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ファンタジーなのに陰謀とピンチとミステリ満載『ガラスの顔』フランシス・ハーディング(著)児玉敦子(訳)

地下都市カヴェルナの人々は表情をもたない。彼らは《面(おも)》と呼ばれるつくられた表情を教わり大人になるのだ。そんなカヴェルナに住むチーズつくりの親方に拾われた幼子はネヴァフェルと名づけられ、一瞬たりともじっとしていられない好奇心のかたまりのような少女に育つ。どうしても外の世界を見たくて、ある日親方のもとを抜けだしたネヴァフェルは、カヴェルナ全体を揺るがす陰謀のただ中に放りこまれ……。名著『嘘の木』の著者が描く健気な少女の冒険ファンタジー。カーネギー賞候補作。

今作も素晴らしい大冒険! 結構分厚い本なのだが、95%が起承転結の”転”の連続。
世界の、主人公の、刺客の、盗賊の謎が波濤のように押し寄せ、どうなるのよとハラハラしっぱなし。そして地下世界カヴェルナが思いのほか邪悪で血生臭く余計ドキドキさせる。
それら全て、ラストで見事に畳まれる。その手腕に脱帽。エピローグも美しすぎる。

今回も世界と戦う少女が主人公。
今までと違い架空の地下都市が舞台で、そこでは毒を吐くチーズ、記憶を操作するワイン、感覚を増幅するスパイスなど、魔法の品々が作られており、それらを作るマエストロたちの集まる宮殿では権謀術数が張り巡らされている。そんな世界に記憶をなくした主人公(5歳)が一人で放り出されてしまう。
主人公は、隠遁し閉じこもってるチーズ職人の親方に拾われ、仮面をつけられ育てられる。しかし当然、好奇心旺盛な少女はチーズ坑道から地下世界カヴェルナへ飛び出し、陰謀に巻き込まれ、カヴェルナの秘密に触れてゆく。

みんなの予想通りだし、序盤で明らかになるのでバラすが、主人公は地上人。カヴェルナの人々と違って生きた表情を持つ。そのため考えてることが丸わかりで嘘がつけない。それが事件を起こしたり役立ったりするのがユニーク。この特性と愛嬌、頭の良さ、行動力で、ピンチを乗り越え、カヴェルナを旅し、その腐敗と敵対してゆく。

ファンタジーでありながら、搾取構造は現代社会と同じだったりと風刺も効いている。これを読んだ人は自分がしているのが労働なのか搾取なのか、一度考えてほしいな、そして逃げ道は掘ってでも作れ、というメッセージなのかもね。

ハーディング作品、毎度名前がユニークだが今回も面白い。
親方につけられたネバフェルという名前、never fail でネバフェルなのかな、と思ったが、鍋に落ちてきたから、never fall なのかも。後者なら、ラストで高い所から落ちそうになる展開が待っているんだろうな、とよんでいたが、カスリもせず(笑)

以下、微ネタバレ。

中盤、○○○が殺し合う展開は心底吃驚だし、その真相も吃驚。どれだけ準備してるんだよ、とその執念に恐怖。それだけに最後のズエルの行動に喝采を打ったよ。えぐいが爽快! これぞざまぁ。

ラスト、あっさりと残酷に勝利するが、親方のチーズにも活躍してほしかったな。あとワインが便利すぎるよ(笑)
しかしみながぞろぞろ歩くエピローグは想像しただけでウルっとくるので全部許せる。

ちなみに、個人的フランシス・ハーディングランキングでは、まだ『カッコーの歌』が一位。本作は僅差で2位かな。『嘘の木』も二位タイ。『影を呑んだ少女』は四位だが、敵の邪悪さでは本書と並んで一位だね。

#読書感想 #読了 #ネタバレ #海外小説 #ファンタジー

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