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『法治の獣』春暮康一(著)

惑星〈裁剣(ソード)〉には、あたかも罪と罰の概念を理解しているかのようにふるまう雄鹿に似た動物シエジーが生息する。近傍のスペースコロニー〈ソードⅡ〉は、人びとがシエジーの持つ自然法を手本とした法体系で暮らす社会実験場だった。この地でシエジーの研究をするアリスは、コロニーとシエジーをめぐる衝撃の事実を知り――戦慄の表題作に、ファーストコンタクトの光と影を描ききる傑作2篇を加えた、地球外生命SF中篇集

素晴らしい。ごりごりのハードSFながらロマンに溢れてる。
同じ世界の中編3作。掲題作の2作目より、ファーストコンタクトもので前後編になってる1,3作目が大好き。特に1作目。ラストの展開に唖然となり、一気に引き込まれた。
理系文章でエンタメもユーモアも皆無だが、SF読みには猛烈にプッシュしたい一冊。小川一水に近いかも?

主観者

地球を探索し尽くし、好奇心を持て余してる地球人達が太陽系外にも有人調査をしだす未来のお話。わりと生命がいるが、知的生命体には出会えない。そんな中、全面海の惑星で発光するイソギンチャクのような生命体を発見、発光のスペクトルが非自然的なので調査してゆくと…。

レムの『ソラリス』みたいなのかと思いきや、別種の失敗。うわぁとしか言えない。帰りの船のいたたまれなさを想像するだけで胃が痛い。
知性の仕組みに関しては読者も予想がつくのだが、顛末が切ない。相手は初めての自分以外の他者との会話。ナイーブどころではない存在だ、ということを念頭に置かねばならないが、そんなことは可能なのだろうか? 何ができるのだろうか? ファーストコンタクト、プロトコルの問題以前にやる、やらないの問題のほうが深刻、というお話。

法治の獣

とある惑星の上空に浮かぶ実験的スペースコロニーのお話。その実験とは、惑星の角ある羊みたいな原生生物(シエジー)がとっている法のようなルールを人間にも適用すること。シエジーはストレスを受けるとすぐ衰弱するので、群れは最大多数の最大幸福を求めるよう自然に動く。
主人公はシエジーの生態を研究すべく月からこのコロニーの研究所に就職するも周りは神秘主義者ばかりで…。

そんなに法治か? と思うし、法を直訳して人間社会に使うより、法化のプロセスこそ取り込むべきでは? と思うのだが、なぜこんな事をしてるのか終盤に明らかになる。人類の進歩の無さにため息しかないよ。
時系列的に、この話は3話目より未来と後書で書かれていてよりガッカリだよ。
とはいえ、引き続き宇宙生命の造形が引き続き素晴らしく、生態を見ているだけで楽しい。植物が無い世界は想像したこともないわ。

方舟は荒野をわたる

地球の人口増加が問題になり、よその惑星をテラフォーミングする任務についた人たちのお話。
クローン管理職が冷凍睡眠から起こされると、そこはテラフォーミングに適さない星で、さらにクルーは反体制派だと判明する。
さらに知的生命体を発見したと報告されるが…。

主観者の対となるお話。今度こそ! と思いつつ同じミスを繰り返してて苦笑い。まぁ結果オーライでなんとか意思疎通が成功するも、新たな問題が発覚してゆく。主人公たちはまた自分たちがやらかしたと気づき、必死で原因を調査してゆく。主人公が一皮むけてゆく様子が見ていて微笑ましい。

方舟と名付けた知的生命体が登場するのだが、この造形が天才的。
この星系に新たな惑星が飛び込んできた影響で気候が激変、海がなくなり、地軸もランダムに回転するようになった星で、生物たちはお互いに団結し生き延びようと結合してゆく。結果生まれたものが、センス・オブ・ワンダーとしか言えない。本当に素晴らしいアイデア。ネーミングセンスも最高。

また、全然本筋出ない所でも考えさせられた。
方舟が地球人との会話中フリーズする場面があるのだが、直前、地球はどんなところかと聞かれ、水で溢れてると答えていた。てっきり、この星は干からびたのに水があふれる星の話をされ、ネガティブな精神状態になったのかと思った(フリーズの原因は全然ちがったが)。今回なんでもなくスルーされたが、どこに地雷があるかわからない。ファーストコンタクト後の会話にも細心の注意を払わねばならない、と印象に残った。主人公たちも気をつけろよ!

#読書感想 #読了 #ネタバレ #SF

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