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『ソラリス』スタニスワフ・レム(著)沼野充義(訳)

惑星ソラリス――この静謐なる星は意思を持った海に表面を覆われていた。惑星の謎の解明のため、ステーションに派遣された心理学者ケルヴィンは変わり果てた研究員たちを目にする。彼らにいったい何が? ケルヴィンもまたソラリスの海がもたらす現象に囚われていく……。人間以外の理性との接触は可能か?――知の巨人が世界に問いかけたSF史上に残る名作。レム研究の第一人者によるポーランド語原典からの完全翻訳版

未知との遭遇モノの傑作! 知的生命体とのファーストコンタクトを舐めるなよ、というレムの気概を感じた。読みづらいが、SFファンは必読だよ。

人類が宇宙に飛び出した未来。不自然に安定した軌道の惑星ソラリスを調べると、ゼリー状の海そのものが知的生命体で、惑星の軌道をコントロールしていると判明。意思疎通を試みるが失敗続きで数十年経過、あきらめムードで調査も下火になり、3人の男がステーションに常駐するのみとなった。そこで人が死んだと連絡があり、心理学者ケルヴィンが調査に赴く。そこには、憔悴した職員、引きこもる職員、そして、いるはずのない謎の黒人女に麦わら帽子の子供。何が起きたのか? と戸惑っているうちに、主人公の元にはかつて自殺した妻が現れる。というお話。

何が起こったのか、ソラリスと意思疎通はできるのか、というミステリ、自殺した妻との再ロマンス、ソラリス学というシュールギャグで構成される。どのパートも素晴らしい読み応えだった。特に妻の心情を考えるといたたまれない。

この本の肝は、ソラリスが人間に対し、心の奥の欲望(後悔?)を実体化 して送り込んでくる所だが、それを意思疎通のインターフェイスにするのかと思いきや何もしてこない。本当に顕現させただけ。反応を見てるのかもわからない。わからないづくし。

子猫が初めて鏡を見たときの動画が心あたたまるが、ソラリスがやってるのはそういう事なのかも。心理的鏡を人間に見せてリアクションを見ている。つまり、人間が犬猫と会話にならないように、超知性は人間なんぞと会話にならない。この本でも人間は翻弄されるだけだった。人間はまだまだその程度の存在なんだよ、思い上がりが過ぎるよ、というお話。(子猫どころか、細菌同様、認識すらしてない可能性も大だけど。)

ロマンスパート、ミステリパート、ともにままならず、ひたすら切なく、ただ、その理不尽さが美しくもあり、主人公が神聖を感じるのも理解できる。素晴らしい一冊だった。

訳者後書きもなかなか楽しい。2回映画化されているが、両方にブチ切れているレムの様子が笑えた。

ちなみに、アニメ、エウレカセブンの元ネタと思われる。

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