『ミレニアム』ジョン・ヴァーリィ(著) 風見潤(訳)
滅亡を目前にした人類がとった乾坤一擲の解決法、それが〈救奪〉だった。死者が多数発生する飛行機事故を選び、時間をさかのぼって救奪隊を機内に送りこみ、乗客たちを“幼弱者”と交換する。〈救奪〉の痕跡は消され、タイム・パラドックスは起こらない。しかし誤算が生じた。5万年前のカリフォルニアで発生した空中衝突での救奪中、隊員が機内に1980年代には存在するはずのない物を忘れてきてしまったのだ。名実ともに米SF界をリードするジョン・ヴァーリィによる時間旅行テーマの意欲作。
凄惨な飛行機事故、滅亡しかけてる未来人類、救奪の目的等、シリアスで暗い設定だが、キャラや文章はコミカル、お話はドタバタ劇と、ちぐはぐな感じ。ヴァーリィファン向けかな。
救奪中に未来の銃を飛行機で紛失し、それが原因でタイム・パラドックスが起きるのを防ぐため、再度過去に飛び銃を回収する、というのがメインのお話なのだが、いつの間にか、未来の人類滅亡加速の話にすり替わっており、その説明が特に無いまま話が進んでしまう。焦点が定まらないままスケールだけが大きくなっていくので、個々のSFアイデアがめちゃくちゃ面白いのに、全体としてはぼやけてしまい残念。
ただ文章はかなり楽しめた。ロボットが「わたしをイエスと呼びなさい」と言い出し、主人公が「お前の母親は自動販売機で、父親は輪転機だ」と罵倒したところは爆笑した。
正直、小説としてはエピローグが蛇足なのだけど、ギャグとしては、上記イエスギャグと係り結びになっており凄い。
とはいえ、主人公にささやかな救いをもたらすシリアスなラストをぶち壊してるので、やっぱり残念な一冊かな。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?