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『禅銃〈ゼン・ガン〉』バリントン・J.ベイリー(著)

栄耀栄華を極めた銀河帝国は、いま黄昏を迎えていた。激減した純人間を補うために動物たちが宇宙艦隊に乗りくんでいる。その折も折、辺境星域に帝国を滅ぼす力を持つ武器が出現したとの報をうけ、アーチャー提督は早速調査に赴いたが……英SF界の鬼才が奔放なアイデアで描く傑作ワイドスクリーン・バロック!

実にもったいない! それぞれ短編に出来るレベルの面白設定てんこ盛りなのに、ラストが超雑。小姓という謎めいた侍に全部語らせて終わっちゃう。

後退線という疑似科学(作中いきなり講義が始まるし、後書きでも補強してる)を披露したかっただけの1冊かな。この情熱をストーリーに傾けてほしかった。とはいえ、序章としてはアリかも。ゴッド・ガンに続くのかな? と思って調べたら続いてないし!!

お話は、帝国と禅銃、2つのパートからなる。

帝国パートは、宇宙戦艦で税金の滞納を督促するところから始まる。乗組員が小さい動物でいきなり心を掴まれる。川原泉の『ブレーメンⅡ』の元ネタはこれかな? とか思いながら読みすすめると、他の乗組員は子供だったり民間人だったりする。喋る動物、獣人、人体改造なんでもアリの社会がカオスで楽しい。そんな帝国は実は滅亡寸前。ロボットは人権を訴えストライキ中、人間は享楽にふけり働かず人手不足(軍艦の中で宴会してる。働かない。)。税金として支配する星々から、才能ある人間を徴収する。

禅銃パートは、全霊長類の遺伝子を組み込んだキメラ(名はパウト)が禅銃を手に入れ旅に出る。ちなみにパウトは知能は低く小悪党で喋れるサル、という程度。それがどんな仕組みかまったく不明だが、任意に人を殺せる電波を出せる木で出来た拳銃(禅銃)を手に入れてしまい、人々を痛みで隷属させたり、小姓を助けて恩を着せたりして道連れを増やしてゆく。

この後、帝国辺境では反乱が起こり戦闘、反乱軍の生き残りが地球におちてパウトと行動を共にする。地球では都市が移動していたり月が落ちてきたりするのに、ここでも大してストーリーに反映されずやきもきする。

帝国軍も、オラクル(今読むとディープ・ラーニングにしか見えなくて凄い)で帝国を滅ぼすと予言される武器を追ったり、海賊に乗っ取られたり、別宇宙の生命体とのファーストコンタクトだったり(異星人は普通にいて気体型生命が出てくるが、これも全然話を膨らませない)、内乱がおきたり、イベント山盛り。ここまでの風呂敷の広げ方は満点に近い。それだけにラストは呆気にとられる。

設定を湯水の如く消費する割に、話がお粗末、という極めてもったいない一冊。

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