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『日本SFの臨界点 石黒達昌』伴名練(編)

3か月連続刊行の作家別傑作選第3弾。科学の暗部を暴き出す、文學界初出「冬至草」をはじめ文芸界が絶賛する伝説的作家の傑作集

短編集。医者である作者の文章がとにかく盤石でどっしりしている。その上で書かれるのが医療系架空論文SFなのだからニヤニヤがしてしまう。
表紙に”冬至草/雪女”とあるので2編しか入ってないのかと思いきや、たくさん入ってるよ。

希望ホヤ

抗癌作用のあるホヤのお話。娘が癌で余命幾許となってしまい、主人口である父親が医学を学び、藁にもすがる思いで試行錯誤してゆく。

これが愛だよなぁ。世界なんかより愛する一人のほうが重い。トロッコ問題の答えだよ。と思い知らされる。さらにこのお話、民間療法で死ぬお話と紙一重でもあり複雑な心境になってしまう。

冬至草

放射性植物のお話。増やそうとDNAを調べると人間の成分が出てきて…。

SFでありホラーでもある。冬至草が絶滅した顛末が酷くて良い。

また、舞台にヒラフが出てきて、今とのギャップが凄まじいな、と本筋じゃないところで衝撃。

王様はどのようにして不幸になっていったのか?

寓話? 思考停止批判かな。トップが素晴らしくても民衆が阿呆だと結局は全体がだめになってしまう。でも人は低きに流れるからどうしようもないよね。

アブサルティに関する評伝

論文のデータ捏造のお話。

実際に論文書く人がいうと説得力しかない。ラストの文章こそ言いたいことだったのだろう。
だからこそ、再現された実験こそが信頼できるのよね。それが科学。そういうのを無視した大衆とそれを先導する勢力がコロナ禍で目立ったけど、だれがどう対応できるのだろうか。

或る一日

原爆投下後の広島の病院みたいなお話。

只々読むのが辛い。

ALICE

殺人の罪で収監された多重人格の女が刑務所で反乱をおこし2年にわたり立てこもるも、人質の精神分析医に殺されるお話。

精神面のお話が全然理解できないながらもめちゃくちゃ怖い。なんか伝染してるし。
精神病院は常にこんなかんじなんだろうか。怖すぎる…。

雪女

日本SFの臨界点[怪奇篇]で既読。同じシリーズなのだから、他の作品を入れてほしかった。

平成3年5月2日,後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士,並びに

これぞ架空論文。横書き左開きだし、句読点がピリオドカンマだし、表や写真はあるし、出典まで書かれてる(笑)

体裁が気合入ってて笑えるのだが、お話はシリアス。小さな羽の生えたハネネズミについて、死の淵にある研究者が絶滅の真相を語る。

ハネネズミの生態が意味不明ですごい。なんで生んだんだと言わんばかり。寿命がなく長寿だが、動く気なし。すきあらば死ぬし、生殖でも死ぬ。最初からこうだったのか、なにかあってこうなっていったのか。

他の作品も同様だが、フィールドワーク描写、研究描写がリアリティしかなくて唸る。さらに過去の出来事がメインなので、研究者たちの心中は想像するしかなく、曖昧さでより動植物の不気味さが現実味を増している。

#読書感想 #読了 #ネタバレ #SF

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