い換えることとします。

『水源』が濁っていたり不味かったりすると、たとえ『蛇口』が水をよく出す使いやすいものであっても人は寄り付かないし、
『蛇口』が固かったりホースが長かったりすると、たとえ『水源』がとても綺麗で美味しくても水を得るまでが大変です。

つまり、
たとえ表現手法が上手でも表現したいこと自体がチープだったり難解だったりすると人を選ぶし、
たとえ表現したい物語自体がとても感動的で面白くても、それを見せる手法を間違えたり見せ方が下手だと相手に伝わりづらくなってしまいます。

そして創作HowTo記事による『物語の作り方/考え方』で説明していることは、ここでいう所の「水源を綺麗に美味しくする方法」であり、「蛇口を整備する方法」ではないということです。


「魅せ方」は小手先の話ではない

これは自戒というか自身への気づきに近い話なのですが、自分は「この媒体で表現する場合に意識すべきこと」というのを結構考えながら書いています(出来ているかどうかはさておき)。
そしてこれを考えている間は、大抵頭の片隅に『そういう小手先の技を気にする時間があるなら面白い物語を考えるのに時間使おうや』『細かい表現の良し悪しなんてバチクソに面白い話の前では霞んでいくんだよ』という考えがおります。
多分上述のHowTo記事の作者の方々も、そういう思いが多少なりともあるのではないかと思っています。

つまり自分自身、「○○の書き方」つまり「魅せ方」というのは小手先の技であると考えていました。

が、『水道』と『蛇口』の話から見ても、ここでいう「小手先の技」は充分に創作物作成における一翼となりうる話なのです。

小手先、あまりなめてかかってはいけません。
蛇口の出が良くて飲みやすかったら多少水が濁ってて不味くてもガンガンに飲んでくれる人はいるのです。

(ちなみに頭の片隅のアイツ自体はあまり間違っていないと思っています。『進撃の巨人』や『原作ワンパンマン(作画ONEの方)』などを想像してみれば言いたいことは何となくわかると思います)


『ウォンツ』はもっと増えてもいいと思う

という話で、『ニーズ(物語の考え方)』も本当とっても大事なんだけど、もうちょっと『ウォンツ(○○の書き方)』の話も増えていいんじゃないかな、とか、もしかして自分以外にも『ウォンツ』を求めている人が居て、さらに言うともしかして自分の『ウォンツ』もどこかの誰かに価値があるのではないかな、とかとか思いつつ、そんな感じで今日の話を締めていきたいと思います。

ちなみにネット記事じゃなくて現実の世の中を探せば、こういう『ウォンツ』を説明している本は沢山あるかと思います。
何なら自分が知らないだけで、ちゃんと説明している記事も沢山あるんじゃないかなとは思っています。教えてくれると喜びます。

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