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『日本SFの臨界点[恋愛篇]&[怪奇篇]』伴名練(編)
表紙はキャッチーだが、内容はいぶし銀。
恋愛篇、怪奇篇と銘打たれてるが、あまり関係なし。埋もれた作品を世に出すのが第一目的らしいので、そこそこSF読んでる人向けに感じるが、恋愛篇がわりとベタで、怪奇篇が変化球かな。怪奇篇のほうが好き。
以下好きなのピックアップ。
恋愛篇
恋人の手紙を通して異星人の思考体系に迫った中井紀夫の表題作、高野史緒の改変歴史SF「G線上のアリア」、円城塔の初期の傑作「ムーンシャイン」など、現在手に入りにくい、短篇集未収録作を中心とした恋愛・家族愛テーマの9本を厳選。それぞれの作品への解説と、これからSFを読みたい読者への完全入門ガイドを併録。
生まれくる者、死にゆく者 / 和田毅 著
人が無から生まれ、無へと還ってゆく世界で、死にかけのおじいちゃんと、生まれかけの孫が出会える確率のお話。
世界観が素敵。死にかけるとだんだん見えなくなり、存在を知覚できなくなってゆく。逆に子供はだんだん見えるようになってきて、ある日突然子供になる。確定するまで何年もかかるので、赤ん坊期間すっ飛ばしてるのが面白い。
G線上のアリア / 高野史緒 著
もし中世ヨーロッパに電話があったら、というお話。電脳世界まで行き着いていてスケールが大きい。
バロックパンクという趣が新鮮。ハッカーどうしの戦いを見てみたかった。あと、免罪電話に噴いた。
本筋も良かったが、人気歌手の主人口が、作曲家は楽譜が歴史に残ってが羨ましい、という話の顛末がめちゃくちゃ美しかったので引用。
「あなたの歌が何よりも美しいものでも、それが時間とともに消え去って行くのがどれほど悲しいか、私にもよく解るわ。でも、あなたの歌が残るのは、もっと抽象のレヴェルにおいてだと思う。それを聴く全ての人の心に感銘や愛を呼び起こして、それがその人の経験となり、人格の一部となってゆく。芸術家は新たな音楽の霊感を呼び覚まされて、その音楽がまた新しい感銘と愛を作ってゆく。そうでしょう? そしてその音楽は残り、かつてあなたに導かれた霊感を、時を越えて伝えて行く。それでよいのではないかしら」
ムーンシャイン / 円城塔 著
追われる少女、ホワイトボードを囲む教授たち、拳銃をもたされ敵を牽制する私。
共感覚が連鎖する、というアイデアが面白いし、多重人格の次元をこえた数学世界を精神に内在しているスケールが凄い。その中のひとつの数字と会話するのだが、ある意味ファーストコンタクトものでは。人間由来だが、別次元の生物という感じがする。少女が向かう次の世界は人の意識すらなさそうで美しい。
怪奇篇
『なめらかな世界と、その敵』の著者・伴名練が、全力のSF愛を捧げて編んだ傑作アンソロジー。
日常的に血まみれになってしまう奇妙な家族のドタバタを描いた津原泰水の表題作、中島らもの怪物的なロックノベル「DECO-CHIN」、幻の第一世代SF作家・光波耀子の「黄金珊瑚」など、幻想・怪奇テーマの隠れた名作11本を精選。全作解題のほか、日本SF短篇史60年を現代の読者へと再接続する渾身の編者解説1万字超を併録。
DECO-CHIN / 中島らも 著
音楽ライターの主人口が偶然出会ったフリークスバンドに魅入られるお話。
しょっぱなから凄まじいインパクト。さすが怪奇編だぜ。
実は中島らも初読みだが、業界の人が書く文章が生き生きしてて楽しい。
お話のラスト、大団円で終わったが、でも違うんじゃない? フリークスは好きでやってるんじゃないし、もし生まれ変わってもフリークスになるか? って聞かれたらNoだと思う、とか色々考えられて面白い。
黄金珊瑚 / 光波耀子 著
海辺の街で偶然見つかった黄金の樹がどんどん成長し、人を支配してゆくお話。
ホラー枠。クトゥルフみがあって良い。絵面も美しいし。
60年代の作品としり吃驚。
ちまみれ家族 / 津原泰水 著
すぐ怪我し、すぐ流血する家族のお話。
津原泰水がギャグもかけるわい、といって書いたらしいが、先生、センスゼロです(笑)
津原泰水がこんなのも書いてた、という資料的価値はある。
五色の舟とか読んだ後に読んではいけない。
笑う宇宙 / 中原涼 著
とある部屋の中、長男は宇宙船の中だといい、妹は地下だという。両親はどちらともいえない態度を崩さず…。
終始リドルストーリーみたいなヤキモキが続く。さらに閉鎖空間の狂気がつらい。家族なのも余計辛い。さらに答えがないという。。。
雪女 / 石黒達昌 著
低体温症で記憶喪失の女性を治療し、記憶を取り戻そうとする軍医のお話。
架空論文系SF。低体温症と雪女の伝承を絡めているが、真に迫っており素晴らしい読みごたえ。終盤の展開がおぞましくも切なくてよい。
頭良い人の文章で大好き。他作も読むリスト入り。
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